韓国の太陽電池メーカーQcellsは、ペロブスカイトとシリコンを組み合わせたタンデム型太陽電池セルで、変換効率28.6%という世界記録を達成した。この成果は、ドイツのフラウンホーファー太陽エネルギーシステム研究所(Fraunhofer ISE)によって独立して認証された。特筆すべきは、この記録が実用的な大型セルで達成され、量産技術への展開が視野に入っている点である。
画期的な技術革新の詳細
Qcellsが達成した技術革新の核心は、太陽光の持つ幅広いエネルギー帯を効率的に活用する独自の積層構造にある。従来のシリコン単体の太陽電池では、入射する太陽光のエネルギーを十分に活用できないという本質的な課題があった。これに対してQcellsは、異なる特性を持つ二種類の光吸収層を効果的に組み合わせることで、より広いスペクトル範囲の太陽光を電力に変換することを可能にした。
具体的には、上部層に配置されたペロブスカイト層が高エネルギーの光を優先的に吸収し、そこで吸収されなかった低エネルギーの光は下部のシリコン層で捕捉される仕組みとなっている。この二層構造により、単一層の太陽電池では原理的に達成できない高い変換効率を実現した。特に重要なのは、この上部層に採用されたペロブスカイト技術が同社独自の開発によるもので、下部層には実績のあるQ.ANTUMシリコン技術を組み合わせている点である。
さらに、この高効率化が実用的なスケールで達成された点である。開発されたセルはM10サイズ(約330.56平方センチメートル)という実用的な大きさを持ち、標準的な産業用シリコンウェハーを使用している。これは研究室レベルでの小規模な実証実験とは一線を画す成果といえる。同社のR&D部門が採用した製造プロセスは、すべて量産化を視野に入れた手法であり、この技術の実用化への道筋が具体的に示されている。
このような技術革新がもたらす具体的な利点として、単位面積あたりの発電量の向上が挙げられる。これにより、同じ発電量を得るために必要な太陽電池モジュールの数を削減できる。結果として、設置面積の縮小やコストの低減につながり、太陽光発電システムの経済性と環境負荷の両面で大きな改善が期待できる。
開発の経緯と将来展望
Qcellsは2016年からタンデム型太陽電池の開発を開始し、2019年にはドイツのビッターフェルト・ヴォルフェンと韓国の板橋に研究開発拠点を設立した。当初は小面積セルでの効率向上に注力していたが、2023年からは大面積タンデム型セルの開発にシフトし、今回の成果につながった。
同社のグローバルCTOであるDanielle Merfeld氏は、「この技術は太陽光発電の性能に大きな飛躍をもたらす」と述べている。また、ドイツR&D責任者のRobert Bauer氏は、「量産化を見据えたプロセスのみを使用して作製された典型的なセル」であることを強調している。
この技術革新の意義は、理論限界29%に近づいていた従来のシリコン太陽電池の効率を大きく超える可能性を示した点にある。タンデム型太陽電池の理論効率は43%とされており、今回の成果は実用化への重要な一歩となる。
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