HDMI Forumは、次世代HDMI規格となるHDMI 2.2を正式発表した。新規格は現行のHDMI 2.1から帯域幅を倍増させ、96Gbpsという圧倒的な転送速度を実現。新たな「Ultra96」認証ケーブルの導入と共に、2025年前半からの採用開始を予定している。
「HDMI 2.2」規格の主な特徴
「HDMI 2.2」規格における最大の技術的進展は、従来のHDMI 2.1が持つ48Gbpsから96Gbpsへと倍増した帯域幅である。HDMI Forum会長のChandlee Harrell氏は「HDMIエコシステムの高性能化への需要に応えるため、新規格の開発を進めてきた」と、開発の背景を説明している。
帯域幅の大幅な向上に伴い、次世代HDMI Fixed Rate Link技術も新たに実装された。これにより、コンテンツ制作者は映画やゲーム、テレビ番組において、より高品質なコンテンツを制作・配信できる環境が整備される。特筆すべきは、エンドユーザーの視聴環境に応じて、デバイスが最適な映像フォーマットを自動的に選択し、シームレスで信頼性の高い視聴体験を提供できる点である。
音声と映像の同期精度を向上させる新機能として、「Latency Indication Protocol(LIP)」も搭載された。この技術は特に、サウンドバーやAVレシーバーを介した複数機器構成において効果を発揮する。具体的には、ヘッドフォン使用時やeARC接続されたサウンドバー、さらにテレビとレシーバーが混在する複雑なシステム構成においても、音声と映像の同期ずれを最小限に抑制することが可能となった。
さらに、デジタルサイネージや医療用画像機器、産業用機械視覚システムといった専門分野における高解像度・高リフレッシュレート要求にも対応。特にAR/VR/MR、空間現実、ライトフィールドディスプレイなどのデータ集約型アプリケーションにおいて、より没入感の高い体験を実現できる仕様となっている。これらの機能は、将来的なディスプレイ技術の進化も見据えた拡張性を備えている。
Ultra96ケーブルの導入
HDMI 2.2の性能を最大限に引き出すためには、新たに策定された「Ultra96」認証ケーブルの使用が必須となる。これは単なる名称変更ではなく、新規格に対応した厳格な品質基準を満たすケーブルであることを示す認証制度の一環である。物理的なコネクタ形状は従来のHDMIと同一規格を維持しており、既存の接続端子との後方互換性を確保している。
品質管理の面では、従来以上に厳密な認証プロセスが導入される。HDMI Forumは各ケーブルについて、モデルごとの長さ別に試験と認証を実施。合格した製品のみが「Ultra96認証ケーブル」として認定され、専用の認証ラベルが付与される仕組みとなっている。特筆すべきは、新たに導入されるQRコードベースの認証システムだ。消費者はスマートフォンのカメラでQRコードを読み取ることで、そのケーブルが正規の認証を受けた製品であるかどうかを即座に確認できる。
この厳格な認証制度の背景には、HDMI 2.1世代で発生した互換性の問題や、市場に出回った偽造ケーブルへの反省がある。特に96Gbpsという高速データ転送に対応するケーブルでは、わずかな品質のばらつきが信号伝送の安定性に大きく影響する。HDMIフォーラムは、Ultra96認証制度を通じて、高品質な製品の普及と、消費者が安心して製品を選択できる環境の整備を目指している。
一方で、現行のHDMI 2.1b対応の Ultra High Speed HDMIケーブルは引き続き使用可能だが、その場合は新規格がもたらす高帯域幅などの恩恵を十分に受けることはできない。つまり、HDMI 2.2の機能を完全に活用するためには、Ultra96認証ケーブルへのアップグレードが必要となる。この移行には一定のコストが発生することが予想され、特に大規模なシステムを運用する業務用途では、導入時期の慎重な検討が必要となるだろう。
応用分野と展望
新規格は、AR/VR/MR、空間現実、ライトフィールドディスプレイなどの没入型アプリケーションや、大規模デジタルサイネージ、医療画像、機械視覚といった商業用途での活用が期待される。
なお、現行のHDMI 2.1b規格でも、8K/60Hz(8ビット色深度)の非圧縮信号や、12ビット色深度での圧縮10K/120Hz信号の伝送が可能となっている。
Xenospectrum’s Take
7年ぶりの大型アップデートとなるHDMI 2.2だが、現時点で一般消費者がその恩恵を受けられる用途は限定的だ。むしろ注目すべきは、業務用途での活用可能性だろう。医療画像や機械視覚など、高精細・低遅延が要求される分野での採用が、規格普及の起爆剤となる可能性が高い。
ただし、2022年にDisplayPort 2.1が登場し、2024年には80Gbps対応のバージョン2.1aが発表されているなど、競合規格との熾烈な競争も予想される。新規格の実装には相応のコストが必要となることから、民生機器への普及には慎重な見方も必要だろう。
Source
コメント