米国テキサス州の連邦地方裁判所に、GPUの巨人NVIDIAを揺るがす訴訟が持ち込まれた。データ処理ユニット(DPU)技術の開発者であるXockets社が、NVIDIAとMicrosoftを相手取り、特許侵害と反トラスト法違反で提訴したのだ。この訴訟は、NVIDIAの次世代GPU「Blackwell」の発売に影響を与える可能性があり、事態の推移によってはAI産業に大きな影響を与える事にもなりかねない。
Xocketsの訴訟内容とDPU技術の重要性
Xocketsは2024年9月5日、NVIDIAとMicrosoft、そしてIPリスク管理会社のRPXを相手取り、連邦反トラスト法違反と特許の故意侵害を理由に訴訟を起こした。訴状によると、NVIDIAとMicrosoftは、RPXを介して違法なカルテルを形成し、XocketsのパテントされたDPU技術の公正な市場価格の支払いを回避しようとしているという。
DPU技術は、クラウドデータセンターにおけるAIとアクセラレーション・コンピューティングを可能にする重要な要素だ。Xocketsの共同創設者であるParin Dalal博士は、2010年代初頭にこの新しいクラスのクラウドプロセッサーを発明し、2012年5月に最初の特許を申請した。この技術は、セキュリティ、ネットワーキング、ストレージなどのデータ集約型ワークロードをクラウドにオフロードすることを可能にし、AI生成のための大規模言語モデルのトレーニングも実現している。
NVIDIAの現行クラウドシステムには、BlueField、ConnectX、NVLink SwitchというXocketsの特許技術に基づいた3つの異なるDPUが搭載されているとされる。Xocketsは、これらの技術がNVIDIAのAIサーバー市場独占とMicrosoftのAIプラットフォーム市場独占を可能にし、両社の成功と時価総額に決定的な役割を果たしていると主張している。
Xocketsの取締役会メンバーで、IPの投資家であり専門家のRobert Cote氏は、「NVIDIAとMicrosoftは、AIにおける支配力と市場支配力を乱用し、自社製品で使用されている他者のイノベーションにほとんど、あるいは全く対価を支払わないようにしています」と述べ、両社の行為を巨大テック企業の「略奪的侵害」戦略の一部だと非難している。
訴訟がNVIDIAのBlackwell製品と業界に与える影響
この訴訟は、NVIDIAの次世代GPU「Blackwell」の発売に重大な影響を与える可能性がある。Xocketsは、NVIDIAの新しいBlackwell GPU対応AIコンピューターシステムの発売を差し止める仮処分を求めており、NVIDIAは今秋から顧客への出荷を開始すると発表していただけに、この訴訟は同社の計画に大きな支障をきたす可能性がある。
さらに、MicrosoftのBlackwellシステムを使用した生成AIプラットフォームの利用も差し止めの対象となっている。これは、AI業界全体に広範な影響を及ぼす可能性がある。NVIDIAのGPUは現在のAI革命の中心的な役割を果たしており、その供給に支障が生じれば、多くのAI関連プロジェクトや企業に影響が及ぶことは避けられない。
Xocketsは、違法なカルテル行為の停止と特許侵害の差し止めに加え、法律で認められる最大限の損害賠償も求めている。この訴訟の結果次第では、NVIDIAとMicrosoftの両社に巨額の賠償金支払いが命じられる可能性もある。
業界専門家らは、この訴訟がNVIDIAとMicrosoftだけでなく、Broadcom、Intel、AMD、Marvell、Napatech、Amazonなど、同様の技術を開発している他の企業にも波及する可能性があると指摘している。DPU技術の重要性が増す中、この訴訟の行方は業界全体から注目されている。
現在、裁判所によって、9月19日に仮処分の審理を行うことが決定している。この審理の結果によっては、NVIDIAのBlackwell GPU発売計画に即座に影響が出る可能性がある。NVIDIAはコメントを控えているが、Xocketsの特許の有効性に異議を唱える可能性が高いと見られている。
この訴訟は、技術革新と知的財産権保護のバランスという、AI時代の重要な課題を浮き彫りにしている。NVIDIAとMicrosoftのような巨大テック企業と、Xocketsのような革新的なスタートアップとの間の力関係も問われることになるだろう。今後の裁判の進展次第では、AI産業の勢力図が大きく塗り替えられる可能性もあり、業界関係者は固唾を呑んで事態の推移を見守っている。
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