TSMCとSamsung、UAEで1000億ドル規模の半導体工場建設を検討

2024年9月24日

当記事のリンクにはアフィリエイト広告が含まれています。

世界最大の半導体ファウンドリであるTSMCとSamsungが、アラブ首長国連邦（UAE）での巨大工場建設を検討していることが明らかになった。Wall Street Journal（WSJ）の報道によると、両社の経営陣が最近UAEを訪問し、1000億ドル以上の投資規模となる可能性のある製造施設の建設について協議を行ったという。

TSMCとSamsungのUAE進出計画の詳細

WSJの報道によれば、TSMCの幹部らはUAEを訪問し、同社の台湾にある最大規模かつ最先端の施設に匹敵する工場複合施設の建設について協議を行った。この計画が実現すれば、TSMCにとって中東地域における初の大規模製造拠点となる可能性がある。

一方、Samsungの幹部も同様にUAEを訪れ、工場建設計画について話し合いを持ったとされている。両社の計画はまだ「初期段階」にあるとされるが、実現すれば中東地域の半導体産業に大きな影響を与えることは間違いない。

これらのプロジェクトは、UAEが資金を提供し、アブダビを拠点とするMubadala投資会社が中心的な役割を果たすと見られている。1000億ドル以上という投資規模は、半導体製造業界では決して珍しくない。大規模な半導体製造施設の建設には通常150億〜200億ドルの費用がかかり、それに加えて研究開発、テスト、組立、高度なパッケージングなど、幅広いサプライチェーンの整備が必要となるためだ。

しかし、両社とも具体的な計画については公式に発表していない。TSMCは「半導体産業の発展を促進する方法について建設的な議論に開かれている」としながらも、「現在は世界的な拡張プロジェクトに注力しており、新たな投資計画を開示する段階にはない」と述べている。Samsungはコメントを控えている。

UAEの半導体産業と地政学的影響

UAEは近年、石油依存型の経済から脱却し、技術産業への投資を積極的に進めている。特に人工知能（AI）分野への投資に力を入れており、中東地域における技術大国としての地位を確立しようとしている。TSMCとSamsungの巨大工場建設計画は、このUAEの野心に大きく寄与する可能性がある。

しかし、UAEの技術産業への野心は、米中貿易戦争の影響を受けている。米国は中国が中東を経由して機微な技術を入手することを懸念し、UAEを含む中東諸国へのGPUやAIアクセラレータの輸出を制限してきた。この地政学的な緊張が、半導体工場建設計画にも影響を与える可能性がある。

特に、UAEの国営企業G42は、中国企業との関係が問題視され、米Biden政権の厳しい監視下に置かれてきた。G42は昨年、米国の情報機関から中国に先進技術や遺伝子データを提供している可能性があると指摘され、問題となった。

しかし、最近ではG42が中国のパートナーとの関係を断ち切り、米国企業との協力を強化する動きを見せている。2023年7月には米国のCerebras Systemsに約9億ドルを投資し、AI半導体ライバルのNVIDIAが同社のGPUのUAEへの出荷再開の承認を得たとの報道もある。

一方で、TSMCとSamsungがUAEで工場を建設する上では、技術的な課題も存在する。UAEの気候は半導体製造に適しているとは言えず、特に製造プロセスで必要となる大量の超清浄水の確保が問題となる可能性がある。また、熟練労働者の不足も懸念される。米国や欧州でさえ、エンジニアやコンピュータサイエンティストの不足に直面している現状を考えると、UAEでの人材確保はさらに困難を極める可能性があるだろう。

Xenospectrum’s Take

TSMCとSamsungのUAEにおける半導体工場建設計画は、中東地域の技術産業に大きな転換をもたらす可能性を秘めたものであり、UAEにとっては、石油依存からの脱却と技術立国への転換を加速させる絶好の機会となるだろう。

だが、上述の通り、この計画には多くの課題が存在する。技術的な問題や人材確保の難しさに加え、米中の対立という地政学的リスクも無視できない。UAEが両国の利害のバランスを取りながら、いかに自国の技術産業を発展させていくかが鍵となるだろう。

また、TSMCとSamsungにとっても、この計画は戦略的に重要な意味を持つ。中東地域への進出は新たな市場の開拓につながる一方で、地政学的リスクや技術流出のリスクも伴う。両社がどのようにしてこれらのリスクを管理し、UAEでの事業を成功させるかに注目したい。

今後の展開次第では、UAEが中東におけるシリコンバレーとなり、グローバルな半導体産業の新たなハブとして台頭する可能性もある。しかし、その道のりは決して平坦ではないだろう。また、中東で計画されたプロジェクトの多くに言えることだが、最初に壮大な計画を掲げては尻すぼみになるか頓挫するという前例も過去には多く見られているため、それが具体的な形となるまでは、実現可能性についてもある程度は疑いを持っておいた方が良さそうだ。

Source