OpenAIとGoogleが、著作権で保護された素材をAIモデルのトレーニングに使用することを「フェアユース」として明確に認めるよう米政府に要請している。両社はTrump政権の「AI Action Plan」策定に向けた提案で、中国との技術競争を背景に、この措置が米国のAI開発における優位性維持に不可欠だと主張している。
「学習の自由」を求めるAI企業の戦略
OpenAIとGoogleは3月、ホワイトハウス科学技術政策局(OSTP)に提出した提案書で、AIトレーニングにおける著作権問題に焦点を当てた。
OpenAIはこれを「学習の自由を促進する著作権戦略」と位置づけ、「連邦政府は、著作権のある素材からAIが学習する米国人の自由を確保し、米国のAIモデルが著作権のある素材から学習する能力を維持することで、AI主導権を中国人民共和国(PRC)に譲ることを避けることができる」と主張している[PDF]。
Googleも同様に「フェアユースとテキスト・データマイニングの例外は、AIシステムが先行知識や公開データから学習するために不可欠」と強調。「これらの例外により、著作権のある公開素材をAIトレーニングに使用しても、権利者に大きな影響を与えることなく、モデル開発や科学実験における予測不可能で不均衡な長期交渉を回避できる」と説明している[PDF]。
両社はAIトレーニングが著作権素材を「変形的に使用」しており、これがフェアユースの原則に合致すると主張。OpenAIは「当社のモデルは公衆による消費のために作品を複製するようには訓練されておらず、代わりに作品から学習し、パターン、言語構造、文脈的洞察を抽出する」と説明している。
国家安全保障問題として位置づけられる著作権議論
OpenAIの提案で特に注目されるのは、著作権問題を国家安全保障と直接結びつけている点である。
「中国のDeepSeekの急速な進歩などは、米国のAIにおけるリードが広くなく、狭まっていることを示している」とOpenAIは警告し、「中国のAI開発者が著作権データを含む無制限のデータアクセスを享受する一方で、米国企業がフェアユースによるアクセスを失えば、AI競争は事実上終わる」とまで主張している。
OpenAIは「著作権のある作品でのトレーニングがフェアユースとみなされなければ、AI競争は『終わった』」と宣言。同社は現在The New York Timesから起こされている著作権侵害訴訟など、数十件の訴訟を抱えており、裁判所での敗訴を避けるためにTrump政権に頼っているとの見方もある。
そして、こうした主張には「OpenAIは盗みを合法化するよう米国政府に要求している」とする意見も多い。
著作権者からの反発と増加する訴訟
このようなAI企業の主張に対する著作権者からの反発も強まっている。The New York Times、Chicago Tribune、New York Daily Newsなどの報道機関はOpenAIを著作権侵害で提訴しており、Sarah SilvermanやGeorge R.R. Martinなどの著名な作家からも法的措置が取られている。
すでに一部の裁判では権利者側に有利な判断も出始めている。ある判例では、裁判官が「AIトレーニングはフェアユースではない」と判断し、AI出力が明らかにThomson Reutersの法律研究会社Westlawの市場を脅かすと指摘した。
ImmuniWebのCEO兼サイバーセキュリティの准教授であるIlia Kolochenko氏は「著作権のあるコンテンツを使ってトレーニングされた強力なLLMモデルの全著者に本当に公正な報酬を支払うことは、おそらく経済的に実行不可能だろう」と指摘し、「AI技術のための特別な制度や著作権例外を提唱することは滑りやすい坂道である」と警告している。
国際的な規制環境との対比
OpenAIとGoogleは、米国のフェアユース原則がAIイノベーションを促進してきたと強調する一方、EU(欧州連合)など他地域の規制アプローチを批判している。
OpenAIは「EUでは権利者にオプトアウト権を与える体制により、重要なAI入力へのアクセスが予測不可能になり、特に予算が限られた小規模な新規参入者にとって困難になる」と指摘。米国政府に対し「著作権とAIに関する国際的な政策議論を形作り、革新性の低い国々が彼らの法制度を米国のAI企業に課し、私たちの進歩を遅らせることを防ぐために取り組む」よう要請している。
イギリス政府も現在、著作権者が「権利を保持できる」データマイニング例外の作成を検討しており、OpenAIはこれがEUと同様にAI開発への規制障壁を生み出すと警告している。
AIと知的財産のバランスを巡る議論の行方
AI開発企業と著作権者の対立は、技術革新と創作者の権利保護という難しいバランスを浮き彫りにしている。
興味深いことに、主要AI企業のAnthropicはこの議論に直接言及することを避け、著作権については触れずに国家安全保障リスク評価システムの開発などを提案している[PDF]。
Trump政権の「AI Action Plan」は7月に発表される予定だが、OpenAIとGoogleの提案がどの程度反映されるかは不明である。しかし、フェアユースをめぐる議論は、単なる法的問題を超えて、国家安全保障や国際競争力、創作者の権利保護という幅広い文脈で今後も続くことが予想される。
最終的には、Trump政権のAI政策と裁判所の判断が、AIと知的財産権のバランスのあり方を大きく左右することになるだろう。
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