核融合がAIのエネルギー需要を解決すると考えるテック業界の重鎮たちは何を見落としているのか？

2024年10月18日

当記事のリンクにはアフィリエイト広告が含まれています。

人工知能（AI）ブームによって、我々の技術と世界に対する理解はすでに変化している。しかし、AIプログラムの開発と更新には膨大な計算能力が必要であり、これはデータセンターのサーバーに大きく依存している。その結果、炭素排出量と資源の使用において大きなコストがかかっている。

特に「トレーニング」と呼ばれる作業は、生成AIシステムが膨大な量のデータにさらされてその能力を向上させるため、エネルギー集約的である。

AIベースのシステムの開発により、Googleの温室効果ガス排出量が5年間で48%増加したと非難されている。これにより、同社が2030年までにネットゼロを達成するという目標の実現が一層困難になるだろう。

業界の一部では、AIが環境の持続可能性や気候変動対策にもたらす可能性のある利点を指摘し、AIによる追加のエネルギー消費を正当化している。気象パターンの予測による太陽光発電や風力発電の効率向上、「スマート」農業、より効率的な電気自動運転車などが、AIが地球にもたらす可能性のある利点として挙げられている。

このような背景から、テクノロジー企業は再生可能エネルギーと核分裂を利用して、データセンターに電力を供給することを検討している。

核分裂は、数十年にわたって世界中で使用されてきた原子力発電の一種である。これは重い化学元素を分裂させて軽い元素を形成することでエネルギーを放出する。しかしシリコンバレーの一部では、このギャップを埋めるには別の技術が必要だと考えている：それが核融合である。

核分裂とは異なり、核融合は2つの軽い元素を結合させてより重い元素を作ることでエネルギーを生成する。しかし、核融合エネルギーはAIの持続可能性という課題に対する未実証の解決策である。そして、テクノロジー企業のCEOたちがこの技術をAIのエネルギー供給源として熱心に支持することは、地球にもたらす潜在的な利益を脇に追いやるリスクがある。

従来の枠を超えて

Googleは最近、小型原子炉からエネルギーを購入する契約を締結したと発表した。これは核分裂に基づく技術で、大規模な原子力発電所の巨大な原子炉よりもはるかに小さな装置から有用な量の電力を生産することができる。Googleはこれらの小型原子炉を使用して、AI利用の増加に必要な電力を生成する計画である。

今年、Microsoftは Constellation Energy社と契約を結び、米国史上最悪の原子力事故の現場であるペンシルベニア州のスリーマイル島原子力発電所の原子炉を再稼働させる道を開く可能性がある。

しかし、原子力発電は長寿命の放射性廃棄物を生成し、安全に保管する必要がある。ウラン（採掘が必要）などの核燃料は有限であるため、この技術は再生可能とは考えられていない。太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー源は「間欠性」の問題があり、1日中常に安定してエネルギーを生産するわけではない。

これらの制限により、一部の人々は核融合を解決策として注目するようになった。特に注目すべきは、OpenAIのSam Altmanが比較的新しい技術設計に取り組む核融合スタートアップ、Helion Energyに特に関心を示していることである。

理論上、核融合は少量の燃料から大量のエネルギーを生成し、プロセスからの温室効果ガスの排出がなく、放射性廃棄物も比較的少ないという「聖杯」的なエネルギー源を提供する。一部の核融合形態は、重水素と呼ばれる水素の一形態を燃料として使用するが、これは豊富な供給源である海水から抽出できる。

Altmanのような支持者の目には、これらの特性が核融合を気候危機に直面しているエネルギー需要の増大に対応するのに適した技術にしている – そしてAI開発の膨大な需要を満たすのにも適しているのである。

しかし、事態を掘り下げると、その絵はそれほどバラ色ではない。支持者たちの希望にもかかわらず、核融合技術はまだ持続的な正味エネルギー出力（原子炉の運転に投入されるエネルギーよりも多くのエネルギー）を生産していない。AIの成長する需要を満たすのに必要な規模でエネルギーを生産することはさらに遠い話である。核融合が送電網に電力を供給するという約束を果たすためには、さらに多くの技術開発が必要となるだろう。

大手テクノロジー企業のCEOなど、裕福で力のある人々は、新技術の開発方法に強い影響を与えることができる。例えば、核融合を行うには多くの異なる技術的方法がある。しかし、AIのエネルギー需要を満たすのに有用な特定の核融合経路が、人々の一般的なエネルギーニーズを満たすのに理想的なものとは限らない。

data center 1 — AIは大量のエネルギーを消費するデータセンターに依存している。

イノベーションの過大評価

イノベーターたちは、しばしば自分たちの仕事が理想的な社会的成果を生み出すと当然のように考えている。もし核融合が大規模に機能するようになれば、世界が気候危機に取り組む中で、エネルギー供給の脱炭素化に貴重な貢献をする可能性がある。

しかし、核融合とAIの両方の人道的な約束は、しばしば科学的イノベーションと進歩のために脇に追いやられているように見える。実際、これらの技術に投資している人々を見ると、誰が実際にそれらから利益を得ているのかを問う価値がある。

AIのための核融合への投資は、汚染をもたらす化石燃料に代わるクリーンな技術としてのより広範な採用を可能にするだろうか？それとも、強力なテクノロジー企業によって広められたこの技術のビジョンが、他の目的での使用を制限することになるのだろうか？

時として、イノベーション自体が目標であるかのように感じられ、より広範な影響についてはほとんど考慮されていないように見える。このビジョンは、Meta CEOのMark Zuckerbergの「速く動いて物事を壊す」というモットーを想起させる。そこでは、後に手段を正当化する将来のビジョンを追求するために、短期的な損失が受け入れられている。

本記事は、ヨーク大学政治・環境学博士候補生 Sophie Cogan氏によって執筆され、The Conversationに掲載された記事「Tech bosses think nuclear fusion is the solution to AI’s energy demands – here’s what they’re missing」について、Creative Commonsのライセンスおよび執筆者の翻訳許諾の下、翻訳・転載しています。