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Western Digital、Microsoftと共同でHDDからレアアースを再生する画期的リサイクル技術を実用化:脱中国依存を加速

Y Kobayashi

2025年4月21日

Western Digital (WD) は、Microsoftおよびリサイクル技術パートナーと協力し、使用済みハードディスクドライブ (HDD) からレアアース (希土類元素) を高効率で回収する大規模なリサイクルプログラムを米国内で開始した。この取り組みは、増大する電気電子機器廃棄物 (E-waste) 問題に対応しつつ、重要な資源の国内サプライチェーンを強化し、環境負荷を大幅に削減する画期的な試みである。

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データセンターの課題とWDの新戦略

今日のデジタル社会を支えるデータセンターでは、依然としてHDDが大容量ストレージの主役である。市場調査会社IDCによると、世界のデータ生成量は2028年までに年間393.9ゼタバイト (ZB) に達すると予測され、その多くをHDDが記録し続ける見込みだ。しかし、3年から5年程度で寿命を迎えるHDDは膨大な電気電子機器廃棄物を生み出す要因ともなっている。

従来、データセキュリティの観点から使用済みHDDは物理的に破砕されることが多く、内部に含まれるネオジム (Nd)、プラセオジム (Pr)、ジスプロシウム (Dy) といった高性能磁石に不可欠なレアアースは、鉄などと共に溶解され、回収されることなく失われていた。

さらに、レアアースの生産は特定の国、特に中国に偏在しており、近年の輸出規制の動きは、米国をはじめとする各国のハイテク産業にとってサプライチェーン上の大きなリスクとなっている。特にHDDの磁石に使われるジスプロシウムは、中国が最近輸出規制を発表した7元素の1つである。

こうした背景から、WDはMicrosoft、レアアースリサイクル技術を持つCritical Materials Recycling (CMR)、および物理選別を行うPedalPoint Recycling (PP) と共同で「Advanced Recycling and Rare Earth Material Capture Program (先進的リサイクルおよびレアアース素材回収プログラム)」を立ち上げた。

革新的リサイクルプロセス詳解

このプログラムの核心は、使用済みHDDからレアアースを含む有用な金属を選択的かつ効率的に回収するプロセスにある。

  1. 回収・破砕: Microsoftの米国内データセンターから、使用済みとなったHDD、SSD (ソリッドステートドライブ)、および取り付け用キャディが回収され、物理的に破砕される。
  2. 選別 (PedalPoint): 破砕された混合物はPP社の施設に運ばれ、物理的なプロセスによってプリント基板 (PCB)、アルミニウム、そしてレアアース磁石を含む鉄系 (Ferrous) の破片などに選別される。
  3. レアアース抽出 (CMR): 鉄系の破片はアイオワ州にあるCMR社に送られる。ここで、同社が特許を持つ「酸フリー溶解 (Acid-Free Dissolution: ADR)」技術が用いられる。ADRは、硫酸などの強力な酸や高温・高圧を用いず、特殊な銅(II)塩水溶液を利用した選択的な浸出プロセスである。これにより、HDD破片のような低濃度の原料 (HDD中のレアアース含有量は約1wt%) からでも、環境負荷を抑えつつレアアースを選択的に溶かし出すことが可能となる。
  4. 高純度回収: ADRプロセスにより、ネオジム、プラセオジム、ジスプロシウムを含む純度99.5%以上のレアアース酸化物 (REO) が回収される。このREO回収プロセスは完全に米国内で行われる。
  5. 他金属の循環: 選別されたアルミニウムや鉄 (CMRから戻された分も含む) は米国内の処理業者へ送られ再資源化される。プリント基板は韓国の提携精錬所に送られ、金、銀、パラジウム、銅などの貴金属が回収される (これらはPP社の独自ネットワーク内で管理される)。

このADR技術は、従来の湿式製錬法に比べて、作業者や環境への負荷が低いという利点も持つ。

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実証された成果と環境への貢献

WDとそのパートナーは、18ヶ月にわたるテストとパイロットプログラム (2024年12月完了) を通じて、このリサイクルプロセスの有効性を実証した。

パイロット段階では、約47,000ポンド (約21.3トン) の使用済みドライブ、SSD、キャディが処理された。その結果、HDD磁石に含まれるレアアースの回収率は90%以上を達成。アルミニウム、鉄、銅、貴金属などを含む、投入されたシュレッダー材全体の約80% (質量ベース) が有用な金属として回収された。

さらに、WDが実施したライフサイクルアセスメント (LCA) によると、このリサイクルプロセス全体での温室効果ガス (GHG) 排出量は、同量のレアアースや金属を新たに鉱石から採掘・精錬する場合と比較して、95%も削減されることが示された。特に、アルミニウムのリサイクルでは96%、レアアース酸化物 (REO) では80%、鉄鋼では89%のCO2排出量削減効果が確認されている (それぞれ一次生産との比較)。

回収されたレアアース酸化物は米国内のサプライチェーンに供給され、新たなハイテク製品の製造などに利用される道が開かれた。

循環型経済への大きな一歩とその意義

このプログラムは、単に技術的な成功に留まらず、持続可能な社会の実現に向けた重要な一歩となる。

Microsoftのクラウドソーシング・サプライチェーン・サステナビリティ・セキュリティ担当CVPであるChuck Graham氏は、「HDDは我々のデータセンターインフラにとって不可欠であり、循環型サプライチェーンの推進はMicrosoftの核となる重点分野です」とプレスリリースで述べ、この取り組みが持続可能で経済的にも実行可能なHDDの終末期管理を示したと評価している。

WDのGlobal Operations Strategy and Corporate Sustainability担当VPであるJackie Jung氏は、「Microsoftとのパイロットプログラムの成功に基づき、現在このプログラムを他の多くのハイパースケール顧客と共に開発中です」と述べ、今後の拡大に意欲を示している。プログラム立ち上げに関わったWDのRhownica Birch氏は、この取り組みがWDの「カーボンハンドプリント (自社の技術や活動による社会全体のCO2削減貢献)」であり、業界を超えて応用可能なモデルになると語る。

CMR社のCEO、Daniel Bina氏は、「HDDからのレアアース回収で達成された進歩と成功は、電気自動車 (EV) や風力タービンからのレアアース回収にも直接応用できます」と述べ、技術の汎用性に期待を寄せている。

年間数千万台規模で廃棄されるデータセンターのHDDから、戦略的に重要なレアアースを国内で効率よく回収し、同時に環境負荷を劇的に低減する。WDとパートナーによるこの先進的な取り組みは、テクノロジー業界における循環型経済の実現を加速させ、より持続可能な未来への道を切り拓くものとして、大きな注目を集めている。


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