Antaresは2026年9月11日、宇宙用原子炉の実証に向け、米空軍省の宇宙調達・統合担当次官補室から1億6100万ドルの「Strategic Breakthrough」事業に採択されたと発表した。宇宙用の「R1-S」を地上で実証し、宇宙機に組み込んで打ち上げ前の飛行認証へ進める計画である。地上用マイクロ炉の開発を、宇宙で使う電源へつなぐ具体的な事業が動き出す。ただし、核反応を持続させる試験と、電力を供給する試験、宇宙での運用には、それぞれ別の検証が必要になる。
臨界、発電、飛行は別の到達点
Antaresがすでに達成したのは、実験炉「Mark-0」の初臨界だ。米エネルギー省(DOE)は6月4日、アイダホ国立研究所(INL)でゼロ出力臨界の実証に成功したと発表している。核分裂の連鎖反応が持続することを、発電を伴わない低い出力で確かめる試験であり、DOEの原子炉パイロット計画では最初の臨界達成となった。
次の「Mark-1」は発電を担う。同社は2027年、窒素を使う閉サイクルのブレイトン発電方式と原子炉を組み合わせ、6カ月を超えて運転する予定だ。閉サイクルとは作動ガスを系内で循環させる方式を指す。Antaresが以前から示してきた開発計画では、Mark-0と同じINLの試験施設を使い、原子炉の熱を電力に変えるところまで検証する。
一方、今回の宇宙向け事業が名指しする炉はR1-Sである。公表されている工程と政府の政策目標を、主体ごとに分けると次のようになる。
| 対象・主体 | 時期 | 確認できる到達点と状態 |
|---|---|---|
| AntaresのMark-0 | 2026年6月4日 | 地上でゼロ出力臨界を達成。発電実証ではない |
| AntaresのMark-1 | 2027年予定 | 発電装置と統合し、6カ月超の運転試験を計画 |
| AntaresのR1-S | 今回発表に具体的な日程なし | 核反応を伴う地上実証と宇宙機への統合を行い、飛行認証を目指す |
| NASAの月面用原子炉 | 2030年までの政策目標 | 打ち上げ準備完了。月面での運転開始とは異なる |
| 米国の軍向け宇宙用原子炉 | 2031年までの政策目標 | 資金確保を条件に、中出力炉の宇宙配備を目指す |
出典はAntaresの採択発表、DOEの臨界発表、大統領令14369、NSTM-3の第2節。2026年9月12日時点の公表内容であり、政府の目標はAntares固有の納期を示していない。
Mark-0の臨界達成とMark-1の発電試験、R1-Sの飛行認証は別の到達点であり、政府の配備目標もAntares固有の納期ではない。したがって、Mark-1の2027年試験を、そのままR1-Sの打ち上げ予定と読むことはできない。1億6100万ドルも今回の事業の公表額であり、全額の支払いが済んだという意味ではない。発表には支払い条件や費用の内訳は記されていない。
地上炉の設計を宇宙へ持ち込む
Antaresの宇宙進出には、地上炉で育てる技術を活用するという一貫した狙いがある。米政府のSBIR採択記録には、2024年の別の研究契約として121万7,133ドルが掲載されている。その計画は、地上用のR1を宇宙向けに適応させ、既存設計を使って開発を早めるというものだった。地上炉と同じ製造ラインを活用し、量産によるコスト低下を狙う考えも明記されている。
これは、宇宙専用の炉を最初から別に開発する負担を抑える戦略と読める。ただし、共通化によって実際にいくら安くなったか、開発期間がどれだけ短くなったかは、この記録からは分からない。過去の研究費と今回の採択額も、対象の異なる契約として扱う必要がある。
地上での検証手順も、その転用を考えるうえで役立つ。Antaresは2026年2月の技術説明で、熱の輸送、原子炉の核特性、発電装置を接続した全出力運転を順に検証する方針を示していた。炉心から熱交換器へ熱を運ぶ部分は、核燃料を使わず電気で加熱した試験装置でも確かめられる。同社によると、この熱輸送試験は2025年にNASAのマーシャル宇宙飛行センターで実施した。
Mark-0では、核反応の強さや制御の挙動を実測し、設計に使うシミュレーションを確かめる。Mark-1になると、熱を発生させる炉と、その熱を受け取る発電装置を一緒に動かすため、互いの変化が運転にどう影響するかまで検証対象が広がる。臨界の成功は発電への前進だが、発電システムとしての実証を代わりに済ませるものではない。
地上で制御系や熱輸送を繰り返し試せれば、宇宙向け開発にも使える知見が増える。その一方で、R1-Sにどの部品を共通利用し、何を変更するかという詳細は、今回の発表では説明されていない。
電力の自由度を広げる原子炉と、放熱の難しさ
Antaresが宇宙軍向けに挙げる用途は、宇宙機の機動、高負荷の計算処理、指向性エネルギーシステムなどである。いずれも、継続して大きな電力を使えることへの期待だ。実際の搭載機器や、その性能を実証したという発表ではない。
原子炉が推進に役立つ仕組みは、NASAの原子力電気推進の説明から理解できる。炉の熱で発電し、その電力でガス状の推進剤を電離・加速して、宇宙機を動かす。太陽光に依存しない電源を持てる点が利点になる。ただし、電力が得られても推進剤は必要で、無制限に機動できるわけではない。
さらに、原子炉を小さく作れれば宇宙機全体も小さく収まる、とは限らない。熱を電気へ変換する装置とともに、熱を宇宙へ逃がす放熱器も設計しなければならないからだ。
NASAが別途研究するMARVLは、この問題を具体的に示している。大型の原子力電気推進システムに使う放熱器を部品に分け、宇宙でロボットが組み立てる構想だ。放熱器全体をロケット先端の覆いの中に収納する制約を緩め、宇宙機の設計の自由度を高めようとしている。
MARVLはR1-Sとは別の研究であり、その大きさや組み立て方をAntaresの機体へ当てはめることはできない。それでも、宇宙用電源の評価には炉単体の性能に加え、熱の処理や打ち上げ時の収納まで含める必要があると分かる。R1-Sの出力や質量、放熱器の仕様が今回示されていない以上、完成する宇宙機の能力を数値で見積もるのはまだ早い。
政府の期限とAntaresの飛行予定
2025年12月18日付の大統領令14369は、月面と軌道での原子炉利用を掲げ、月面炉について「2030年までに打ち上げ準備を整える」という目標を置いた。2026年4月のNSTM-3も、NASAの月面炉開発と軍向けの宇宙炉計画を分けている。軍向けには、利用可能な資金を条件として2031年までの宇宙配備を目指すと記す。
Antaresは今回、政策の背景として「早ければ2028年の宇宙炉打ち上げ」に触れた。しかし、同社が引用する大統領令の原子炉に関する条項は、Antaresの2028年打ち上げを定めていない。また、月面炉の「打ち上げ準備完了」を「月面で稼働」に読み替えると、輸送や設置に必要な工程が抜け落ちる。
米国が宇宙で飛ばした核分裂炉は、NASAの説明では1965年のSNAP-10Aが唯一だ。これは放射性同位体を使う電源とは区別すべき歴史である。長い空白を埋める意義は大きいが、その意義と個別計画の完成度は分けて評価したい。
2027年のMark-1で発電装置を接続した運転がどこまで続き、R1-Sでは地上実証から宇宙機統合へ何が引き継がれるか。そこで得られる結果が、採択額を宇宙で使える電源へ変えられるかを判断する材料になる。発電と宇宙機全体の設計を実証できれば、太陽光に依存せず電力を必要とするミッションに、新たな選択肢が生まれる。



