英国の競争・市場庁(CMA)が、AmazonとAI企業Anthropicの40億ドル規模の戦略的提携について正式な調査を開始した。この動きは、大手テクノロジー企業によるAI市場の支配力強化に対する懸念が高まる中で行われるもので、デジタル経済における公正な競争の確保を目指す規制当局の取り組みの一環として注目を集めそうだ。
ハイテク大手の“疑似合併”に懸念
CMAの調査は、AmazonとAnthropicの提携が競争法上の「関連する合併状況」に該当するかどうかを評価することを主な目的としている。この提携の核心は、AmazonがAnthropicの主要クラウドプロバイダーとなり、同時にAnthropicのAIモデルをAmazon Bedrockプラットフォームで利用可能にするという点にある。
規制当局の主要な懸念は、このような提携が英国市場における実質的な競争減少をもたらす可能性があるということだ。特に、CMAは大手テクノロジー企業がAI開発に不可欠な計算能力などの重要リソースをコントロールすることで、市場をどのように形成し得るかに注目している。
この調査の背景には、AmazonやGoogle、Microsoftといった巨大テクノロジー企業が、直接的な買収ではなく戦略的投資や人材獲得を通じて新興AI企業との関係を深めているという現状がある。CMAは、こうした「疑似合併」的なアプローチが、規制の目を逃れつつ市場支配力を強化する手段となっているのではないかと懸念している。
CMAの見解では、このような提携は既存の市場支配力を保護するだけでなく、新たな分野へその影響力を拡大する可能性がある。結果として、AIによるイノベーションと市場破壊の可能性が十分に実現されない事態を招くリスクがあると指摘している。
一方、AmazonとAnthropicは両社とも、この提携に競争上の問題はないと主張している。Amazonの広報担当者は、「Amazonは取締役会の席も意思決定権も持っておらず、Anthropicは他のプロバイダーと自由に協力できる」と述べ、提携の独立性を強調している。さらに、AnthropicはAWSだけでなくGoogle Cloudとも提携関係にあり、最新のAIモデルClaude 3.5 Sonnetを両プラットフォームで提供していることを指摘している。
CMAは10月4日までに調査の第1段階を完了し、次のステップを決定する予定だ。この時点で、提携が合併状況に該当しないと判断するか、競争上の問題がないと結論付ける可能性がある。しかし、重大な懸念が特定された場合、より詳細な第2段階の調査に進む可能性もある。その場合、独立した専門家パネルがより深く潜在的なリスクと懸念事項を精査することになる。
この調査は、CMAが進めている広範な取り組みの一部に過ぎない。規制当局は既に、GoogleとAnthropicの提携、MicrosoftとOpenAIの関係、さらにはMicrosoftによるフランスのスタートアップMistral AIへの投資など、他の大手テクノリー企業とAI企業の提携についても精査を進めている。
CMAの目標は、AI産業における公正な競争と消費者利益の保護だ。特に、健康医療、エネルギー、交通、金融など多岐にわたる分野でAIがもたらす変革の恩恵が社会全体に広く共有されることを目指している。
さらに、CMAの権限は今後さらに強化される見込みだ。2023年5月に可決されたデジタル市場、競争、消費者法案(DMCC Bill)により、CMAは違反企業に対して世界全体の売上高の最大10%に相当する罰金を科す権限を得た。これにより、AIを含むデジタル市場における不公正な慣行に対して、より強力な執行措置を取ることが可能になる。
このように、AmazonとAnthropicの提携に関するCMAの調査は、急速に発展するAI産業において公正な競争環境を維持するための重要な一歩となっている。その結果は、今後のテクノロジー企業とAI企業の関係性、さらには全体的なAI市場の構造に大きな影響を与える可能性があるだろう。
Source
- United Kingdom’s Competition and Markets Authority: AMAZON.COM, INC’S PARTERNSHIP WITH ANTHROPIC PBC [PDF]
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