欧州委員会(EC)は米国のガラス製造大手Corningに対し、スマートフォンなどの電子機器向け特殊ガラス市場での支配的地位の乱用について、正式な独占禁止法調査を開始したことを発表した。同社の看板製品「Gorilla Glass」を巡る取引慣行が、競合他社を市場から排除し、消費者利益を損なっている可能性があるとしている。
独占的取引で市場を支配か
調査の焦点となっているのは、Corningが展開する特殊なアルカリアルミノケイ酸ガラスの取引慣行である。ECによると、同社はスマートフォンメーカーに対し、必要とするガラスのほぼ全量を自社から調達することを義務付け、これに応じた企業には特別な割引を提供していたとされる。さらに「イギリス条項」と呼ばれる規定を設け、メーカーが競合他社から受け取った見積もりをCorningに報告することを義務付け、同社が価格を合わせない限り、その見積もりを受け入れることができない仕組みを構築していた疑いが持たれている。
こうした取引制限はガラス加工業者との関係にも及んでいた。ECの調査では、Corningが加工業者に対しても、特殊ガラスの需要全量または重要な一部を自社から購入することを要求。さらに、同社の特許に対する異議申し立ても禁止していたという。
消費者負担の増大とイノベーションの停滞を懸念
EU競争政策担当のMargrethe Vestager委員は、この問題の本質を消費者視点から指摘する。「スマートフォンの画面が割れることは、誰もが経験する苛立たしく高額な出費を伴う問題です。だからこそ、保護ガラスの生産における健全な競争が、価格の適正化と品質向上には不可欠なのです」と述べ、Corningの行為が市場競争を歪め、結果として消費者に不利益をもたらしている可能性を強調した。
皮肉なことに、Gorilla Glassの卓越性は業界でも広く認められている。初代iPhoneの開発時、Steve Jobs氏の強い要請により採用が決まって以来、その耐久性と信頼性は携帯端末用ガラスの事実上の標準として確立された。第4世代では競合製品の2倍の強度を実現し、第5世代では1.6メートルの落下でも80%の確率で破損を免れる性能を達成。Appleは同社のガラス製品を極めて重要視し、米国内の製造拠点拡大のために4,500万ドルを投資するほどである。
しかし、その技術的優位性を背景とした市場支配力の行使が、今回のEUの調査により問題視されることとなった。この調査で独占禁止法違反が認定された場合、Corningは2023年度の年間収益125.9億ドルの最大10%に相当する制裁金を課される可能性がある。
同社の広報担当者は「事業を展開するすべての地域で適用される規則や規制の遵守に努めており、欧州委員会の懸念に対して協力的に対応していく」とコメントしている。
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