AIアクセラレーターの競争は、演算チップそのものだけでなく、そのチップをどれだけ大きく、どれだけ高密度に、どれだけ安定して一つのパッケージに収められるかへ移っている。TrendForceは、ガラス基板技術が2027年に初期商用化へ入り、2029年までの拡大段階を経て、2030年以降に本格的な大規模量産へ進むとの見方を伝えた。これは単なる材料置換の話ではない。GPUやASICとHBMをより広い面積で接続するAIパッケージが、既存のシリコンインターポーザーや有機基板のコスト、反り、熱、面積効率を同時に押し上げているためだ。
TrendForceが引用したSisa Journalは、NVIDIAとGoogleをガラス基板採用を左右する有力な最終顧客として挙げている。ただし、これは各社の公式採用発表ではなく、部品業界やアナリストの見方として扱うべき情報だ。確度が高い変化は、顧客名そのものよりも、TSMC、Intel、韓国部品メーカーが同じ時間軸へ寄り始めたことにある。TSMCの魏哲家会長は6月4日の株主総会で、CoPoSの試験生産ラインをすでに持っており、量が非常に大きくなるにはなお2〜3年かかるとの趣旨を述べた。2027年の初期商用化、2028〜2029年のCoPoS拡大、2030年の本格量産という見立ては、この発言とほぼ同じ方向を向く。
CoWoSの価格上昇が、ガラス基板を「将来技術」から「コスト対策」へ変える
TSMCのCoWoSは、現在のAIアクセラレーター量産を支える中核的な先進パッケージング技術だ。GPUやASICとHBMを近接接続し、巨大なメモリー帯域を確保するには、前工程の微細化だけでは足りない。TSMCの2026年第1四半期決算説明会でも、先進パッケージング能力は非常に逼迫しており、同社はOSATパートナーとも協力して顧客需要に対応していると説明された。
その逼迫が価格の問題にもつながっている。TrendForceはCommercial Timesの報道を基に、CoWoSウエハーの平均販売価格が約1万ドルに達し、7ナノメートル級の先端プロセスノードに匹敵する水準だと伝えている。TSMCが公式に開示した数字ではないため断定はできないが、先進パッケージングが単なる後工程ではなく、AI半導体の価値配分を左右する高付加価値領域になっていることは読み取れる。
ガラス基板が浮上する理由は、ここにある。従来の有機コア基板は、パッケージが大きくなるほど熱処理時の反りが深刻になり、歩留まりを落としやすい。TrendForceの技術解説によれば、有機コア基板の熱膨張係数はおおむね7ppm/℃で、シリコンの約2.6ppm/℃とずれがある。一方、ガラスは3〜9ppm/℃程度に調整でき、シリコンに近づけられる。さらに低い誘電率、低い誘電損失、高い平坦性を生かして、より細い配線や高密度接続を狙える。
経済面でも、円形ウエハー上に巨大な正方形パッケージを並べる効率の悪さが無視できなくなっている。TrendForceは、パネルレベルパッケージングでは正方形パネルを使うことで面積利用率を75%超へ高められると説明している。AIチップのパッケージ面積が拡大するほど、円形ウエハーの端で失われる面積は増える。ガラスやCoPoSの価値は、材料物性だけでなく、巨大パッケージをより多く、より安く、より安定して作る製造フォーマットにもある。
CoPoSはCoWoSの即時代替ではなく、巨大AIパッケージの次の逃げ道になる
ガラス基板という言葉は一つに見えるが、実際には複数の技術経路が混ざっている。一つは有機コア基板のコア層をガラスに置き換えるガラスコア基板であり、もう一つはシリコンインターポーザーをガラスインターポーザーに置き換える経路だ。TSMCのCoPoSは後者に近く、TrendForceの解説では、同社が2025年に310×310mmのCoPoS製品ラインを示し、2026年にVisEraで最初のミニラインを設け、2027年に小規模試作、2028〜2029年に量産へ進む計画だとされる。
CoPoSが狙うのは、CoWoSで培った2.5D実装を、パネルレベルの生産性と組み合わせることだ。TrendForceが4月に伝えた台湾報道では、TSMCのCoPoS試験ラインは2月に装置搬入が始まり、6月完成が見込まれていた。量産立ち上げは2028〜2029年とみられ、基板サイズが広がるほど反りの問題が大きな量産障壁になるとも指摘されていた。
この流れは、AIチップの大型化と直結する。TrendForceの技術解説では、NVIDIAのBlackwell GPUパッケージは約3.3倍レチクル、次世代Rubinは約4倍、Rubin Ultraは約9倍、GoogleのTPU v9x「HumuFish」は約9.5倍レチクル規模になるとされる。さらにTSMCのCoWoSロードマップでは、2027年に9.5倍、2028年に14倍、2029年以降に14倍超のレチクルサイズが目標として示されている。どの数字がどの製品に結びつくかより、パッケージサイズの拡大そのものが基板技術の選択を変えているという事実の方が重い。
Intelも同じ問題を別の経路で追っている。同社は2023年に、ガラス基板が有機材料の限界を超え、設計ルールを一桁改善し、相互接続密度を最大10倍高め得ると発表した。Intelはデータセンター、AI、グラフィックスのような大面積パッケージを初期用途に想定し、2030年に1兆トランジスタ級パッケージへ向かうロードマップの一部としてガラス基板を位置づけている。TrendForceは別記事で、IntelがRio Ranchoでシリコンフォトニクスを外部顧客へ提供し、CPOと組み合わせたガラス基板試作品も示したと報じているが、商用化時期は2030年前後との見方にとどまる。
韓国勢の投資は、最終顧客の認定を先取りする動きになっている
サプライヤー側では、SKC、Samsung Electro-Mechanics、LG Innotekの動きが目立つ。Sisa Journalは、韓国部品メーカーが最終顧客と量産検証を進め、商用化を急いでいると報じた。特にSKCは最も積極的な投資家とされ、The Elecによれば、同社は最終発行価額ベースで1兆1671億ウォンを調達する有償増資を実施し、ガラス基板子会社Absolicsへの5896億ウォン投資は維持した。
Absolicsは米ジョージア州Covingtonの工場を軸に、ガラス基板の量産歩留まりと顧客信頼性評価を進めている。Sisa Journalは、同社の高性能サーバー・AIアクセラレーター向けガラス基板が、従来の有機インターポーザーに比べて厚さを25%減らし、電力効率を30%以上高められるとの同社説明を伝えている。The Elecはさらに、Absolicsが米国の通信半導体企業へ非埋め込み型ガラス基板の試作品を供給し、新規プロジェクトを始めたと報じた。
Samsung Electro-Mechanicsは忠清南道世宗の拠点でガラス基板パイロットラインを運用し、2027年下半期の量産を目標に、Broadcomなど大手候補顧客との品質評価を進めているとされる。LG Innotekも亀尾にパイロットラインを設け、UTIとガラス強度向上の研究開発で協力している。UTIは折りたたみスマートフォン向けの薄型ガラス加工で知られ、その技術を半導体基板へ広げようとしている。
ここで見える競争は、量産開始日の早さだけではない。ガラス基板は、材料、TGV形成、ダイシング、めっき、検査、仮接合・剥離まで供給網が広い。TrendForceは、TGV装置のLPKF、低熱膨張ガラスのSCHOTT・Corning・AGC・NEG、エッチング・めっきのLam Research、ダイシングのDISCO、検査のOnto InnovationやKLA、仮接合のSUSSやEVGなどを主要プレイヤーとして挙げている。量産に必要なのは一社の基板試作ではなく、この工程群全体が大面積パッケージの歩留まりに耐えることだ。
2030年に向けた最大の関門は、採用発表ではなく歩留まりである
ガラスは平坦で熱的に安定し、シリコンに近い熱膨張係数を取り得る。一方で、硬くて脆い。TrendForceは、量産上の最大課題として「SeWaRe」を挙げている。加工時、特に穴開けやダイシングで生じる微細な割れであり、後工程の試験や実装で破損を引き起こす応力集中点になり得る。ガラス基板がAIパッケージの制約を解くには、物性の優位だけでなく、この加工起因の欠陥を量産コストの範囲で抑え込む必要がある。
TSMCの魏哲家氏も、2026年第1四半期決算説明会で、先進パッケージングでは大型AIチップの機械的応力、反り、熱制約が難題になると認めている。これはガラス基板への追い風であると同時に、ガラス基板が越えなければならない検証項目でもある。2027年の初期商用化が市場の期待通りに始まっても、それは2030年の大規模量産が保証されたことを意味しない。顧客認定、長期信頼性、歩留まり、既存CoWoSとのコスト差が次の判断軸になる。
それでも、ガラス基板が「いつかの技術」から抜け出した意味は大きい。AIインフラ投資は、GPUの枚数やHBMの供給だけでなく、巨大な演算パッケージをどれだけ作れるかに制約され始めた。CoWoSの高騰が事実なら、ガラスやCoPoSは研究テーマではなく、AI半導体の原価構造を変える候補になる。2027年は量産の勝者が決まる年ではなく、どの技術経路が2030年のAIパッケージを支える資格を持つかを市場が見極め始める年になる。