米政府の政策立案者らが、半導体大手Intelへの追加支援策の検討を水面下で開始していることが明らかになった。米CHIPS法で既に決定している85億ドルの助成金に加え、AMDやMarvellとの戦略的な合併も選択肢として浮上しているという。
「国家チャンピオン」の存続を重視
商務省の高官らとCHIPS法成立の立役者である上院議員のMark Warnerは、Intelの戦略的重要性を強調している。同社は米国内で唯一、最先端半導体の設計と製造の両方を手がける企業であり、年間400億ドルを超える輸出実績を持つ。さらに、国防総省のSecure Enclaveプログラムで軍事用チップの開発も担っており、経済安全保障の観点からも存続が不可欠とされている。
政策立案者らは2008年の自動車産業救済で実施したような政府による直接的な資金注入は避ける方針のようだ。代わりに、民間主導での業界再編を後押しする形での支援を模索している。具体的には、AMDやMarvellとの合併を促す案が有力視されている。また、QualcommやArmもIntelの一部もしくは全体の買収に関心を示しているとされる。
18A製造プロセスが再建の鍵
これに対し、元IntelのCEO、Craig Barrettは分割案に異を唱えている。「研究開発費の縮小は技術革新の停滞を招く。現在の半導体産業でムーアの法則を推進できるのは、Intel、Samsung、TSMCの3社のみである」と指摘している。
Pat Gelsinger CEOは2024年第3四半期の決算発表で、次世代製造プロセス「18A」の開発が予定通り進んでいることを強調した。すでにAmazonを含む3社が採用を表明しており、業界の信頼回復に向けた兆しも見えている。
一方で、Intel社内では16,500人規模の人員削減を進めており、2024年8月には配当も停止。信用格付け機関による格下げも相次ぐなど、経営環境は依然として厳しい状況が続いている。
独禁法との綱引きも
だが、こうした政策の実現には、商務省と連邦取引委員会(FTC)の間での攻防も予想される。Intel、AMD、Marvellといった主要半導体企業の合併は、通常であれば独占禁止法違反として即座に却下される案件だからだ。実際に攻防は既に始まっているようだ。
商務長官のGina Raimondo氏は、中国との技術覇権競争において、強力な「国家チャンピオン」の存在が不可欠だとの立場を取っている。一方、FTC委員長のLina Khan氏は、巨大テクノロジー企業の市場支配力への規制強化を掲げており、両者の見解は真っ向から対立している。
しかし、2023年にJP MorganがFirst Republicを緊急買収した事例が、新たな前例として注目されている。この事例では、金融システムの安定性という公共の利益が、競争法の適用よりも優先された。同様に、Intel救済においても、半導体サプライチェーンの安全保障という観点から、例外的な判断が下される可能性がある。
特に、TSMCやSamsungといった海外企業への依存度が高まる中、米国内での先端半導体製造能力の維持は、政権にとって最優先課題となっている。このため、商務省の意向が強く反映される可能性が高いとの見方が専門家の間で広がっている。また、複数の政策立案者は、仮にIntelの経営危機が深刻化した場合、その影響は一企業の問題を超えて、国家安全保障上の危機にまで発展する可能性があると指摘している。
このような状況下で、独占禁止法の執行においても、「国家安全保障」という新たな判断基準が実質的に導入される可能性が出てきた。これは、米国の競争政策における大きな転換点となる可能性を秘めている。今後、他の戦略的産業分野においても、同様の判断基準が適用される可能性があり、その影響は広範囲に及ぶことが予想される。
Xenospectrum’s Take
今回の動きは、米国の半導体産業における国家戦略の転換点となる可能性がある。特に注目すべきは以下の3点だ:
- 政府が「国家チャンピオン」育成に向けて、従来の独占禁止政策の枠組みを柔軟に解釈する可能性が出てきたこと
- 半導体産業における米中競争が、より直接的な政府介入を正当化する論理として機能し始めていること
- Intel救済の成否が、米国の産業政策の有効性を測る試金石となること
さらなる展開が予想される中、政府の支援策の具体的な内容と、それに対する市場の反応が注目される。
Source
コメント