ハイエンドノートPC「Razer Blade 18」をWindows 11、Ubuntu 26.04、CachyOSで動かした99本の比較で、WindowsがローカルAI処理に強い場面が見られたという。そしてその差だが、最大でUbuntuの実に3.43倍に達したとのことだ。しかし生データとテストプロファイルをたどると、その数字はOSの優劣を直接示してはいない。llama.cppのCPUテストではWindowsとLinuxでビルド経路が違い、Vulkanのテキスト生成はほぼ並ぶ。一方、同一配布物を使う音声認識にもWindows優位が残った。二つの結果は分けて読む必要がある。
99テストの首位はCachyOS、Windowsは最下位も多い
比較を実施したのはPhoronixで、機材はCore Ultra 9 290HX Plus、GeForce RTX 5090 Laptop GPU、32GBのDDR5-6400を積むRazer Blade 18だ。Windows 11はRazer出荷時の環境、Ubuntuは26.04 LTSとLinux 7.0、CachyOSはローリング版とLinux 7.1を使った。
同じ筐体でもソフトウェア条件はそろっていない。WindowsのNVIDIAドライバーは596.36、Ubuntuは595.71.05、CachyOSは610.43.02だった。Linux側はカーネル、コンパイラ、ファイルシステムも異なる。これは各OSの現実的な構成を比べるテストであり、OS以外を固定した実験ではない。
99本で首位を取った割合はCachyOSが51%、Windowsが38%、Ubuntuが10%だった。反対に最下位はWindowsが50%、Ubuntuが43%を占める。全結果の幾何平均ではCachyOSがわずかに先行し、WindowsはUbuntuを小幅に上回った。BlenderなどのレンダリングやOpenAPV、SVT-AV1の動画エンコードではLinuxが強い。AI項目の一部を切り出して「WindowsがLinuxを全面的に圧倒した」と広げることはできない。
最大3.43倍はCPU経路、Vulkan生成はほぼ横並び
ローカルAIの差は、モデル名より実行経路と処理段階で大きく変わる。代表値を並べると輪郭が見える。
| テスト | 指標 | Windows 11 | Ubuntu 26.04 | CachyOS | Windows対Ubuntu |
|---|---|---|---|---|---|
| llama.cpp / GLM / CPU | プロンプト処理 | 116.62 tok/s | 33.97 tok/s | 74.21 tok/s | 3.43倍 |
| llama.cpp / gpt-oss / Vulkan | プロンプト処理 | 6027.71 tok/s | 3801.76 tok/s | 3832.61 tok/s | 1.59倍 |
| llama.cpp / gpt-oss / Vulkan | テキスト生成 | 184.55 tok/s | 184.36 tok/s | 186.96 tok/s | ほぼ同じ |
| Whisperfile / medium | 音声認識時間 | 520.87秒 | 991.70秒 | 976.80秒 | 1.90倍速い |
3.43倍は、llama.cppのGLMをCPUで動かし、2048トークンのプロンプトを処理した値だ。128トークンのテキスト生成では、CPU経路のWindowsがUbuntuを1.59~2.81倍上回る項目が並ぶ。
GPUのVulkan経路は別の姿を見せた。Qwen、gpt-oss、GLMのテキスト生成はCachyOSが3項目とも首位だったが、Windowsとの差は最大1.31%にとどまる。ところがgpt-ossのプロンプト処理ではWindowsがUbuntuの1.59倍、GLMでは1.08倍だった。同じAPIでも、入力を読み込む処理と次のトークンを生成する処理を一つの数字に束ねられない。
同じ「CPU BLAS」でも実体は別のビルド
最大差を解釈する鍵は、OpenBenchmarkingのllama-cpp-2.5.0プロファイルにある。Linuxではllama.cppのb8933ソースを展開し、GGML_BLAS=ONとGGML_BLAS_VENDOR=OpenBLASを指定して、その場でコンパイルする。Windowsでは同じリビジョンのソースを同じ設定でビルドせず、公式配布のllama-b8933-bin-win-cpu-x64.zipを展開する。
llama.cppのb8933リリース工程を見ると、Windows向けCPUパッケージはGGML_CPU_ALL_VARIANTS=ON、GGML_BACKEND_DL=ON、GGML_OPENMP=ONで作られる。実際の配布物にはAlder Lake、Ice Lake、Sapphire Rapids、Zen 4などに対応するCPU DLLが入り、該当ジョブにはGGML_BLAS=ONもOpenBLASのベンダー指定もない。テスト名に「BLAS」とあっても、両OSが同一の計算バックエンドを使った比較ではない。
リビジョン、モデル、物理コア数に合わせたスレッド指定は共通だ。それでもコンパイラ、最適化、CPUカーネルの選択が違えば、3.43倍の内訳からOSの寄与だけを取り出せない。この数字が示すのは「用意された各プラットフォーム向け実行物が、この1台でどう動いたか」までである。WindowsのカーネルやスケジューラがLinuxより3.43倍優れるという証明にはならない。
Whisperfileの1.90倍は別の信号として残る
ビルド差を見つけても、Windows優位をすべて消去するのは早計だ。Whisperfileプロファイルは、Mozillaが配布する同じ.llamafileと同じ音声入力を各OSで使う。tinyではWindowsが45.41秒、Ubuntuが66.40秒で1.46倍、smallでは192.30秒と342.17秒で1.78倍、mediumでは520.87秒と991.70秒で1.90倍の差がついた。CachyOSは各サイズでUbuntuに近く、Windowsは3サイズを通じて速い。
こちらは配布物と入力が共通なため、llama.cppのCPU比較よりプラットフォーム間の条件が近い。少なくとも、このRazer Blade 18とWhisperfileの組み合わせでWindows側が有利だった事実は残る。ただしプロファイルは2024年8月作成で、音声入力は1本だけだ。現在のWhisper系実装全般、別のCPUやデスクトップPC、GPU推論にまで1.90倍を外挿する根拠はない。
Ubuntu認証とRazerのLinux支援は同義ではない
Phoronixによれば、このBlade 18はRazer製ノートとして初のUbuntu認証に向けた作業中にある。Canonicalのデスクトップ認証は、特定のUbuntuリリースでハードウェア互換性を確認し、更新による回帰を監視する制度だ。個々のアプリがWindowsより速いと保証するものではない。
Razerの公式サポートはさらに境界が明確で、別OSの導入は可能としつつ、製品は出荷時OS向けに設計され、保証とサポートも出荷時OSに限ると案内している。Ubuntu認証が完了すれば、対象リリースでの互換性確認には意味があるが、Razer自身の支援方針が自動的に変わるわけではない。
OSそのものの性能差を測るなら、llama.cppのリビジョンに加えてCPUバックエンドとコンパイラ設定を合わせ、スレッド数も固定する必要がある。電力モードと熱状態も同条件にする。Vulkanではドライバー世代をそろえ、中央値とばらつきを公開する。Whisperfileは現行ビルドと複数の音声で再現を確かめたい。元データが語るのは、WindowsがローカルAIの一部経路で大幅に速くなり得るということだ。Linux全体への判決ではない。
