動画ストリーミング企業Netflixは12月23日、半導体大手Broadcomとその子会社VMwareを相手取り、仮想マシン技術に関する特許侵害で訴訟を提起した。この動きは、2018年から続く両社間の特許紛争に新たな展開をもたらすものとなる。
訴訟の詳細と技術的背景
今回の訴訟でNetflixが主張する特許侵害は、クラウドコンピューティングの基盤技術である仮想マシンに関するものだ。仮想マシンとは、物理的なコンピュータ上で別のコンピュータのオペレーティングシステムを動作させる技術で、クラウドサービスの効率的な運用に不可欠な要素となっている。
問題とされている特許は、HPが開発した5件の特許技術であり、その中核となるのは、仮想マシンにおけるCPU使用率の管理に関する3件の特許だ。これらの特許は、共有リソースのデバイスドライバーが存在する分離されたドライバードメインにおける、対応する仮想マシンのCPU使用率を正確に計測・管理する技術を保護している。残る2件は、物理マシン上での仮想マシンの起動とロードバランサーによる管理、そして複数の仮想マシンをグラフィカルユーザーインターフェースを通じて遠隔制御する技術に関するものだ。
特に注目すべき点は、NetflixがVMwareによる「故意の特許侵害」を主張している事実だ。訴状 [PDF]によれば、VMwareは2012年に自社特許(米国特許第8,650,564号)の審査過程において、米国特許商標庁の審査官からNetflixの特許を引用され、その存在を認識していたという。これが認められれば、賠償額の算定に大きな影響を与える可能性がある。
侵害が申し立てられている製品群は広範に及ぶ。VMware自社製品のvSphere FoundationやCloud Foundationに加え、Amazon Web Services上で展開されているVMwareのクラウドサービスも対象となっている。さらに、Microsoft、Google、Oracle、IBM、Alibabaといった主要クラウドプロバイダーが提供するソリューションも含まれており、業界全体への影響が懸念される。
この訴訟の特徴的な点は、対象となる技術が現代のクラウドインフラストラクチャの根幹に関わるものだという点だ。仮想マシン技術は、クラウドサービスにおけるリソースの効率的な配分や、サービスの拡張性を確保する上で不可欠な要素となっている。そのため、この訴訟の行方は、クラウドコンピューティング業界全体の技術開発や事業展開に大きな影響を与える可能性を秘めている。
長期化する特許紛争の背景
今回のNetflixによる提訴は、2018年から続く両社間の特許紛争において、新たな転換点となる出来事だ。この紛争は、ストリーミングサービスの台頭によって従来のケーブルテレビ市場が縮小する中で勃発した。
紛争の発端は、新型コロナウイルスのパンデミック初期にまで遡る。2020年3月、Broadcomは、Netflixのストリーミングサービスが自社の特許を侵害しているとして訴訟を提起した。Broadcomの主張によれば、Netflixのオンデマンドストリーミングサービスの台頭により、従来のケーブルテレビサービスに不可欠なセットトップボックス用半導体チップの市場が著しく縮小し、自社のビジネスに「実質的かつ回復不能な損害」をもたらしたとされる。
その後、この特許紛争は国際的な広がりを見せることとなる。Broadcomはドイツやオランダでも訴訟を展開し、特にドイツでは一時的な勝利を収めた。2023年12月、ミュンヘン第一地方裁判所はNetflixに対して705万ユーロの制裁金を科す判決を下した。これは、Netflixが特許侵害を回避したと主張しながらも、実質的には侵害を継続していたと判断されたためである。
しかし、2024年に入ると状況は大きく変化する。7月18日、ドイツ連邦特許裁判所はBroadcomの動画コーディングに関する特許(EP2575366)を無効と判断。ドイツの特許法制度では、特許の無効判決は遡及的な効力を持つため、これまでに科された制裁金も覆される結果となった。さらに追い打ちをかけるように、わずか5日後、米連邦巡回控訴裁判所もNetflixに有利な判決を下し、特許審判部がBroadcom側に立って下した判断を覆した。
Broadcomの特許訴訟戦略は、他社との紛争でも苦戦を強いられている。2024年8月には、統一特許裁判所(UPC)においてTeslaとの訴訟で立て続けに敗訴。まず8月26日にハンブルク地方部で、続いて8月30日にはミュンヘン地方部でも敗訴が確定した。これは、かつてVolkswagen/Audiとの特許紛争で約10億ユーロの和解金を獲得した実績を持つBroadcomにとって、大きな転換点となっている。
このような状況下で提起されたNetflixによる今回の訴訟は、単なる反訴以上の戦略的意味を持つと見られる。特に、Broadcomが2023年に690億ドルという巨額で買収したばかりのVMwareの中核技術を標的としている点は、紛争解決に向けた新たな圧力として機能する可能性がある。なお、Broadcomが提起した対Netflix訴訟の米国での裁判は2025年6月に予定されており、両社の特許紛争は新たな段階に突入することになる。
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