Jon Peddie Research(JPR)は2026年9月9日、同年第2四半期のPC向けグラフィックボード出荷が1,250万枚に達したと発表した。前四半期比では10%増とされ、例年は出荷が落ちる春から夏の商戦で、デスクトップCPUの減速とは逆の動きを見せた。
価格が下がって買いやすくなった結果とは説明されていない。JPRは、さらに値上がりする前に消費者が購入を急いだという仮説を示している。メモリの供給事情までたどると、出荷増をそのままPCゲーム市場の持続的な回復と受け取れない理由が見えてくる。
1,250万枚へ増えたカード出荷とCPUの減速
JPRが集計したのは、独立したGPUと専用メモリを載せる拡張ボード、AIBの出荷である。CPUに内蔵するGPUや、ノートPCに実装するGPUまで含めた市場全体の数字とは区別する必要がある。今回の発表は、PC向けカード市場に絞ったものだ。
2026年4〜6月の公表値を並べると、カードとデスクトップCPUの方向の違いがはっきりする。
| 指標 | 2026年第2四半期の出荷数 | 前四半期比 | 前年同期比 |
|---|---|---|---|
| PC向けグラフィックボード | 1,250万枚 | 10%増 | 6.6%増 |
| デスクトップPC向けCPU | 1,400万個 | 10.5%減 | 33%減 |
出典:JPRの第2四半期AIB発表。増減率は同社の公表値。
新しいデスクトップPCを作るためのCPUは減っているのに、カードは増えている。PC本体の出荷とカードの需要を同じ動きとして扱えない四半期だった。
ただし、JPRの前四半期比10%増は、過去公表枚数からの単純計算と一致しない。第1四半期の発表にある1,182万枚を使うと、(1,250÷1,182−1)×100は約5.8%となる。今回の公開発表には差の説明がなく、過去値の改訂か誤記かは確定できない。表は発表された伸び率を保ち、5.8%を正式な訂正値とは扱わない。
NVIDIAが90%を占める市場
出荷の拡大と、メーカー間の競争の変化も別に見る必要がある。JPRの公開グラフでは、2026年第2四半期のAIBシェアはNVIDIAが90%、AMDが8%、Intelが2%となった。前年同期からNVIDIAの比率は下がったものの、依然として圧倒的に大きい。
| GPUメーカー | 2025年第2四半期 | 2026年第2四半期 |
|---|---|---|
| NVIDIA | 94% | 90% |
| AMD | 6% | 8% |
| Intel | 0% | 2% |
出典:JPRのメーカー別AIBシェア図。整数に丸められた表示値で、0%は厳密な出荷ゼロを意味しない。
AMDとIntelは前年より比率を増やしたが、出荷総数の大半をNVIDIAが占める構成は続いている。直前の第1四半期も同グラフのNVIDIAは90%で、今回の出荷増が大幅なシェア交代を伴ったわけではない。
この表が測るのは、その四半期に出荷されたカードの構成である。すでに使われているPCのGPU構成や、ゲーム利用者の好みを直接示すものではない。新品の供給ではNVIDIAが強いという事実と、買い替えを待つ利用者がどれだけいるかという問いは分けて考えるべきだ。
需要が弱くてもGDDRは値上がりする
グラフィックボード向けメモリの供給制約は、第2四半期が始まる前から指摘されていた。TrendForceは3月31日の調査で、メモリ各社がHBMやサーバー用途へ生産能力を振り向けるなか、グラフィックス向けのGDDRに割り当てる生産能力が限られていると説明した。メモリコストの上昇がノートPCやゲーム機器の需要を圧迫していても、GDDRの価格はさらに上がるとの見通しだった。
買い手が減れば、必ず値下がりするとは限らない。供給側が別の用途を優先して生産量を絞れば、需要の弱さと供給不足は同時に起こる。
7月3日のTrendForceの第3四半期見通しは、その関係をさらに具体的に示した。業務向けのRTX PRO 6000 Blackwellは期待されたほどのGDDR7需要を生まず、ノートPCの出荷の弱さもGDDR6とGDDR7の需要を減らしたという。それでも、メーカーが他の主要製品へ生産能力を配分しているため、グラフィックボード向けメモリの供給は制約され、価格上昇が続いていると分析している。
つまり、カードの買い手が熱狂しているからメモリが値上がりした、と一方向に説明することはできない。カードの需要が弱まっても、メモリメーカーの生産配分によってコストが下がりにくい場合がある。これは部品市場の分析であり、日本の店頭で個別のカードがどれだけ値上がりするかを示した予測ではない。
JPRのJon Peddie氏が挙げた「さらなる値上がり前の駆け込み買い」という仮説は、こうしたコスト環境と整合する。同氏は戦争やメモリ不足、関税政策の変動が市場の期待を揺さぶったと述べ、価格上昇とともにハイエンド製品の販売が急増したと説明した。ただし、購入理由を消費者調査で確かめた結果は公開されておらず、値上がりへの不安が出荷を何枚押し上げたかは分からない。
89%の出荷比率から買い替え需要を読めるか
JPRは、デスクトップPCに対するAIBの出荷比率が89%へ上がったとも発表している。今回のカード1,250万枚をデスクトップCPU1,400万個で割ると約89.3%となり、公表比率とほぼ一致する。
この比率を「新しいデスクトップPCの89%に独立GPUが載った」と読むのは早計だ。JPRが説明するAIBの用途には、新規システムへの搭載と、すでにあるシステムのアップグレードの両方が含まれる。同じ時期に出荷されたCPUとカードが、同じPCへ組み込まれるとは限らない。
カードだけを交換する買い方なら、新しいCPUを買わずにGPU性能を上げられる。そのため、CPUの減少とカードの増加は、既存PCを更新する動きとも矛盾しない。しかし、今回の公開統計には、その用途別の枚数がない。買い替え需要が市場を牽引したと断定するには、もう一段細かい販売データが必要になる。
さらに、出荷されたカードがすべて同じ四半期に利用者へ売れたとは限らない。流通在庫に残った分と実際に購入された分を分けなければ、供給量の増加を利用者の増加へ読み替えることもできない。89%はカードとCPUの出荷の関係を把握する指標として使い、消費者の行動を説明する数字としては扱わないのが妥当だ。
駆け込みの先に残る価格負担
JPRは今回の出荷増と同時に、2025年から2030年のAIB市場について、出荷の年平均成長率をマイナス2.5%と予測している。四半期の増加を示す調査会社自身も、それが長期の拡大へつながるとは見ていない。
前倒し購入が増加の主因だったなら、将来買う予定だった人が早く購入した分だけ、後の四半期には反動が出る可能性がある。一方で、供給制約が続けば、需要が弱くなっても値下がりは進まないかもしれない。出荷の減少と価格の高止まりが両立しうる点が、買い手にとって厄介である。
次の四半期に確かめたいのは、カードの出荷数に加え、小売での販売と流通在庫がどう動くかだ。高い出荷が続いても在庫が積み上がるなら、利用者の需要が追いついていない可能性がある。実売が伴い、GDDRの供給も緩めば、出荷増が買い手にとっての入手しやすさへつながる。



