台湾の半導体製造受託大手TSMCが次世代2nmプロセスチップを台湾国外で製造することを禁止する方針が、台湾政府関係者により確認された。この新たな規制は、台湾の技術的優位と経済安全保障を維持するための一環であり、米国など海外におけるTSMCの拡張計画に大きな影響を与える可能性がある。
台湾政府の意図と規制の背景
台湾経済部(Ministry of Economic Affairs, MOEA)の声明によると、TSMCが2025年までに量産を開始する予定の2nmプロセス技術は、最先端半導体製造技術の一つであり、国家戦略技術に指定されている。このため、台湾外での生産を禁じる規制が適用されている。この方針は、台湾政府が次世代技術を国外の影響から守り、自国の経済的・技術的優位性を強化するための措置とされる。
現在、TSMCは米国アリゾナ州に5nmおよび4nmプロセスの製造拠点を建設中で、2024年に稼働予定であるが、2nmプロセス技術に関しては台湾国内での生産に限定される。この措置は、台湾と米国の関係を再考させる要素となり、アメリカ国内での半導体自給率向上を目指すBiden政権の政策にも影響を及ぼす可能性がある。
米国市場におけるTSMCの計画に影響
TSMCはアリゾナ工場を含め、米国での製造能力拡充を進めてきたが、2nm技術が海外で製造できないという決定により、アメリカでのさらなる先端技術進出が難航することが懸念される。米国の技術需要に応え、半導体のサプライチェーンを強化することは、TSMCと米国政府双方にとって重要であり、2nm技術を米国内で製造できないことは、Biden政権が掲げる半導体自給率向上の目標に水を差すことになる。
さらに、アメリカは国内での先端技術製造の確保を目指し、国内外の企業にインセンティブを提供する「CHIPS法」などを推進しているが、台湾の規制はこれに対するTSMCの参加を複雑にさせる可能性がある。この背景には、地政学的な緊張や台湾海峡の不安定性があり、半導体業界のリーダーとしての地位を守るため、台湾が慎重に行動していることがうかがえる。
TSMCの侯永清上級副社長は、米国の政権交代が台米間の長年のパートナーシップに重大な影響を与えることはないと強調している。しかし、Trump前大統領の再選や関税引き上げの示唆など、政治的な不確実性は増大している。
Xenospectrum’s Take
台湾の2nmチップ製造規制は、テクノロジーと地政学が衝突する象徴的な事例である。米国は国内の半導体製造を拡充し、サプライチェーンの強靭化を目指しているが、TSMCの技術的優位を海外に拡張できないことで、この目標に不透明さが生じる。さらに、この規制は中国による台湾への圧力が高まる中で、台湾の技術的な自立と安全保障のバランスを保つ試みでもある。しかし、この決定が将来的にTSMCの成長戦略や米国との経済的連携にどう影響を与えるかは未知数であり、慎重な対応が求められるだろう。
Source
- Taipei Times: TSMC cannot make 2nm chips abroad now: MOEA
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