磁気浮上は、電球から電車まで、あらゆるものを浮かせるために使われ、その成功の度合いはさまざまだが、通常は電源を必要とする。だが今回、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の量子マシンユニットの研究者らは、ごく一般的なグラファイトで、外部電源を必要としない浮遊プラットフォームを作る事に成功した。
同じ電荷を持つ2つの磁石を押し付けようとしたことがあれば、反発力が働くことを理解できるだろう。磁場が十分に強ければ、ある種の材料(反磁性材料として知られている)で作られた物体を効果的に浮上させることができる。恐らく最も有名な例では、強力な超伝導磁石が反磁性材料と強力な磁場を作り出し、まるで反重力状態のように浮遊して高速で走行するリニアモーターカーで見ることが出来るだろう。
だが、これらすべての問題点は、外部電源を必要とし、超伝導体の場合は極低温に近い温度を必要とすることである。そこで、OISTの科学者たちは、電力を必要とせずに磁力面上を浮遊できる低コストの材料を開発した。その材料とは、鉛筆の芯に含まれる炭素の結晶形であるグラファイトだ。
グラファイトは反磁性体である。グラファイトの薄片を適当な強磁性体の上に置けば、重力に反発し浮き上がっている様子が見られるだろう。
これを真空中に置けば、ホバリングするグラファイトの薄片は、事実上すべての衝突粒子の揺れや衝撃から効果的に隔離され、周辺環境の影響を受けることがなくなる。これにより、重力の影響のみならず、量子力学的な活動まで、あらゆるものを感知する超高感度センサーの開発に役立つことが期待される。
だが、グラファイトのような導電体が強力な磁場を通過すると、電流の流れによってエネルギーが失われる「過減衰」と呼ばれる現象が課題となってきた。これは、グラファイト片が大きいほど、この効果は大きくなる。
これを防ぐため、OISTの研究チームはグラファイト粒子を電気絶縁性のシリカで化学的にコーティングした。最後に、コーティングされたグラファイト粒子をワックスと混ぜ合わせ、約1cm2(0.2平方インチ)のスラブに平らにする。そうすることで、グラファイトは反磁性を保つが、絶縁体によって浮遊を妨げるエネルギー損失を防ぐことができる。そして案の定、シリカでコーティングされたグラファイト・プラットフォームは、北極と南極が交互に配置された磁石でできた表面の上に長時間浮遊することができた。
OISTの理論物理学者Jason Twamley教授は、「このレベルの精度を達成するには、振動、磁場、電気ノイズなどの外乱からプラットフォームを隔離するための厳密なエンジニアリングが必要です。このシステムが最終的に量子スケールの測定に十分な精度を持つセンサーとして使用されるのであれば、これは極めて重要なことなのです」と語る。
このエネルギーは、システムの動きを常に監視し、グラファイト片をできるだけ静止させるためにその下の磁場を修正するというフィードバック・ループを作ることによって低減された。
「熱は運動を引き起こしますが、継続的に監視し、システムに修正アクションという形でリアルタイム・フィードバックを提供することで、この運動を減少させることができます。フィードバックは、システムの減衰率を調整します。減衰率とは、エネルギーを失う速度のことで、減衰を積極的に制御することで、システムの運動エネルギーを減らし、効果的に冷却することができるのです」とTwamley教授は言う。
このようなプラットフォームを正確なレベルで制御することは、量子物理学における最大の疑問のいくつかに答え、重力がどこに位置するかを理解するために極めて重要である。
研究者らによれば、この技術が原子重力計として使われる可能性がある。実際、さらに研究を進めれば、その感度で現在の重力計を凌ぐことができるだろう。
論文
- Applied Physics Letters: Feedback cooling of an insulating high-Q diamagnetically levitated plate
参考文献
- 沖縄科学技術大学院大学:無重力の可能性を切り開く新素材で革新的な磁気浮上を実現
コメント