OpenAIは、米国のAI競争力強化に向けた包括的な政策提言「米国AIインフラ整備の青写真」を発表した。AI開発に必要な電力・データセンター整備を加速する「AI経済特区」の創設や、送電網整備を目的とした「国家送電高速道路法」の制定など、5つの重点施策を提示。中国との技術覇権競争を見据え、政府主導での大規模インフラ投資を求める内容となっている。
AI経済特区構想の全容
OpenAIが提案するAI経済特区は、州政府と連邦政府が共同で設置する特別区域だ。データセンターや発電施設の認可・許可手続きを迅速化し、AI開発に不可欠なインフラ整備を加速することを目的としている。
特区内では、休止中の原子炉の再稼働や、新規の風力・太陽光発電所の建設も想定されている。OpenAIのグローバル政策責任者であるChris Lehane氏は、特区設置によって得られる計算能力の一部を地域の大学や企業に割り当てることで、地域経済への波及効果も期待できると説明している。
包括的なインフラ整備戦略
OpenAIが提案する戦略の核心は、AIインフラ整備を国家プロジェクトとして推進することにある。その中核となるのが、「国家送電高速道路法」の制定だ。この法案は1956年の州間高速道路法を模範としており、送電網、光ファイバー網、天然ガスパイプラインの大規模な整備を目指している。同社は現行の計画・許可・支払いに関する手続きが、AI産業の急速な成長に追いついていないと指摘する。
インフラ整備の資金調達においては、政府による支援体制の確立を提唱している。具体的には、民間投資家がエネルギーインフラプロジェクトに投資しやすい環境を整えるため、政府がエネルギー購入を確約するなど、信用リスクを軽減する施策の導入を求めている。これに加えて、データセンターの管理運営やエネルギーインフラの保守に従事する専門人材の育成プログラムの整備も重要な要素として挙げられている。
さらに同社は、北米規模でのAI開発協力体制の構築を提案している。「北米AI同盟」と名付けられたこの構想は、米国、カナダ、メキシコの3カ国で資本、サプライチェーン、人材を効率的に活用する経済圏の形成を目指す。将来的には、UAEなど湾岸協力理事会諸国との協力関係への拡大も視野に入れており、中国に対抗する国際的なAI開発ネットワークの構築を企図している。
特筆すべきは、米海軍の原子力技術の民生利用に関する提案だ。同社は、中国が10年間で米国の40年分に相当する原子力発電能力を構築した事実を指摘しつつ、米海軍が運用する約100基の小型モジュール炉(SMR)の技術を民間発電所の整備に活用することを提案している。この構想は、AIインフラに必要な大規模電力需要への対応と、原子力技術における米国の優位性維持を同時に実現しようとする野心的な試みと言える。
この包括的な戦略について、Chris Lehane氏は、中西部や南西部といった、これまでデジタル経済の恩恵から取り残されてきた地域にも大きな経済的機会をもたらすと強調している。例えば、農業データが豊富なカンザス州やアイオワ州でデータセンターを設立し、地域の大学システムと連携して農業特化型のAIモデルを開発することで、地域に根ざしたAI産業の発展が可能になると説明している。
Xenospectrum’s Take
OpenAIの提言は、米国のAI覇権維持という切実な危機感の表れだ。2030年までに50ギガワットという途方もない電力需要予測は、AI開発競争の激化を如実に物語っている。
しかし、この壮大な構想には現実的な課題も山積している。環境影響評価や地域住民との合意形成、そして何より巨額の財政支出の是非について、熾烈な議論は避けられないだろう。「デジタル版ニューディール」とも呼ぶべきこの提案が、果たして超党派の支持を得られるか。米国の技術政策の転換点となる可能性を秘めた挑戦的な提言と言えよう。
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