米モバイルゲーム大手Scopelyは、『ポケモンGO』などの位置情報ゲームで知られるNianticのゲーム部門を35億ドル(約5300億円)で買収すると発表した。Nianticは別途3.5億ドルを株主に追加し、総額では38.5億ドルの取引となる。Nianticは創業者のJohn Hanke氏が率いる新会社「Niantic Spatial」として地理空間AIとAR技術に特化した事業へと転換する一方、Scopelyは『ポケモンGO』を含む人気ゲームとその開発チームを獲得し、月間3000万人以上のプレイヤーを持つゲームポートフォリオをさらに強化する。
ポケモンGOなど人気タイトルがScopely傘下に
今回の取引では、『ポケモンGO』、『Pikmin Bloom』、『Monster Hunter Now』の3つの主力ゲームとその開発チーム、さらにCampfireとWayfarerというコミュニティ向けアプリがScopelyの傘下に入る。Nianticのゲーム開発者全員がScopelyの2300人の従業員に合流し、長年のリーダーである河合敬一氏とEd Wu氏のもと、既存ゲームの開発を継続する。
一方、Nianticは地理空間AI技術とAR技術に特化した新会社「Niantic Spatial」として再出発する。創業者であるJohn Hanke氏がCEOを務め、Nianticから2億ドル、Scopelyから5000万ドルの計2.5億ドルの資金で設立される。Niantic Spatialは、同社初のゲームIngress Primeとペットシミュレーターゲーム『Peridot』の運営を継続する。
Scopelyの最高収益責任者Tim O’Brien氏は「Nianticのゲーム組織は、人々を結びつけるという点で世界最高のチームの一つです。チームが過去10年間に構築したもの、特に広大で持続的なグローバルオーディエンスを魅了し、人々を実世界に連れ出す革新的な体験に非常に感銘を受けています」とコメントした。
Niantic創業者のJohn Hanke氏は「Nianticのゲームは常に人々を結びつけ、探検を促すための架け橋でした。Scopelyは素晴らしいライブサービスの構築と運営に対する私たちの焦点を共有し、世界最大かつ最も愛されている知的財産と協力してきた優れた経験を持ち、プレイヤーコミュニティとゲーム制作チームを深く気にかけています」と述べている。
ポケモンGOの継続的成功とNianticゲームの実績
ポケモンGOは2016年のリリース以来、モバイルゲーム市場で稀にみる長期的成功を収めている。現在も週間アクティブプレイヤー数2000万人以上を維持し、2024年には1億人以上のユニークプレイヤーを獲得。190カ国以上でプレイされ、ユーザーは1日平均40分をゲームに費やし、約半数が週7日ゲームに戻ってくるという高いエンゲージメントを誇る。これまでにトレーナーたちは累計300億マイル以上を探索している。
リアルイベントも大きな成功を収めており、2024年のポケモンGOフェストでは200万枚のチケットが販売された。イベント開始以来、参加者たちは1億5000万体以上のポケモンを捕獲している。
Nianticの他のゲームも成長を続けている。2021年にNintendoと協力してリリースしたPikmin Bloomは2024年に記録的な年を迎え、ローンチから3年以上経過した後も最高のアクティブプレイヤー数を記録。2024年にはプレイヤーたちが合計3.94兆歩を歩いた。
最新ゲームのMonster Hunter Nowは2023年9月のリリース以来、特に日本で人気を博し、わずか7ヶ月で1500万ダウンロードを達成。オーディエンスの50%以上が週7日プレイするという高いエンゲージメントを示している。
Nianticのゲーム事業は2024年に10億ドル以上の収益を上げている。
Nianticの事業転換と地理空間AI技術への集中
Nianticは今回の売却で、地理空間AI技術とAR技術の開発に事業の焦点を絞る。同社は2015年にGoogleからスピンオフした際、「テクノロジーを使って世界に豊かなデジタル体験を重ねる」というビジョンを掲げていた。
しかし近年、ポケモンGO以降の新作ゲームは同等の成功を収めることができず、パンデミック以降はNBA、ハリー・ポッター、マーベルなどの高額プロジェクトを中止し、数百人の従業員を解雇するなど苦戦していた。
新会社Niantic Spatialは「人々と機械が実世界をより良く理解し、ナビゲートし、関わるための空間インテリジェンス」の構築を目指すという。特に注力するのは2021年にToolbox AIから買収した3Dスキャンツール「Scaniverse」と、2022年にリリースした位置情報をセンチメートル単位で特定できるVisual Positioning System(VPS)だ。
これらの技術は物流、建設、エンターテイメントなどの産業向けAIソリューションの開発に活用される見込みで、同社は実世界の3Dマップ構築に注力する。
業界への影響と懸念事項
今回の買収によって、Scopelyは2024年に単年で5億人以上のプレイヤーを持つ、世界最大級のゲームコミュニティを形成することになる。
なお、Scopelyはサウジアラビアのゲーム企業Savvy Gamesが所有している。サウジアラビアは近年、ゲーム産業への参入を強化しており、同国の国富基金は任天堂、Activision Blizzard、EAなどの大手ゲーム企業の株式を取得している。サウジアラビアはゲーム業界の「究極のグローバルハブ」になることを目指している。
Scopelyは『MONOPOLY GO! 』『Stumble Guys』『Star Trek Fleet Command』『MARVEL Strike Force』などのモバイルゲームで知られるが、一部では過剰な収益化方法が問題視されており、「pay-to-win」(課金すれば勝てる)と批判されることもある。
これを受けて一部のポケモンGOプレイヤーは、Scopelyが同様の収益化モデルを導入することを懸念し、買収が実現すればゲームをやめると警告しているという。
ポケモンGO担当上級副社長のEd Wu氏は「私たちのミッションは明確です:人々が実世界でポケモンを一緒に発見するよう促すことです。Scopelyの全面的なコミットメント、経験、リソースにより、ポケモンGOを可能な限り最高のものにしていきます」と述べ、ゲームの方向性は維持されるとしている。
この取引は規制当局の承認を含む通常の完了条件を満たす必要があり、最終的な完了までには時間がかかる見込みだ。
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