世界第2位のGPUメーカーであるPC Partnerが、次世代GeForce RTX 5000シリーズの発売を控え、米国の対中制裁を回避するため、香港から拠点を移転する動きを本格化させている。ZOTAC、Inno3D、Manliなどの有力ブランドを傘下に持つ同社は、本社機能をシンガポールへ、生産拠点をインドネシアへと移転を進めており、来たる高性能GPU時代への備えを着々と進めている。
制裁回避を見据えた戦略的な拠点移転
HKEPCの報道によると、PC Partnerは米国商務省による対中ハイテク輸出規制の影響を回避するため、香港から新たな拠点への移行を迅速かつ慎重に進めている。特筆すべきは、この移転が市場の注目を集めないよう細心の注意を払いながら実施されたことだ。
シンガポールへの本社機能移転は既に具体的な成果を上げており、同社はPC Partner Singapore PTE Ltd.として、シンガポール証券取引所(SGX)への上場を完了している。これにより、将来的な事業継続性を確保する法的基盤を整備したと言える。インドネシアへの生産拠点移転については、興味深い動きが確認されている。HKEPCは、ZOTACのインドネシア工場でNVIDIAのGeForce RTX 5090とされる製品の稼働実績があったと報じている(後にこの製品はRTX 4070 Tiモデルであることが確認された)。
DigiTimesの報道によれば、この移転の背景には、次世代GeForce RTX 5000シリーズ「Blackwell」の製造と流通を見据えた長期的な視野が存在する。特に高性能なGPUほど輸出規制の対象となりやすい現状において、制裁の影響を受けない地域での事業展開は、PC Partnerにとって事業継続の生命線となっている。香港が米国の政策の影響下にあることを考慮すると、この判断は今後のハイエンドGPU製造における重要な戦略的意義を持つ。
PC Partnerは1997年の設立以来、かつてはAMDのRadeonリファレンスカードも製造していた実績を持つ。現在ではZOTAC、Inno3D、Manliといった主要ブランドを管理し、HKEPCによれば、これらのブランドを合わせると「世界第2位のグラフィックボードメーカー」としての地位を確立している。この規模を持つ企業の移転は、グローバルGPU市場の製造・流通構造に大きな影響を与える可能性を示唆している。
Xenospectrum’s Take
米中ハイテク覇権競争の激化により、GPUメーカーは事業継続のため、より戦略的な判断を迫られている。PC Partnerの動きは、制裁リスクを回避しつつ、成長市場でのプレゼンス維持を図る賢明な選択と言える。特に、RTX 5000シリーズで予想される大幅な性能向上を考えると、RTX 5080クラスですら制裁対象となる可能性も否定できない。企業の”生存戦略”と見るべき今回の判断は、今後のGPU業界の勢力図を大きく塗り替える可能性を秘めている。皮肉なことに、技術の進歩が企業の地理的な移動を促進している現状は、グローバル化と保護主義の奇妙な均衡を示唆している。
Sources
コメント