AIチップの消費電力が1,000Wに迫り、従来の空冷では熱密度の限界で演算性能を制限せざるを得ない状況にある。冷却効率の低さは電力コストの増大だけでなく、ハードウェアの寿命を縮める致命的なボトルネックだ。この制約を突破するため、中国がダイヤモンド銅複合材料によるMW(メガワット)級液冷サーバーを2026年4月に実装した。NVIDIAが2028年に達成目標とするMWレベルを2年以上先取りしたこの実装は、AIインフラの設計標準を塗り替える転換点となる。背景にあるのは、技術力だけではなく合成ダイヤモンド供給の独占という戦略的優位だ。

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純銅の2.5倍を超える熱伝導率とチップ性能への定量的影響

純銅の熱伝導率は400W/mKであり、超高密度チップの排熱には限界があった。NIMTE(寧波工業技術学院)はダイヤモンド粒子を銅マトリクスに組み込むことで、1,000W/mKを超える熱伝導率を持つ複合材料を開発した。この素材をチップモジュールに適用した結果、熱伝達能力は80%向上している。

熱の停滞が解消されたことで、チップ自体の演算性能は10%向上した。熱サイクルによる物理的負荷が軽減され、ハードウェアの故障率は20〜30%低下している。エネルギー効率を示すPUE(電力使用効率)は、1.2から1.1未満へ削減できる見込みだ。

銅単体では2,000W/mKのダイヤモンドに遠く及ばないが、複合材にすることでコストと加工性を維持しつつ導熱性能を大幅に引き上げた。製造にはスケーラブルなプロセスと独自の高効率3D複合技術を採用し、分散や表面処理といった量産上の障壁を克服している。

単一キャビネット900kWを処理する「C8000 V3.0」の実装

曙光(Sugon)データクリエーションは2026年4月8日、鄭州で「C8000 V3.0」を発表した。これは世界初のMWレベル相変化液浸液冷フルキャビネットである。単一キャビネットで最大900kWを超える電力を処理し、熱放散能力は200W/cm²に達した。

この数値は従来の液冷システムの3〜5倍に相当する。C8000 V3.0は業界で初めてダイヤモンド銅熱伝導材を大規模に採用し、200W/cm²の電力密度を持つインフラにおいても安定したチップ動作を維持できる。

NVIDIAは2028年リリースのFeynmanアーキテクチャで、単一キャビネットのMWレベル化を目標としている。Sugonの実装は、このロードマップを2年以上先取りした。張鎖江(Zhang Suojiang)は、「AI需要によってコンピューティングセンターはすでにメガワットレベルの時代に突入した」と指摘する。

曙光(Sugon)の何吉生(He Jisheng)社長は発表の場で、「従来の放熱・電源アーキテクチャは物理的な限界に近づいており、サーバー中心からインフラ中心の設計転換が不可欠だ」と述べた。この発言は、メーカーが製品単位の最適化から設備全体の再設計へと軸を移していることを示している。

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世界シェア90%の合成ダイヤモンドを武器にする中国の自給戦略

中国は単結晶ダイヤモンドの生産において、世界全体の90%を超えるシェアを占めている。特に河南省だけで全体の80%を生産する体制を構築済みだ。高品質な放熱材を海外に依存せず、自国で完結させる戦略的な供給網がある。

NIMTEが開発した素材は、江西銅業公司との協力により工業規模の量産体制が整備された。この「素材開発→量産化→サーバー実装」という垂直統合モデルが、開発サイクルの短縮を可能にした。グローバルなダイヤモンド放熱市場は、2028年までに172億〜483億人民元に達すると予測される。

IDCの予測では、中国の液冷サーバー市場は2024年から2029年にかけてCAGR(年平均成長率)46.8%で成長し、2029年には162億ドル規模に拡大する。NIMTEが設立したオープンラボは、チップメーカーやサーバーメーカーにテスト環境を提供し、国産AIインフラのエコシステムを構築する拠点だ。江西銅業公司との連携で量産体制が整ったことで、ダイヤモンド銅材の価格競争力も向上している。

中国の先行実装とグローバル企業のロードマップにおける時間差の要因

NVIDIAはGTC 2026でPUE 1.1以下の目標を掲げ、Vera RubinアーキテクチャのGPUから100%液冷を採用する。GoogleのTPU v7も単チップ消費電力が980Wに達し、液冷導入が必須となる。しかし、これらのグローバル企業によるダイヤモンド液冷の実装は2028年以降が中心だ。

米国Akash Systemsはダイヤモンド薄膜をGaN(窒化ガリウム)チップに直接成長させ、温度を20℃低下させた。TSMCはダイヤモンドインターポーザーの3D積層を検討し、欧州IMECはダイヤモンドマイクロチャンネルのテストを進行している。これらのアプローチは、チップレベルの微細な最適化に重点を置いている。

対して中国は、素材の量産能力を背景にキャビネット単位のインフラ実装を優先した。個別チップの微細な最適化と並行して、MW級インフラの先制実装を優先したことが、2年の時間差を生んだ要因だ。供給網の支配権が、設計思想のスピードに直接的な影響を与えている。

中国による先行実装は、AIインフラの物理標準を「MWレベル」に固定し、後発のグローバル企業にその基準への追従を強いる。素材供給を独占する中国に対し、他国が同様の密度を実現するには、合成ダイヤモンドの自給能力構築という課題への対処が求められる。これは単なる技術競争ではなく、AIインフラの支配権争いの前哨戦だ。NVIDIAやGoogleは2年の遅れを取り戻すため、中国からのダイヤモンド調達に依存するか、代替素材への巨額投資を強いられる。


Sources