米司法省は、Googleの検索市場における独占状態を解消するため、同社にWebブラウザ「Chrome」の売却を求める提案を連邦地方裁判所に提出した。さらに、モバイルOS「Android」の売却も選択肢として示唆する強硬な姿勢を示している。
独占解体に向けた具体的な措置
米司法省の提案は、23ページにわたる詳細な文書で、Googleの検索市場における支配力を解体するための包括的な措置を示している。中核となるのは、ChromeブラウザとAndroidプラットフォームという二大アクセスポイントへの規制だ。
Chromeブラウザについては、司法省が承認する買い手への完全な売却を求めており、売却後はGoogleに対して5年間のブラウザ市場への参入禁止期間が設けられる。さらに、検索関連企業や広告技術企業への出資や買収も制限される。既存の出資や投資がある場合は、速やかな開示が必要となる。
Androidプラットフォームに関しては、より段階的なアプローチを採用している。第一段階として、GoogleはAndroidデバイスに対して自社の検索エンジンやAI製品を強制的に搭載することを禁止される。また、競合他社の検索エンジンやAI製品の配信を妨害することも認められない。特筆すべきは、GoogleがAndroidやGoogle所有のアプリ、データへのアクセスにおいて、自社製品を優遇することを禁じている点である。
これらの規制措置が効果を上げない場合、司法省は第二段階として、Androidプラットフォームの完全売却を要求する可能性がある。興味深いことに、提案ではGoogleが自主的にAndroidを売却することも選択肢として示唆している。これは、前述の規制措置の遵守よりも、事業売却を選好する可能性を考慮したものと解釈できる。
検索市場の競争回復に向けた追加措置
米司法省は、ChromeとAndroidへの規制に加えて、検索市場における実効的な競争を回復するための広範な追加措置も提案している。これらの措置は、検索データの開放から収益モデルの変更まで、検索ビジネスの根幹に関わる内容となっている。
最も注目すべき点は、Googleの検索インデックスの開放要求である。司法省は、Googleに対して検索インデックスを「限界費用で継続的に」競合他社に提供することを求めている。これには検索ランキングのシグナルやクエリ理解に関する情報も含まれる。さらに、米国で発生した検索クエリデータを10年間にわたって、無償かつ非差別的な条件で競合他社に提供することも要求している。この措置により、新規参入者が独自の検索エンジンを開発する際の最大の障壁の一つが取り除かれることになる。
広告事業に関する規制も厳格だ。広告主に対して、入札キーワードに関連する検索広告データや情報をエクスポートする機能の提供を義務付けている。これにより、広告主が競合する検索広告プラットフォームへ容易に移行できる環境を整備する狙いがある。
コンテンツ提供者の権利保護も重要な要素として盛り込まれている。出版社やWebサイト運営者、コンテンツクリエイターに対して、自社のコンテンツをGoogleの検索インデックスやAIモデルのトレーニングデータから除外する選択肢を提供することを要求している。特筆すべきは、この除外要求に応じたコンテンツ提供者に対する報復的な措置を明確に禁止している点である。
また、Appleをはじめとするデバイスメーカーとのデフォルト検索エンジン契約に関する規制も詳細に定められている。金銭的な報酬や商業的な条件を通じて、デバイスメーカーが独自の検索エンジンを開発することを妨げたり、競合他社の検索エンジンを採用することを抑制したりすることを禁止している。特に収益分配モデルに基づく支払いは完全に禁止される。
さらに、YouTubeやGeminiといった自社プラットフォームにおける検索エンジンの優遇措置も禁止される。これにより、Googleは自社の検索エンジンを他のプロダクトやサービスと組み合わせて競争優位性を確保することが困難になる。
これらの措置は2025年3月7日までに最終的な改訂案が提出され、その後4月に予定される救済措置に関する公判で詳細な検討が行われる。Google側は、これらの措置が「アメリカのユーザーとアメリカのテクノロジーリーダーシップに害を及ぼす」と主張しており、特にAI開発競争における競争力低下を懸念している。
Xenospectrum’s Take
今回の司法省による提案は、デジタル市場における構造改革の分岐点となる可能性を秘めている。ChromeブラウザはStatCounterによると米国市場の約61%のシェアを握っており、その売却は検索市場の勢力図を大きく塗り替えるだろう。しかし、真の課題は技術革新とユーザー体験の維持との両立にある。皮肉なことに、独占解体を目指す本提案が、かえってデジタル エコシステムの分断を助長する可能性も否定できない。
最終判断は2025年9月までに下される見通しだが、この判断がテクノロジー産業全体に及ぼす影響は、1980年代のAT&T分割に匹敵する歴史的なものとなるかもしれない。
コメント