東芝の米国子会社Toshiba International Corporation(TIC)とDIMAAG-AIは2026年9月9日、AIデータセンター向け蓄電システムの開発で協業すると発表した。東芝のチタン酸リチウム(LTO)電池「SCiB」を、DIMAAGの電力供給基盤「ZettaWatt Power Platform」に組み込む。適切な冷却を前提に10Cでの連続充放電を支え、10年以上の耐用年数を目指す計画だ。狙うのは、計算処理に伴う激しい電力需要の変化を日常的に吸収することである。その実現には、電池の高出力性能を冷却と電力制御によって持続させる必要がある。

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AIの電力需要は、量と揺れが問題になる

大規模なAI訓練では、多数のGPUが計算とデータ交換を同期して繰り返す。NVIDIAの技術解説によると、この動きが施設全体の急激な負荷変動につながる。別々の仕事を動かすサーバー群と違い、計算機が一斉に電力を使い、一斉に使用量を落とすためだ。平均の消費電力に加え、どれほど速く需要が上下するかが電源設計を左右する。

蓄電システムは、この時間的なずれを埋める。計算負荷が急増したときには電池が放電して不足分を補い、負荷が落ちたときには充電側へ回る。施設内の需要に合わせて電池が電力を出し入れすれば、外部の送電網から見た変動を和らげられる。これが負荷平滑化だ。

DIMAAGと東芝が今回組み合わせるのは、電池セルから制御までを含む仕組みである。東芝が高出力SCiBセルを供給し、DIMAAGが電池システムを設計・製造してZettaWattへ統合する。協業発表では、バックアップ電源に加え、電力需要の調整や系統安定化も用途に挙げている。

電池が担う仕事が増えるほど、蓄えられる電力量だけでは性能を判断しにくくなる。その瞬間にどれだけの電力を出し入れできるか、そして何度繰り返せるかが問われる。

10Cを繰り返すためのSCiBと冷却

SCiBは、負極にチタン酸リチウムを使うリチウムイオン電池である。炭素系の負極材をLTOに置き換えることで、高い入出力性能や長寿命を得る。今回、新しい電池材料を発明したわけではなく、すでに産業用途などで使われている電池の特性をAIインフラへ活用する協業といえる。

東芝のSCiB解説は、低温で充電しても金属リチウムが析出しないことや、繰り返しの急速充電でも劣化が少ないことを特徴として挙げる。2万回以上のサイクル寿命も示すが、特性はセルの種類と使用条件によって異なる。一般的なセルの説明を、そのまま今回のシステムの保証値へ読み替えることはできない。

10Cの「C」は、電池容量に対する充放電電流の大きさを表す。10Cの電流を一定に保つ理想的な換算では、定格容量に相当する電気量を出し入れする時間は1時間の10分の1、つまり6分となる。実際の満充電時間は制御条件にも左右されるため、この換算だけで決まらない。停電時に施設を支えられる時間や、負荷変動に反応する速さも別の指標だ。

DIMAAGはZeniusモジュールの説明でも、建設機械や港湾など、頻繁に稼働を繰り返す用途に10Cの連続充放電を位置づけている。AI向けの協業では、冷却液を流して電池を冷やす液浸冷却方式のZeniusモジュールを使う。大電流を一度流せることと、発熱を処理しながら何度も流し続けられることでは、必要な設計が変わる。

両社が「適切に設計された冷却システム」を条件に置くのは、このためだ。10Cという電気的な能力と、目標とする寿命をつなぐ部分を、モジュールの冷却設計が担う。

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800V化と蓄電は、それぞれ何を解決するか

ZettaWattは、系統電力から800V直流へつなぐモジュール型の電源構成を採る。電力変換装置と蓄電、リアルタイム制御を組み合わせ、データセンターの拡張に合わせて複数のユニットを並列に増設できる設計だ。

800V化には、大きな電力を効率よく運ぶ意味がある。同じ電力なら電圧を高くするほど必要な電流を抑えられ、配線での抵抗損失を減らしやすくなる。NVIDIAも、施設からラックまで直流でつなぐことで、重複した電力変換を減らす構想を示している。

ただし、電圧を上げてもGPUの仕事量の増減は残る。NVIDIAは800V給電と蓄電を組み合わせる設計を示し、変動の時間尺度によって役割を分けている。ミリ秒から秒の変動にはラック近くのコンデンサーなどを使い、秒から分の変化には施設側の蓄電池を使うという考え方だ。大きな電力を運ぶ仕組みと、需要の時間差を吸収する仕組みを組み合わせるのである。

この説明はAI電源の設計背景であり、ZettaWattの内部構成を示すものではない。今回の協業発表は、個々の時間尺度をどの部品が受け持つかまでは公表していない。それでも、SCiBセルの高出力性能だけで施設全体の安定性が決まるわけではなく、電力変換装置と制御の組み合わせが必要な理由は分かる。

発表の数字をどう読むか

両社は、ZettaWattが周期的なAI負荷変動を、系統側から見て1%未満に抑えると説明している。ただ、発表には割合の基準となる分母や試験時の入力波形が示されていない。性能を比較するには、どれほど大きな変動を、どの時間幅で抑えたのかを知る必要がある。

10Cは充放電率、1%未満は系統側の変動に関する企業説明、10年以上は寿命目標。完成システムの試験条件と導入情報は発表にない。

発表の数値 何を表すか 判断に必要な条件・留保
連続10Cの充電・放電 容量に対する充放電電流の大きさ 適切な冷却設計が前提。今回の発表には温度などの詳細条件がない
系統側で1%未満 周期的なAI負荷変動を平滑化するという両社の説明 分母、入力波形、評価する時間幅が示されていない
10年以上 想定する耐用年数の目標 充放電の深さや、寿命の終点とする容量保持率は未公表
2010年以降に1億個超 SCiBセル全体の出荷実績 今回のAI向けシステムの出荷数や稼働実績ではない

出典:TICの2026年9月9日付協業発表。未公表とした項目は、この発表本文で確認できないものを指す。

数値の意味を分けると、セルの量産実績が、完成システムの長期検証を代替するわけではないことが見えてくる。とくに1%未満という値は、消費電力量を99%減らすという意味ではない。電池は電力を蓄えて放出する装置であり、計算に必要なエネルギーそのものをなくすものではない。

発表には、ERCOTの低電圧ライドスルー要件に適合するとの説明もある。系統電圧が一時的に下がったときの運転継続に関わる機能だが、第三者による認証結果は示されていない。また発表末尾は、記載した能力や性能目標、用途が今後の設計・試験・検証などに左右されると明記する。現段階の数値は、こうした留保を伴う企業の説明として読む必要がある。

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実設備で問われる予備電力との両立

NVIDIAの蓄電システム設計解説は、負荷変動の吸収と、系統異常時に備える予備電力、需要応答への参加が、同じ電池の余裕を取り合い得ると指摘する。電池の充電状態を管理し、用途の優先順位を決める必要があるという。

日常の負荷平滑化で電池を使い切れば、異常時に取り出す電力が足りなくなる。一方、充電する余地がなければ、負荷が下がったときに電力を吸収しにくい。頻繁な充放電に耐えるセルを選んだうえで、電池をどの充電状態に保ち、いつ何に使うかまで設計する必要がある。

今回の発表には、商用提供の時期や導入顧客、システムの出力・蓄電容量は示されていない。価格や、冷却を含む電力損失も未公表だ。そのため、他方式より安い、設置面積を減らせる、施設全体の効率が高いといった比較はまだできない。

SCiBの高出力性能をAIの電力変動対策へつなげられるかは、実際の負荷を使った統合検証にかかる。冷却を動かし、停電への備えも残した状態で平滑化性能を維持できれば、運営者は日常の電力制御と非常時の電源確保を両立しやすくなる。