Elon Musk氏率いる脳コンピューターインターフェース(BCI)企業Neuralinkが、2人目の人間被験者への脳インプラント手術に成功したことを発表した。「Alex」と呼ばれるこの被験者は、脊髄損傷により四肢麻痺の状態にあったが、インプラントを用いてウェブ閲覧や3Dデザイン、さらには人気FPSゲーム『Counter-Strike 2』のプレイまでこなしている。この成功は、BCIテクノロジーの急速な進歩と、デジタル・テレパシーの実現に向けた大きな一歩を示す驚異的な成果と言えるだろう。
Alexの驚異的なゲームプレイ体験
Neuralinkが開発したBCIデバイス「Link」は、64本の柔軟な電極スレッドを持つ頭蓋内インプラントである。これらのスレッドは脳組織に挿入され、ニューロンの電気活動を読み取る。手術は専用の手術ロボットによって行われ、各スレッドを正確に配置することで実現する。
Alexへの手術は、アリゾナ州のBarrow Neurological Instituteで実施された。Neuralinkの報告によると、手術後わずか5分以内にAlexは思考だけでカーソルを操作し始めたという。その後、彼はWebブラウジングやCADアプリケーションを使用した3Dデザインを行えるようになった。
特筆すべきは、Alexが『Counter-Strike 2』をプレイできるようになったことだ。以前は「QuadStick」と呼ばれる口で操作するコントローラーを使用していたが、現在は思考だけでゲームをプレイすることができる。Alexは自身の体験について次のように語っている:
「ただ走り回るだけでもとても楽しいです。横を向くときに、QuadStickを左右に動かす必要がないんです…見たい方向を思い浮かべるだけで、そこに視点が向くんです。信じられないくらいです」。
この新しいインターフェースにより、Alexはゲーム内でより自然な動きと狙いを実現できるようになった。従来のQuadStickでは、移動と照準を切り替えながら操作する必要があったが、Linkを使用することで、より直感的かつ迅速な操作が可能になったのである。
Neuralinkの技術者たちは、さらなる機能の拡張に取り組んでいる。複数のクリックや同時動作の意図を解読する機能の開発を進めており、将来的にはロボットアームや電動車椅子の制御にも接続することを目指している。これらの進歩により、BCIユーザーの日常生活における自立性と行動範囲が大幅に拡大することが期待される。
Alexのケースは、Neuralinkの技術が単なるゲームプレイの改善にとどまらず、生活の質を大きく向上させる可能性を示している。彼は元自動車技術者であり、ものづくりを再び楽しめるようになったことを喜んでいる。すでにNeuralinkの充電器用のカスタムマウントを3Dプリンターで製作するなど、創造的な活動も再開している。
しかし、Neuralinkの技術にはまだ課題も残されている。初めての人間被験者であるNoland Arbaugh氏の経験から、電極スレッドが脳から徐々に後退する「スレッド後退」という問題が明らかになった。Neuralinkはこの問題に対処するため、Alexの手術では電極スレッドを様々な深さに埋め込み、頭蓋骨の形状を調整してインプラントを脳により近づけるなどの改善を行った。その結果、現時点でAlexのインプラントにスレッド後退は観察されていないという。
Neuralinkの2人目の被験者となったAlexの成功は、BCIテクノロジーの未来に大きな希望をもたらすものだ。Elon Musk氏は、「すべてが順調に進めば、数年以内に数百人、5年以内に数万人、10年以内に数百万人がNeuralinkを使用するようになるだろう」とX(旧Twitter)で述べている。
この技術の進歩は、四肢麻痺や筋萎縮性側索硬化症(ALS)など、さまざまな神経疾患を持つ人々の生活を大きく改善する可能性を秘めている。実際、カリフォルニア大学デービス校の科学者たちは、ALSを患う男性の脳内の音声関連領域からの神経信号を解読し、AIの助けを借りて彼の声を再現することに成功している。
Neuralinkの挑戦は、人間の能力拡張と医療技術の革新という、かつて想像もできなかった未来への扉を開きつつある。しかし、この技術の倫理的な側面や長期的な影響については、今後も慎重な議論と検討が必要となるだろう。
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