Appleは、Mac Proだけに載せる強力なチップを一度ならず開発していたようだ。BloombergのMark Gurman氏によると、計画されたのは同世代のUltraに対してCPUとGPUのコア数を2倍にしたM2世代、M3世代の上位SoCである。Gurman氏はこれらを「M2 Extreme」「M3 Extreme」と呼んでいるが、Appleが公表した製品名ではない。高い製造コストをMac Proの限られた需要で回収できないと判断され、どちらも市場には出なかったという。

この計画が頓挫した意味は、幻のスペック表よりも、実際に発売された製品を並べると見えやすい。2023年のMac Proは小型のMac Studioと同じM2 Ultraを搭載し、2025年のM3 UltraはMac Studioだけに投入された。そして2026年3月、AppleはMac Proを廃止し、将来の同製品を提供する計画もないと9to5Macに確認した。Extremeは、実現していれば両機の公称コア数に明確な差を作れた計画だった。ただし、その中止がMac Pro廃止を決めたとAppleが説明した事実はない。

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「Ultraの2倍」は何を意味するのか

Bloombergが伝えた2倍とは、CPUとGPUのコア数を指す。動作周波数やメモリ帯域を含む数字ではない。消費電力や実アプリの処理速度まで一律に2倍になるという話でもない。

世代 発売されたUltraの最大構成 報道を最大構成へ当てはめた規模
M2 CPU 24コア/GPU 76コア CPU 48コア/GPU 152コア
M3 CPU 32コア/GPU 80コア CPU 64コア/GPU 160コア

M2世代の48 CPUコア/152 GPUコアは、Gurmanが2022年に報じた上位Mac Pro向け構想とも一致する。当時の説明では4個のM2 Max相当を一つのシステムにまとめる計画だった。M3世代の64/160という値は、M3 Ultraの公表最大値を機械的に倍算した設計規模の目安にすぎず、確認された製品仕様ではない。

コアを増やしても、処理を十分に並列化できなければ増分を使い切れない。複数の演算ブロックが同じデータを待つならメモリ帯域が制約となり、ダイをまたぐ通信や熱設計も性能を左右する。未発売チップのベンチマーク、TDP、メモリ構成はいずれも公表・確認されていない。従って「Mac Studioの2倍の性能になるはずだった」とまでは言えず、「最大コア数を2倍にする設計だった」が確認可能な境界である。

2ダイのUltraFusion、その先で増える配線

製品化されたUltraは、すでに巨大なマルチダイSoCである。M2 Ultraは2個のM2 Maxダイをシリコンインターポーザーで結び、1340億トランジスタを集積する。接続には1万本を超える信号線が使われ、ダイ間帯域は2.5TB/s超。ソフトウェアからは一つのチップに見えるため、開発者は2ダイを意識してコードを書き直す必要がない。

M3 Ultraも基本構造を引き継ぎ、2個のM3 Max1万本超の信号線で接続した。トランジスタ数は1840億、メモリ帯域は800GB/s超、ユニファイドメモリは最大512GBに達する。Appleが出荷実績を持つUltraFusionは、2ダイを一つの論理SoCにまとめる仕組みだ。

2022年に報じられたM2 Extremeのように4個のMax相当へ進む場合、演算コアを増やすだけでは済まない。各ダイへデータを届ける配線と、メモリまでの距離を設計し直す。電力供給と熱の逃がし方もパッケージ全体で組み直す必要がある。ダイが増えれば、隣接する相手と離れた相手で配線長も変わる。

Appleに譲渡された米国特許12,237,269は、この設計課題を具体的に描いている。複数のロジックダイを電力・熱の都合から横に並べ、近距離と長距離のダイ間配線を異なる金属層に振り分けるほか、I/Oダイやクロスバーダイを介する構成も記す。これはExtremeの回路図でも製品化の証拠でもない。それでも、ロジックとメモリを独立に拡張するには、コアを複製する以上の配線設計が必要だと分かる一次資料である。Bloombergが報じた製造の複雑さとコストは、こうしたパッケージ側の問題と整合する。

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同じM2 Ultraを載せた二つの筐体

Appleが2023年に選んだ解は、ExtremeをMac Proへ載せることではなく、完成したM2 UltraをMac Studioと共有することだった。両機とも公称上限は24 CPUコア、76 GPUコア、192GBのユニファイドメモリ、800GB/sのメモリ帯域で、最大22ストリームの8K ProRes 422を再生できる。Mac Proの大きな筐体は、SoCの上位構成を意味しなかった。

代わりにMac Proが提供したのが内蔵PCIe拡張である。7基のスロットのうち6基が空いており、AppleはDSP、SDI入出力、ネットワーク、ストレージの各カードを用途に挙げた。ただし、スロットの物理幅と利用可能な帯域は同じではない。M2 Ultraがシステムへ出すPCIe Gen 4は32レーンで、8レーンは内蔵SSD向け、拡張スロット群へ届くのはPCIeスイッチ経由の24レーンだ。さらに16レーンと8レーンの二つのプールへ分かれる。

つまり2023年型Mac Proの価値は、Mac Studioより速いCPUやGPUではなく、専用カードを筐体内へ収め、macOSから使えることにあった。この差は映像・音響・高速ネットワークなど一部の現場には大きいが、専用SoCの開発費を広い販売台数へ分散させる助けにはなりにくい。

Gurman氏は今回、AppleがほかにもIntelプロセッサを使う特定用途向けMac Pro「J170」と、2025年のMac Studioに並ぶM3 Ultra搭載機「J190」を試していたと報じた。いずれも未発売で、J170の用途は明らかにされていない。この報告から言えるのはIntel版とM3 Ultra版の計画が存在したとされることまでで、採用目的や製品化の段階は不明である。

Mac Studioが残し、Mac Proが失ったもの

M3 Ultraは最大32 CPUコア、80 GPUコア、512GBのユニファイドメモリを小型のMac Studioへ収めた。高性能デスクトップとしての役割は継承したが、Mac Proの6基の空きPCIeスロットは引き継いでいない。Appleが2026年3月にMac Proを廃止したため、内蔵拡張を必要とする利用者には、Thunderbolt接続機器への移行、別の計算機環境との併用、既存Mac Proの維持などが現実的な選択肢となる。

この製品史で見えてくるのは、タワー筐体の大きさよりも専用シリコンの経済性である。Mac ProがMac Studioと同じUltraを使う限り、公称上限の看板は共有される。差を作るExtremeには、2倍のコアを実装する技術が要る。さらに、その高価なパッケージを少数の販売で成立させる条件も必要だった。Bloombergはコストと需要をExtreme中止の理由に挙げ、その後、製品ラインはMac Studioへ集約された。二つの出来事は時系列で連なるが、今回の報道だけでExtreme中止をMac Pro廃止の単独原因とは断定できない。