韓国の電子機器大手Samsung Electronicsが、半導体受託製造(ファウンドリー)事業と論理回路設計事業の分離を検討しているのではとの憶測が少し前に報じられたが、今回Reutersのインタビューに応じた同社の李在鎔会長によって、この噂は否定された。同氏は同時に、両事業部門の巨額損失にもかかわらず、事業拡大に意欲を示しているようだ。
Samsungの野心的な経営判断
Samsung Electronicsの李会長は、Reutersのインタビューに応じ、「我々は事業を成長させることに飢えている。(ファウンドリーと設計事業を)分離することには興味がない」と明言した。この発言は、同社の半導体事業戦略に関する憶測を一蹴するものとなった。
ファウンドリー事業と System LSI(論理回路設計)事業は、Samsungの半導体部門において重要な位置を占めている。しかし、アナリストらの推計によると、これらの事業部門は2023年に約3.18兆ウォン(約3,490億円)の営業損失を計上。さらに2024年も2.08兆ウォン(2,200億円)の損失が見込まれている。
この巨額損失の主な要因として、需要の低迷と大口顧客からの大型受注の獲得難が指摘されている。特に、ファウンドリー事業においては、台湾のTSMCに比べ、Apple、NVIDIA、AMDといった主要顧客との関係構築に苦戦している状況だ。
しかし、Samsungは2019年に掲げた「2030年までに世界最大のファウンドリー企業になる」というビジョンを堅持。この目標達成に向け、韓国と米国で新工場建設を含む数十億ドル規模の投資を継続している。
Lee会長の発言は、こうした長期戦略への強いコミットメントを示すものと解釈できる。同時に、ファウンドリー事業と設計事業を一体運営することで、メモリーチップ事業からの財務的支援を維持し、競争力を高める狙いがあると見られる。
業界動向とSamsungの将来への希望
半導体業界では、近年の需要低迷や地政学的リスクの高まりを背景に、各社が事業戦略の見直しを迫られている。特に注目されるのは、Samsungのライバルである米Intelの動きだ。Intelは投資家からの圧力を受け、先月、ファウンドリー部門を独立子会社として分離すると発表した。
一方、Samsungは統合戦略を維持する方針を示した。この判断には、顧客からの信頼獲得という課題がある。2017年に製造部門と設計部門を分離したものの、顧客の中には両部門間での機密情報共有を懸念する声が依然としてある。
サンミョン大学のシステム半導体工学科のLee Jong-hwan教授(元Samsung技術者)は、「原則的には、Samsungがファウンドリー事業を分離することで、顧客からの信頼を獲得し、事業に集中できる」と指摘する。しかし同時に、「メモリーチップ事業からの財務支援を失えば、単独での生存は困難になるだろう」とも述べている。
Samsungの投資計画も注目を集めている。特に、米国テキサス州テイラーに建設中の新工場は、当初の計画から生産開始時期が2026年に延期された。李会長は「(米国での)選挙など状況の変化により、少し厳しい状況だ」と認めている。この背景には、3nmプロセス技術の歩留まり問題や、米国の政策変更への懸念があるとされる。
にもかかわらず、Samsungは長期的な成長への自信を示している。最新の決算報告書では、「第2世代3nm GAA技術の本格的な量産により、売上高の伸びが市場水準を上回る」と予測。さらに、AIとHPCの顧客からの強い需要もアピールしており「2023年の水準と比較して、2028年までに顧客基盤を4倍に、売上高を9倍に増加させる」という野心的な目標を掲げている。
Xenospectrum’s Take
Samsungのファウンドリー事業と設計事業の統合維持戦略は、短期的には挑戦的だが、長期的には賢明な判断と言える。現在の損失は確かに懸念材料だが、半導体産業は周期性が高く、需要の回復とともに状況は改善する可能性が高い。
特に注目すべきは、Samsungの垂直統合モデルだ。ファウンドリーと設計部門の緊密な連携は、次世代プロセス技術の開発と実装において大きな強みとなる。また、メモリーチップ事業からの財務的支援は、継続的な大規模投資を可能にし、TSMCとの技術格差を縮める原動力となるだろう。
ただし、顧客の信頼獲得は依然として課題だ。Samsungは、部門間の情報遮断を徹底し、透明性を高める努力を続ける必要がある。また、3nmプロセスの歩留まり改善は急務であり、これが実現できれば、主要顧客の獲得につながる可能性が高い。
米国での工場建設計画の遅延は懸念材料だが、長期的には米国政府の支援を受けられる可能性が高く、地政学的リスクの分散という観点からも重要な戦略だ。
2028年までの野心的な成長目標は、業界の予測を大きく上回るものだ。この目標達成には、技術革新だけでなく、マーケティングや顧客関係管理の強化も不可欠となる。Samsungが培ってきた総合電子機器メーカーとしての強みを活かし、AIやHPC(高性能コンピューティング)市場での存在感を高められるかが鍵となるだろう。
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