Right to Repair EuropeとiFixitは2026年9月7日、EUのスマートフォン製品登録を調べた結果、約8割で修理情報への案内が不十分だったと公表した。修理しやすさの表示を義務付ける規則が2025年6月20日に適用されてから、1年余りが経過している。購入前に長く使える製品を選べるはずの制度で、判断に必要な情報へたどり着けない。製品登録には最高評価の「A」と空欄同然の修理案内が同居しており、評価の高さと、実際に修理を頼み、費用を判断できることの隔たりが見えてくる。
「約8割」は何を調べた数字なのか
調査対象は、EUの製品データベース「EPREL」に載るスマートフォンの登録2,334件だ。団体は過去1年間に市場へ投入されたモデルの記録を調べ、部品価格や修理手順を容易に見つけられるウェブサイトが記載されていたのは約18%だったと報告している。EPRELは、メーカーや輸入業者などがエネルギーラベルに関する情報を登録する仕組みである。
約半数の登録は、URLが入るべき欄が空白だった。別の19%は、必要な修理手順や部品価格の見当たらない製品ページ、サポートページなどを案内していたという。リンクを載せる段階と、その先で使える情報を提供する段階の双方で、不備が見つかったことになる。調査報告
ただし、この数字を「欧州で売れたスマホの8割は修理できない」と読み替えることはできない。分母は販売台数ではなく登録件数であり、販売シェアを反映した集計ではないからだ。実機を分解して修理の可否を試した調査でもない。公開された報告は調査の要約で、全件の判定を再検証できるデータは掲載されていない。
それでも、修理の入口となる情報の欠落は、消費者にとって具体的な問題だ。画面が割れたときに部品を買えるのか、その値段はいくらか。購入前に確認できなければ、長く使うための費用を本体価格と一緒に比較できない。
無料公開する情報と、業者向け情報の違い
EUのエコデザイン規則は、交換部品の一覧と注文方法、対象部品の税抜き参考価格を、メーカーなどの公開サイトに載せるよう求めている。価格は少なくともユーロで示す必要がある。「公開サイト」の意味も明確で、料金の支払いや、メールアドレス・電話番号といった個人情報の提供を求めずに閲覧できるサイトだ。規則2023/1670・附属書IおよびII
修理情報の提供先は、部品や情報の種類で分かれる。一般利用者にも供給する画面などの部品については、交換に必要な詳しさの修理手順を無料で公開しなければならない。一方、専門の修理業者が必要とする基板図や診断情報などには、技術能力や保険加入を確認する登録手続きを設けることができ、情報へのアクセスに合理的かつ相応の料金を課すことも認められる。
したがって、業者向け情報に登録が必要という理由で直ちに違反とはいえない。反対に、消費者へ公開すべき部品価格を、問い合わせた人にしか教えない仕組みでは、公開の義務を満たせない。どの情報を誰に示す義務があるかを分ける必要がある。
供給や情報提供の期間も、購入日から数えるものではない。規則は対象部品について、モデルの最後の1台が市場に投入されてから少なくとも7年間の供給などを求める。新製品の発売時に説明ページを作って終わりではなく、販売終了後も修理を支える仕組みである。
A評価なのに、修理案内は空欄かTemu
EPRELの個別登録票では、修理情報の自己評価と、その根拠を利用者が確かめるための案内との食い違いが見える。団体が例示したスマートフォン「OUKITEL WP35 Pro」と、タブレット「I17」の登録票を照合すると、次のようになっていた。
| 登録票の項目 | OUKITEL WP35 Pro | I17タブレット |
|---|---|---|
| 修理しやすさの等級 | A | A |
| 修理しやすさの指数 | 4.10 | 4.00 |
| 修理情報の得点 | 5 | 5 |
| 部品の入手案内 | 「/」のみ | Temuのトップページ |
| 利用者向け修理手順 | 「/」のみ | Temuのトップページ |
| 税抜き参考価格 | 「/」のみ | Temuのトップページ |
出典はWP35 Proの登録票とI17の登録票。2026年9月9日に確認した各票の評価欄と案内欄を並べたもので、タブレットをスマートフォン2,334件の集計に加えたものではない。
両機種とも修理情報は満点の5だが、登録票の案内からは、その得点に対応する機種別の修理情報を確認できない。EUの採点基準では、この5点を得るには、基板図を除く修理・保守情報を一般利用者へ無料で公開し、専門業者には基板図も含めて無料で提供する必要がある。通販サイトのトップページを示すだけでは、どの部品を買い、どう交換するかは分からない。
ここでも、登録表示の問題と法令違反の確定は区別したい。WP35 Proの登録票には、モデルの初回市場投入日が規則適用前の2025年5月13日と記されている。しかし欧州委員会の説明では、適用する要件は個々の製品が初めて市場に投入された時点で決まる。モデルの発売日だけで、現在流通するすべての個体を適用対象とも対象外とも判断できない。欧州委員会の市場投入に関する説明
この比較で直接確認できるのは、申告された高得点に見合う情報への案内が登録票にないことだ。メーカーが別の場所に情報を用意しているか、個々の端末が要件を満たすかは、さらに調べる必要がある。
修理しやすさの点数に、部品価格は入らない
EUの修理しやすさの指数は、6項目の加重平均で決まる。分解に必要な手順数の比重が25%で、固定具の種類と必要な工具、部品の供給、ソフトウェア更新期間、修理情報がそれぞれ15%を占める。部品価格はこの計算に入っていない。規則2023/1669・附属書IV第5項
部品供給の得点も、値段の安さを測るものではない。どの部品を一般利用者と専門業者の双方へ供給するかによって点数が変わる。修理情報の得点は無料提供の範囲を評価する。つまり、表示された等級だけから、電池や画面の交換がいくらで済むかを判断することはできない。
価格を考慮する先例はある。フランスが導入した修理しやすさの指数では、部品価格が新品の本体価格に対してどの程度かを評価に組み込んでいた。EUは、部品価格を公開させる一方、等級は別の項目で計算する設計を採った。この違いによって、消費者自身が価格情報を探し、等級と照らし合わせる必要が生じる。フランス経済省・DGCCRFの制度説明
価格公開の導線が途切れると、この役割分担が働かない。分解しやすい製品を選べても、修理費まで見込んで選ぶことが難しくなるためだ。修理情報を整備し、部品価格も分かりやすく示す企業が、その手間を購入時の評価につなげにくくなるという競争上の問題もある。
是正の先例と、2027年の見直し
フランスでは、当局が表示と採点根拠を実際に検査している。DGCCRFが2024年3月に公表した調査では、2022年に検査した523事業所のうち341事業所、65%に修理しやすさの指数に関する不備があった。89件の是正命令が出され、多くの事業者が必要な修正に取り組み、検査中に是正された例もあったという。今回のEU調査とは時点も制度も分母も異なるが、監視が具体的な修正につながった先例ではある。
EUのラベル規則でも、市場監視の検証は加盟国が担う。供給者による製品情報の登録と、販売店による表示にも、それぞれ義務がある。データベースに登録できたことを、当局が修理しやすさを認証したことと同じに受け取るべきではない。
今回の不備には、確認の難しさが異なるものが混在する。URLの空欄は機械的に見つけられるが、リンク先が対象機種の部品価格を示しているかは内容の確認が要る。さらに修理情報の満点条件を満たしているかを確かめるには、公開情報の範囲と業者向けの提供条件を照合する必要がある。URL欄を埋めるだけで是正完了とすれば、情報を得られない状態が残る。
欧州委員会には、2027年9月20日までにラベル規則の見直し結果を示す期限がある。検討事項には、修理しやすさの指数へ部品価格などを加えることの妥当性が明記されている。価格の算入が決定済みという意味ではないが、制度自身が残した検討課題だ。それまでの是正では、等級の横から対象機種の部品と価格を確かめられるようになったかが、消費者にも見える改善の尺度になる。

