米国内務省は10月24日、豪州企業Ioneer社が申請していたネバダ州のリチウム鉱山「Rhyolite Ridge」プロジェクトの建設を正式に認可した。Biden政権下で初となる大規模リチウム鉱山の認可であり、電気自動車(EV)用バッテリーの重要鉱物サプライチェーンにおける中国依存からの脱却を目指す米国の戦略的な一手となる。
政府が総額7億ドルの融資、Fordなど主要自動車メーカーも調達に合意
Rhyolite Ridgeプロジェクトは、ラスベガスの北約360キロメートルに位置するエスメラルダ郡で展開される。年間生産能力は37万台分のEVバッテリーに必要なリチウム量に相当し、米国内のリチウム生産量を4倍に引き上げる規模となる。
米政府はプロジェクトの戦略的重要性を重視し、エネルギー省を通じて7億ドルの融資を決定。さらに南アフリカの資源大手Sibanye Stillwaterからも4億9,000万ドルの出資を受け、資金面での体制が整いつつある。
すでにFord Motorsは同鉱山からのリチウム調達に合意しており、トヨタ自動車とPanasonicの合弁会社も参画を表明。米国の自動車産業における電動化の基盤として、その役割が期待されている。
6年越しの環境アセスメントを経て認可、絶滅危惧種との共生へ
内務省による認可までには6年以上の審査期間を要した。最大の課題となったのが、世界でも同地域にしか生息しない絶滅危惧種「Tiehm’s buckwheat(タイムズ・バックウィート)」の保護だった。2020年には1万7,000本以上の花が枯死する事態が発生し、環境保護団体からの反発を招いていた。
内務省のLaura Daniel-Davis副長官(代理)は「今回の決定は科学的根拠に基づくものです。気候変動対策ほど重要な課題はないというメッセージを発信したい」と、Reutersの取材に語った。
Ioneer社は環境との調和を図るため、当初の計画を大幅に修正。採掘場の西壁位置を変更し、希少植物の生息地を避けた施設配置を実現した。さらに使用水量の半分をリサイクルする計画も盛り込み、環境負荷の最小化を目指している。
地域経済の活性化にも期待、建設開始は2025年に
プロジェクトは2025年の建設開始、2028年の生産開始を予定している。建設期間中には500人、操業開始後は350人の雇用を創出する見通しで、地域経済への貢献も期待されている。
採掘されるのはリチウムだけではない。セラミックスや石鹸の原料となるホウ素も産出され、現地での精製プロセスを経て、バッテリー製造に不可欠な2種類の派生物が生産される計画だ。
Xenospectrum’s Take
今回の認可は、米国のグリーン産業における転換点となる可能性を秘めている。2002年以降、米国で認可された重要鉱物の採掘事業はわずか3件にとどまっており、その意味で画期的な一歩と言える。
特に注目すべきは、環境保護と産業発展の両立に向けた具体的な取り組みだ。政府による厳格な審査と、企業側の柔軟な計画変更により、持続可能な開発モデルが示された形となる。
一方で、環境保護団体による法的措置の可能性も指摘されており、今後の展開は予断を許さない。プロジェクトの成否は、継続的な環境モニタリングと地域社会との対話にかかっている。これは単なる一企業の事業認可にとどまらず、米国の産業政策と環境政策の統合という観点からも、重要な試金石となるだろう。
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