AIエージェント向けの新しいオペレーティングシステムを開発する/dev/agentsは27日、Index VenturesとAlphabet傘下のCapitalGの共同リードにより、5600万ドルのシード資金調達を完了したと発表した。同社はStripe元CTO、Google Android元幹部のDavid Singleton氏が、MetaのVR部門元責任者Hugo Barra氏らと共同で設立したスタートアップだ。
AIエージェント基盤の新たな挑戦
/dev/agentsは、コンピューティングの新たなパラダイムシフトの最前線に立とうとしている。現在のAIシステムの多くは、人間の作業を支援する「副操縦士(Copilot)」として機能しているが、同社が目指すAIエージェントは、特定のタスクを完全に自律的に実行する「オートパイロット」としての役割を果たす。これは、ソフトウェアと人間の関係性を根本的に変える可能性を秘めている。
しかし、この野心的なビジョンの実現には大きな技術的課題が存在する。現在のソフトウェアシステムは人間のインタラクションを前提に設計されており、情報やコンテキストが各種デバイスやプラットフォーム間で分断されている状況にある。David Singleton CEOは「今日ではAIデモを数時間で構築できるが、消費者がクレジットカード情報を信頼して預けられるようなものを作るのは事実上不可能だ」と指摘し、信頼性の高いAIエージェントプラットフォームの必要性を強調している。
この課題に対応するため、同社は全く新しいUIパターンの開発、ユーザーデータモデルの再構築、そしてAIエージェント間の協調動作ルールの確立に取り組んでいる。これは、かつてのモバイルコンピューティングの黎明期に似た状況だと同社は分析する。スマートフォンが真の価値を発揮するためには、優れたアプリケーションのエコシステムが必要だった。同様に、AIエージェントの潜在能力を解放するためには、開発者が容易に信頼性の高いアプリケーションを構築できる基盤が不可欠となる。/dev/agentsは、この基盤となるクラウドベースのオペレーティングシステムを開発することで、AIエージェントの主流化を加速させることを目指している。
こうした取り組みは、単なる技術的な革新を超えて、人々とソフトウェアの関係性を根本から変える可能性を秘めている。AIエージェントが人間のチームメイトとして機能する未来では、現在のようにアプリケーションのグリッドを操作して各タスクを実行するのではなく、AIエージェントが自律的に適切なソリューションを提供するようになると同社は展望している。
Androidの中核に携わった豪華な創業メンバーが集結
/dev/agentsの創業チームは、テクノロジー業界の黄金期を築いてきたベテラン達で構成されている。各メンバーが、モバイル、VR、インフラストラクチャーなど、コンピューティングの主要な転換点で中心的な役割を果たしてきた実績を持つ。
CEO就任のDavid Singleton氏は、直近までStripeでCTOを務め、「インターネットのGDP」を成長させる金融インフラの構築に貢献した実績を持つ。それ以前のGoogleでは、AndroidエコシステムにおいてVP of Engineeringとして活躍し、特にスマートウォッチなどのウェアラブルデバイス向けプラットフォームであるAndroid Wearの立ち上げを主導した。アイルランドの小さな町で育った彼は、技術的な卓越性と謙虚な人柄を兼ね備えたリーダーとして、多くのエンジニアや起業家から尊敬を集めている。
CPOのHugo Barra氏は、卒業後すぐに音声認識技術のスタートアップを共同創業し、この技術は後にAppleのSiri第一世代に採用された。その後Googleに入社し、Android OSのプロダクトマネジメントを指揮。その実績を買われXiaomiに転じ、同社のグローバルスマートフォン事業の展開を推進した。さらにMetaでは、OculusのVR製品部門のVPとして活躍。最近ではAIヘルス診断企業Detectの共同創業者兼CEOを務めるなど、新しい技術領域への挑戦を続けている。
CTOに就任したFicus Kirkpatrick氏は、高校を中退後、現代のスマートフォンの先駆けとなったDanger Hiptop(T-Mobile Sidekick)の開発に携わった。その後、GoogleによるAndroid買収以前から同プロジェクトに参画し、Google Playを数十億ドル規模のビジネスへと成長させた。MetaではVR/ARプラットフォームの開発責任者として、再びHugo Barraと協働している。
CDOのNicholas Jitkoff氏は、Chrome OS、Android、Oculusなど、新しいコンピューティングプラットフォームのデザインで重要な役割を果たしてきた。特にGoogleのホリスティックなインターフェースフレームワークであるMaterial Designの主任デザイナーとしての功績は広く知られている。その後、DropboxのVP of Designを経て、FigmaではコアシステムとAIデザインチームを率いた。
この4人の創業メンバーは、単なる経歴の豪華さだけでなく、Androidという巨大プラットフォームの構築過程で培った協働の経験を共有している。彼らは、開発者コミュニティと密接に連携しながら、持続可能なプラットフォームの基盤を構築するという共通のビジョンを持っている。この経験と専門性の組み合わせは、AIエージェントという新しいコンピューティングパラダイムの基盤を築く上で、極めて重要な強みとなるだろう。
Xenospectrum’s Take
モバイルOSの黎明期に重要な役割を果たしたメンバーが再集結した今回の取り組みは、AIエージェント時代の基盤作りという野心的な挑戦となるだろう。しかし、既存のソフトウェアエコシステムの制約や、プライバシーモデルの再構築という課題に直面することは必至だ。5600万ドルという異例の大型シード資金調達は、彼らの実績への信頼の表れであると同時に、期待に応えるプレッシャーともなるだろう。モバイルプラットフォームの成功体験が、まったく異なる特性を持つAIエージェントの世界でも通用するのか、業界の注目が集まる。
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