中国のテクノロジー大手Huaweiが、米国の制裁に対抗し、自社開発の最新AIチップ「Ascend 910C」のテスト出荷を開始した。この動きは、NVIDIAが独占してきた中国のAI GPU市場に一石を投じる動きだ。米制裁下で苦境に立たされていたHuaweiだが、半導体技術の自給自足を目指す中国政府の後押しを受け、AI分野での巻き返しを図る。
Huawei Ascend 910C:NVIDIAへの挑戦状
Huaweiは、中国の主要サーバーメーカーや大手インターネット企業に対し、Ascend 910Cのサンプルチップを提供し、ハードウェアテストと構成の検証を開始した。このチップは、前モデルのAscend 910Bをアップグレードしたもので、NVIDIAの人気モデルA100に匹敵する性能を持つとされている。
Huaweiの会長であるEric Xu Zhijun氏は、「米国によるAIチップの対中制限が近い将来解除される可能性は低い」と述べ、この状況がHuaweiにとってクラウドサービス事業を通じてコンピューティングリソースを提供する機会を生み出したと指摘した。
一方、NVIDIAも手をこまねいているわけではない。中国市場向けに開発された「H20」GPUの出荷を開始し、2024年には100万台以上の出荷と120億ドルの売上を見込んでいる。しかし、Huaweiの攻勢により、NVIDIAの中国市場でのシェア維持は困難になりつつある。
Huaweiは、Ascendソリューションを用いて、2023年時点で中国国内の主要な大規模言語モデルの約半数をトレーニングしたと主張している。この実績は、HuaweiがAI基盤技術の分野で着実に地歩を固めつつあることを示している。
激化する中国AIチップ市場の競争
HuaweiとNVIDIAの戦略には明確な違いが見られる。Huaweiは、AIチップだけでなく、ネットワークソリューションやストレージソリューションなど、総合的なパッケージを提供することで、顧客を自社のエコシステムに取り込もうとしている。これに対し、NVIDIAは技術サポートとメンテナンスサービスの充実を武器に、顧客の信頼を獲得しようとしている。
中国政府は、半導体産業の自給自足を国家戦略として掲げており、Huaweiの取り組みはこの方針に沿ったものだ。Huaweiを中心とした中国の半導体メーカーグループは、2026年までにAI用の高帯域幅メモリ(HBM)チップの生産を目指しており、NVIDIAへの依存度を下げる取り組みを加速させている。
しかし、HuaweiがNVIDIAの市場地位を本当に脅かせるかどうかは不透明だ。NVIDIAはすでに次世代チップ「Blackwell」の開発を進めており、性能面での優位性を維持しようとしている。また、中国の大手クラウドサービスプロバイダーにとっては、米国の規制に準拠したチップを使用することで、NVIDIAの技術サポートやメンテナンスサービスを受けられることが重要な要素となっている。
この競争は、中国のAI開発を促進し、米国技術への依存度を低下させる可能性がある一方で、グローバルAI市場にも大きな影響を与えるだろう。中国企業がHuaweiのチップを採用することで、NVIDIAのCUDAエコシステムから離れ、独自のAIフレームワークを発展させる可能性も出てきた。
Xenospectrum’s Take
HuaweiのAscend 910Cの登場は、中国のAI産業にとって大きな転換点となる可能性がある。米国の制裁下で、中国企業が独自のAIエコシステムを構築する動きは、グローバルなAI開発の多様性を促進する一方で、技術の分断リスクも高めている。
この状況は、単なる企業間の競争を超えて、国家間の技術覇権争いの様相を呈している。HuaweiとNVIDIAの競争が激化することで、AI技術の進歩が加速する可能性がある一方で、国際的な協調や標準化の取り組みが阻害される懸念もある。
今後は、技術の発展と国際協調のバランスをどのように取るかが重要な課題となるだろう。また、この競争がAI技術の民主化や、より多くの企業や研究機関がAI開発に参入する機会を生み出すことを期待したい。技術の進歩が特定の企業や国家に独占されることなく、人類全体の利益につながる形で発展していくことが理想的な未来の姿であると考える。
Source
- South China Morning Post: Huawei’s AI chips take another step forward as Chinese firms look for Nvidia alternatives
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