米国Biden政権が2024年9月15日、中国発のeコマースプラットフォームTemuとSHEINを主な標的とした新たな輸入規制案を発表した。この動きは、急速に成長する中国系ECプラットフォームが米国市場に与える影響への懸念から生まれたものだ。
米政権による中国ECサイトへの新規制案の概要と狙い
新規制案の核心は、これまで中国系ECプラットフォームが利用してきた「デミニミス(最小限)免税」の適用範囲を大幅に縮小することにある。デミニミス免税は、800ドル以下の輸入品に対して関税を免除する制度だが、Biden政権はこの制度が「濫用」されているとの見方を示している。
具体的には、中国からの輸入品に適用される「301条」、鉄鋼・アルミニウム製品に適用される「232条」、洗濯機や太陽光パネルに適用される「201条」の対象となる製品について、デミニミス免税の適用を除外する。これにより、該当する製品には関税が課され、米国税関・国境警備局(CBP)による厳格な検査の対象となる。
Biden大統領は声明で、「中国発のeコマースプラットフォームが関税を回避するためにデミニミス免税を悪用している」と指摘。この状況が米国の労働者や企業に不公平な競争をもたらしているとの認識を示した。
さらに、この規制強化には消費者保護の側面もある。Gina Raimondo商務長官は、「この新たな措置により、Biden Harris政権は米国の消費者を守り、中国企業による米国の労働者とビジネスへの打撃を阻止する」と述べている。
規制案は、デミニミス免税を利用した輸入が過去10年間で年間1億4000万件から10億件以上に急増したことを問題視している。この増加の「大半」が中国からの輸入品であり、特にTemuとSHEINのビジネスモデルが標的となっている。
TemuとSHEINへの影響
新規制案は、TemuとSHEINの低コストビジネスモデルに直接的な影響を与える可能性が高い。両社は個々の商品を直接消費者に送付することで、デミニミス免税を活用してきた。
しかし、両社ともに規制案に対して冷静な対応を示している。Temuの広報担当者は、「2022年9月の立ち上げ以来、私たちの使命は消費者に手頃な価格で幅広い品質の製品を提供することです。これは、不要な中間業者を排除する効率的なビジネスモデルを通じて実現しています」と述べ、デミニミス政策に依存しない成長戦略を強調した。
一方、SHEINは既に今年から自主的に低価値の出荷に関する追加情報をCBPに提供し始めている。SHEINの広報担当者は、「SHEINは輸入コンプライアンスを最優先事項としており、デミニミス入国に関する米国法の報告要件を遵守しています」と述べ、規制強化への対応を進めていることを示唆した。
しかし、米国の安全規制当局は両プラットフォームに対する懸念を表明している。特に「致命的な乳児用品の潜在的な販売」など、安全性に関する問題が指摘されており、正式な調査が求められている。
新規制案が最終化された場合、TemuとSHEINの出荷品はデミニミス免税の対象外となる可能性が高い。これにより、両社の製品価格が上昇し、パンデミック下で経済的打撃を受けた消費者にとっては新たな負担となる可能性がある。
さらに、Biden大統領は議会に対し、2024年の会期終了前に「デミニミス輸入の急増に対処するための重要な規制措置」を可決するよう求めている。提案された立法改革には、繊維製品と衣料品をデミニミス免税から明示的に除外することや、出荷業者からより多くのデータを要求することで「デミニミスプログラムの透明性と説明責任を高める」ことが含まれている。
これらの動きは、H&MやZaraなど米国に本社を置く企業にとっては競争環境の改善につながる可能性がある一方で、安価な商品を求める消費者にとっては選択肢の減少や価格上昇につながる可能性もある。
Xenospectrum’s Take
Biden政権による新規制案は、急速に変化するグローバルeコマース市場における複雑な課題を浮き彫りにしている。一方で米国企業や労働者の保護、他方で消費者の利益という、相反する要素のバランスを取ることは容易ではない。
TemuとSHEINの台頭は、消費者ニーズに応える革新的なビジネスモデルの成功例と見ることもできる。しかし、その成長が既存の規制の抜け穴を利用したものであれば、公平な競争環境の確保という観点から、何らかの対策が必要だろう。
同時に、この規制強化が消費者の選択肢を狭め、物価上昇につながる可能性も無視できない。特に、経済的に苦しい層にとっては大きな影響となりかねない。
今後は、イノベーションを阻害せず、かつ公平な競争環境を確保する新たな規制の枠組みが求められるだろう。また、安全性や品質の確保、労働環境の改善など、より広い視点からの議論も必要となる。
米国政府には、短期的な対症療法だけでなく、長期的かつグローバルな視点で、急速に変化するeコマース市場に適応した政策立案が求められる。同時に、TemuやSHEINなどの新興プラットフォームも、持続可能なビジネスモデルの構築と、より高い社会的責任を果たすことが期待される。
この規制案を起点に、より健全で公平なグローバルeコマース市場の在り方について、幅広い議論が展開されることを期待したい。
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