NVIDIAの次世代フラッグシップGPU「GeForce RTX 5090」が、従来モデルを凌駕する性能を維持しながら、画期的な小型PCB設計と液体金属冷却システムを採用していることが明らかになった。575Wという高い消費電力を効率的に制御するため、独自の3分割PCB設計と液体金属TIMを実装している。
革新的な3分割PCB設計で実現した省スペース化
RTX 5090のメインPCBは、92億トランジスタを搭載するGB202チップと32GBのGDDR7メモリを驚くほどコンパクトなサイズに収めることに成功した。メモリチップのパッケージサイズ(14mm×12mm)を基準に比較すると、前世代のRTX 4090と比べて大幅な小型化を実現していることが一目瞭然である。この省スペース化は、PCB設計の根本的な見直しによって達成された。
電力供給システムも大幅に強化されている。30フェーズVRM(電圧制御モジュール)は、前モデルの23フェーズから大きく進化し、575Wという極めて高い電力需要に対して安定した供給を実現している。電源コネクタには12V-2×6を採用し、最大600Wまでの供給能力を確保。この強力な電力供給システムにより、GPUとメモリに対して安定したクリーンな電力を供給し、スパイクやドロップを最小限に抑えている。
3分割PCB設計の真価は、機能の物理的な分離にある。メインPCBからディスプレイ出力、PCIeグリッド、ファンコネクタを別基板に分離することで、信号の干渉を最小限に抑え、電力供給の安定性を向上させている。この設計思想は、GeForce 8800 GTX/Ultra(G80 GPU)の時代にまで遡るNVIDIAの経験則を活かしたものだ。
特に注目すべきは、この分割設計がもたらす将来的な拡張性だ。ディスプレイエンジンをGB202 GPUから分離することで、シリコンの面積を演算処理に最適化できる可能性が開かれた。これにより、サーバー向けモデルではディスプレイ出力を省略したり、OEMメーカーが異なるディスプレイ出力構成を提供したりすることが可能になる。
液体金属TIMによる革新的な冷却設計
RTX 5090 Founders Editionは、前モデルと同一の外形寸法(304mm×137mm)を維持しながら、厚みを2スロットにまで抑える画期的な小型化を実現した。この成果の背景には、PCB設計の革新に加えて、冷却システムの根本的な見直しがあった。その核心となるのが、液体金属TIM(Thermal Interface Material)と新設計のダブルフロースルー冷却システムの組み合わせである。
冷却システムの中核を担う液体金属TIMは、一般的にガリウム、インジウム、スズの合金で構成される。この素材は従来のサーマルペーストと比較して卓越した熱伝導性を持ち、GPUダイからヒートシンクへの熱伝達効率を大幅に向上させる。この特性は、575Wという極めて高い熱出力を効率的に処理する上で重要な役割を果たしている。
しかし、液体金属TIMの採用には重大な技術的課題が伴う。最も深刻なのは電気伝導性による短絡(ショート)のリスクだ。また、アルミニウムなど特定の金属との接触による腐食の可能性も無視できない。これらの課題に対して、NVIDIAは綿密な設計と製造プロセスの確立により対応したとみられる。
新設計のダブルフロースルー冷却システムは、前世代のシングルフロースルー方式から進化を遂げている。液体金属TIMと組み合わせることで、薄型化と高い冷却性能の両立を実現した。このような革新的な冷却設計の採用は、高性能GPUの設計における新たな可能性を示唆している。
Xenospectrum’s Take
NVIDIAの今回の挑戦は、高性能GPUの設計哲学に一石を投じるものだ。3分割PCB設計は、単なる小型化への対応ではなく、将来的なGPUアーキテクチャの模索とも捉えられる。特に、ディスプレイエンジンの分離は、サーバー向けやカスタム製品への展開を見据えた戦略的な判断かもしれない。
液体金属TIMの採用は、リスクを取ってでも性能を追求するNVIDIAの姿勢を示している。ただし、PCメーカーの採用については、信頼性テストの結果を慎重に見極める必要があるだろう。結果として、この挑戦的な設計が業界標準となるか、興味深い実験として記憶されるか、今後の展開が注目される。
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