2019年に経済的理由で閉鎖されたペンシルベニア州のスリーマイル島原子力発電所が、MicrosoftのAIデータセンター向け電力供給のために復活する。Microsoftと発電所運営会社のConstellation Energyは、20年間の電力購入契約を締結し、2028年の再稼働を目指している。この動きは、急増するAI関連の電力需要に対応するとともに、カーボンフリーな電力源の確保を目指すMicrosoftの戦略の一環だが、「スリーマイル島原子力発電所」と言えば、思い出されるのが原子力発電所事故だろう。
スリーマイル島原発の再稼働計画
スリーマイル島原子力発電所は、1979年に起きた米国史上最悪の商業用原子力発電所事故で知られている。しかし、今回再稼働の対象となるのは事故を起こしたUnit 2ではなく、隣接するUnit 1である。Unit 1は2019年まで安全かつ信頼性の高い運転を続けていたが、化石燃料との価格競争力の低下により閉鎖された。
Constellationの発表によると、再稼働後の施設はCrane Clean Energy Center(CCEC)と改名される。CCECは835,000メガワットの電力を生産し、80万以上の一般家庭に電力を供給できる能力を持つ。Microsoftとの契約では、CCECが生産する電力の全量を20年間にわたって固定価格で購入することが合意された。
再稼働に向けて、Constellationは16億ドルを投じて大規模な改修を行う計画だ。タービン、発電機、主要変圧器、冷却システム、制御システムなどの更新が予定されている。また、米国原子力規制委員会(NRC)の承認や州・地方自治体の許可取得も必要となる。
Constellationは、CCECの運転を少なくとも2054年まで継続することを目指しており、さらに10年間の運転延長も視野に入れている。この計画は、インフレ削減法による税額控除やその他の連邦補助金の支援を受ける見込みだ。
同社のCEOであるJoe Dominguez氏は、「グローバルな経済的・技術的競争力にとって重要な産業に電力を供給するには、24時間365日信頼できるカーボンフリーのエネルギーが豊富に必要であり、原子力発電所はその約束を一貫して果たすことができる唯一のエネルギー源です」と述べている。
AIデータセンターの電力需要と原子力発電の役割
AIブームに伴い、データセンターの電力需要は急増している。Bloombergの分析によると、2024年のデータセンターの電力需要は約350テラワット時(TWh)に達し、2012年の約100TWhから大幅に増加している。国際エネルギー機関(IEA)の報告書では、2026年までにデータセンターの電力需要は620〜1,050TWh範囲に達すると予測されている。
この急増する需要に対応するため、MicrosoftはGlobal AI Infrastructure Investment Partnership(GAIIP)を設立し、BlackRockなどの投資家と共に1,000億ドルを調達し、世界中でAIワークロードを実行するデータセンターやエネルギーインフラに投資する計画を発表した。
Microsoftのエネルギー部門副社長であるBobby Hollis氏は、「この契約は、カーボンネガティブを実現するというMicrosoftのコミットメントを支援するために、電力網の脱炭素化を支援する取り組みにおける重要なマイルストーンです」と述べている。
一方で、原子力発電の安全性に対する懸念も依然として存在する。しかし、環境への影響や大気汚染による健康被害を考慮すると、原子力発電は他の発電方式と比較して死亡者数が少ないとされている。ただし、事故発生時の大規模な除染コストや、数千年にわたって安全に隔離する必要がある核廃棄物の処理など、課題も残されている。
この動きは、テクノロジー業界全体に波及する可能性がある。すでにAmazonは、近隣のサスケハナ原子力発電所から電力を供給される6億5000万ドル規模のデータセンターを購入している。Oracleもデータセンターの電力需要を賄うために、小型モジュール炉3基を備えたデータセンターの構築を計画中だ。Constellationの最高経営責任者Joseph Dominguezは、「エネルギー産業が、中国やロシアにAIで負ける理由にはなりえません。この発電所は閉鎖されるべきではありませんでした。今後30年間でペンシルベニア州に建設される全ての再生可能エネルギー(風力と太陽光)と同量のクリーンエネルギーを生産することになるでしょう」と述べている。
Xenospectrum’s Take
原子力発電所事故で知られるスリーマイル島原子力発電所の再稼働と言うことで、センセーショナルに伝えられた本件だが、米国での報道はまちまちであり、事故について大きく報じている物もあれば、中には全く触れていない物もあり、日本での反応とかなり温度差を感じる物だった。
確かに、AIブームがもたらす電力需要の急増と、カーボンフリーエネルギーへの移行という二つの大きな課題に対するアプローチとしては、原子力発電所というのは必要なアプローチかも知れない。
一方で、原子力発電の安全性や核廃棄物処理の問題は依然として重要な課題である。MicrosoftやConstellationは、最新の技術と厳格な安全基準を適用することで、これらの懸念に対処する必要がある。
また、この事例は、閉鎖された原子力発電所の再利用という新たな可能性を示している。経済的理由で閉鎖された施設を、新たな需要に応じて再稼働させることで、既存のインフラを有効活用しつつ、カーボンフリーな電力供給を実現する方法として注目される。
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