Biden-Harris政権は26日、Intel社への最大78.6億ドル(1兆2,000億円)のCHIPS法助成金支給を正式に決定した。この資金は同社の米国内商用半導体製造施設の拡大を支援するもので、国内の半導体サプライチェーンの強化を目指す政府の取り組みの一環となる。
助成金規模と投資計画の詳細
当初提示されていた85億ドル(1兆3,000億円)から減額となった今回の助成金だが、これは同社が国防総省から30億ドル(4,590億円)の補助金を獲得したSecure Enclaveプログラム補助金が影響している。このSecure Enclaveプログラムは、航空宇宙および機密性の高い用途向けの先端半導体を製造することを目的としており、アリゾナ州のIntel 18A対応のFab 52およびFab 62を含む複数の州での展開が予定されている。
Intelはこの78.6億ドルの助成金に加え、米国財務省から投資税額控除も受けることができる。これは1000億ドル以上の適格投資に対して最大25%の控除が適用されるもので、同社の投資計画を後押しする重要な支援策となる。
具体的な投資計画は4つの州にまたがり、それぞれが重要な役割を担う。アリゾナ州チャンドラーでは2つの新工場の建設が進められ、ニューメキシコ州リオランチョでは既存の2工場の近代化が行われる。特にニューメキシコの施設は、完成後には米国最大の先端パッケージング施設となる見込みだ。オハイオ州ニューアルバニーでは最先端ロジック工場の建設が計画されており、オレゴン州ヒルズボロは「世界でわずか3カ所しかない最先端プロセス技術の開発拠点の1つ」として位置づけられている。
また、同社のCEOであるPat Gelsinger氏は、すでにIntel 3プロセスが量産体制に入っており、次世代のIntel 18Aプロセスも来年から稼働予定であることを強調している。さらに、Amazon Web Services(AWS)との間で複数年、数十億ドル規模の契約を締結し、Intel 3プロセスでの新型Xeon 6チップとIntel 18AプロセスでのAIファブリックチップの開発を進めることも明らかにしている。
これらの投資は単なる製造能力の拡大にとどまらず、米国の半導体技術における競争力を回復させる重要な一歩となる。特に、オレゴン州の研究開発施設に設置された業界初の商用High Numerical Aperture (High NA) Extreme Ultraviolet (EUV)リソグラフィスキャナーは、次世代チップ製造技術における米国のリーダーシップを確立する上で重要な役割を果たすことが期待されている。
この大規模投資により、4州合わせて製造部門で約1万人、建設部門で2万人、さらに関連産業で5万人以上の雇用創出が見込まれている。Intel社は人材育成にも注力し、総額6500万ドルを投じる。その内訳は、教育・訓練プログラムに5600万ドル、施設近隣の保育所整備に500万ドル、女性や経済的弱者の建設労働者としての採用促進に400万ドルとなっている。
労働者の安全性と環境への懸念
だが、こうしたIntelの大規模な設備投資計画に対して、労働者の権利擁護団体Chips Communities United(CCU)は重要な懸念を提起している。CCUは労働、環境、社会正義、市民権、そしてコミュニティ組織の連合体として、全国の数百万人の労働者とコミュニティメンバーを代表している。同団体は基本的にIntelの米国内拡大を支持しているものの、労働安全と環境保護の観点から複数の重要な課題を指摘している。
特に注目すべき問題として、有害物質の管理体制がある。CCUの連合ディレクターであるJudith Barish氏は、半導体製造における「保護的な職場の健康と安全性に関する規制」が歴史的に不足していたと指摘する。現在のIntelの計画では、有害化学物質の管理を業界が開発したガイドラインに従って行うとしているが、これには重大な問題がある。このガイドラインは独自規格で著作権が設定されており、購入しなければ内容を確認できない。Barish氏は「規制される企業が自らの規制を作成することは、良い統治の基本原則に反する」と批判している。
環境面での懸念も深刻だ。オレゴン州の施設では昨年、大気汚染制御装置が2か月間停止し、二酸化炭素排出量の過少報告が発覚した。この事態を受け、CCUはアリゾナ州のオコティロ工場に対して完全な環境影響評価書の提出を要請している。特に有害物質の使用、保管、放出に関する詳細情報と、環境への影響の緩和計画の開示を求めている。
PFASを含む廃棄物の分離処理に関しても、透明性の向上が求められている。Barish氏は、これらの物質が「どのように分離され、保管され、処理されるのか、また近隣コミュニティへの環境影響がどのようなものになるのか」について、より詳細な情報開示が必要だと主張している。
さらに、労働者の権利保護に関する懸念もある。現在、Intelは4つの建設サイトのうち1カ所でのみ労働組合員の雇用を約束している。CCUは、労働者が「脅迫、拘束聴衆集会、反組合コンサルタントへの接触、報復の脅威、その他の障害なしに」組合に加入する権利を明確にすべきだと主張している。
これらの課題に対して、米国商務省はIntelに対し、各プロジェクト施設で定期的に労働者と管理者との会合を持ち、労働安全上の懸念について協議することを義務付けている。しかし、CCUが指摘するように、Intel社が労働力、健康・安全性、環境に関する目標や基準を達成できなかった場合の具体的な罰則や資金の返還についての規定が不明確なままとなっている。
これらの問題は、大規模な政府助成を受けるIntelの説明責任と透明性の重要性を浮き彫りにしている。労働者の安全と環境保護を確保しつつ、半導体製造の国内回帰を実現するという難しいバランスが求められている。
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