Google Researchは8月31日、売上などの時系列データに、関連商品の販売動向や将来の販促予定を組み合わせて予測する「TimesFM-3」を発表した。複数の系列がどう連動するかをモデル内部で扱い、用途ごとの追加学習なしで予測する点が特徴だ。Googleによると、3億3000万パラメータのモデルを、実データと合成データを合わせた1兆時点超で事前学習した。需要予測に渡せる情報は増えたが、公開された重みには非商用・非本番の制限があり、性能を試す段階と業務で使う段階には隔たりがある。

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販促予定を渡すと、何を予測できるのか

Googleが示したのは、アイスクリームの販売を予測する例だ。過去の売上だけを見れば、モデルは曜日ごとの増減を将来へ延ばせる。しかし、来月のどの日に値引きをするかは、売上の履歴だけからは分からない。TimesFM-3は、こうした予定も入力として受け取る。

入力には役割の違う情報がある。複数ブランドの販売数は、一緒に予測したい「対象」だ。過去の来客数は、販売との関係を捉えるために添える「補助変数」である。専門用語では共変量と呼ぶ。さらに販促日程や休日、予測時点で入手できる天気予報は、将来の期間についても渡せる補助変数になる。

Googleの説明例では、販促予定を渡した多変量予測が、販促日に約20%の販売増を見込む。過去の販売と販促の関係を読み取り、予定のある日に予測値が上がるという例である。この20%は予測上の増加であり、導入した店舗の売上が実際に増えた割合でも、予測誤差が減った割合でもない。

販促日程を入力できると、予定を無視した予測から一歩進める。ただし、値引きが販売増をどれだけ引き起こしたかという因果効果まで、この例が証明しているわけではない。販売量の予測を、利益が最大になる値引き率へ直結させることもできない。原価や在庫の条件は、別に考える必要がある。

旧版にも補助変数対応はあった。変わったのは組み込み方

TimesFM-2.5にも、補助変数を使う手段はあった。公式リポジトリの更新履歴には、2025年10月29日にXRegによる対応を戻したと記されている。モデル本体が単一の系列を予測する設計でも、その外側に回帰処理を組み合わせれば、外部の情報を取り込める。

TimesFM-3の変化は、外部変数への初対応ではなく、複数の予測対象と補助変数をモデル内部で一緒に扱うようになった点にある。

比較項目 TimesFM-2.5 TimesFM-3
モデル本体の予測対象 単一の時系列 関連する複数の時系列を共同で予測
補助変数の取り込み 外部回帰のXRegを組み合わせて対応 過去のみの情報と、将来分もある情報をネイティブに扱う
標準の公開重み Apache-2.0 非商用・非本番用途に限定する別ライセンス
ソースコード Apache-2.0 Apache-2.0

比較は2026年9月13日に確認したGoogleのREADMETimesFM-3の発表重みのライセンスを、モデル本体・拡張・重み・コードに分けて照合したもの。旧版はXReg拡張を含み、精度や速度の実測比較ではない。APIやクラウド経由の別契約も表の対象外だ。

つまり、旧版でも外部情報を利用できた一方、今回は系列間の関係を学ぶ仕組みそのものをモデルへ組み込んでいる。複数の商品をそれぞれ独立に予測する場合と、互いの動きも参照して予測する場合の差が、設計の中心になった。

多変量予測を追加学習なしで行う流れは、Googleだけのものではない。Amazonの公式リポジトリは、2025年10月20日に公開したChronos-2について、多変量と補助変数を使ったゼロショット予測への対応を記載している。TimesFM-3は、その競争へGoogleが自社モデルの新世代を投入したものと捉えられる。

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時間と系列を交互に見て、未来の空欄を埋める

TimesFM-3は連続する32時点を「パッチ」というまとまりにし、系列ごとに値の規模をそろえてから処理する。来客数と商品の販売数では桁が違っても、それぞれの動きを扱えるようにするためだ。基礎には、従来世代と同じデコーダー型のTransformerを使う。

その内部では、時間方向と系列方向の注意機構を交互に働かせる。時間方向では、同じ系列の過去を参照して変化のパターンを捉える。系列方向では、同じ時点にある別の系列も参照し、来客数と販売数などの関係を捉える。時間に沿った変化と、複数の変数の連動を往復して処理する設計である。

将来分もある補助変数では、現在のパッチに先の既知パッチをつなげる。そのうえで、まだ分からない売上などの将来部分は空欄にし、既知の販促予定は見える状態にする。Googleは、この空欄を1回の順伝播でまとめて埋める方式を説明している。先に出した予測を次の予測へ順々に使う方式に伴う、誤差の蓄積や処理の反復を抑える狙いだ。もっとも、これを処理時間の改善率と読み替えることはできない。

出力も一つの数字に限らない。各予測時点について、10〜90パーセンタイルの9つの分位点を返す。分位点は、予測分布を所定の割合で区切る値だ。中央値を中心とする見込みと、その上下の幅を示せるため、「何個売れそうか」に加えて、予測がどれほど広がっているかも見られる。ただし、示した幅が実際のデータでどの程度当たるかは、利用先での評価が必要になる。

ベンチマーク首位を、自社の精度に読み替えない

GoogleはGIFT-Eval、FEV-Bench、TIMEの3つの公開ベンチマークで、TimesFM-3が事前学習済み基盤モデルの中で首位になったと報告している。対象は、代表値の当たり具合を見る点予測と、予測の分布を評価する確率予測の両方だ。発表図が示すのは、複数タスクを通じた平均順位である。

比較にはChronos-2やToto 2.0系、従来のTimesFM-2.5が含まれる。TimesFM-3を各系列が独立した単変量モードで動かした場合と、系列間の情報や補助変数を使う多変量モードで動かした場合も分けている。Googleの説明では、単変量でも競合に匹敵するか上回り、多変量でさらに平均順位が改善した。

この結果は、すべての予測手法や、すべての店舗・商品で最も正確だったという意味ではない。平均順位から、自社の誤差が何%減るかを計算することもできない。ここで紹介している性能はGoogleの発表に基づくもので、独立した再現試験の結果ではない。

モデルカードは、学習データの内訳も示している。FEV-Benchと重複するデータを除いたGiftEvalPretrainに加え、2023年11月までのWikipedia閲覧数や2022年末までのGoogle Trendsを利用し、合成・拡張データも加えたという。評価データとの重複に配慮した記述はあるが、それだけで未知の業務データへの適合性が決まるわけではない。

実務に近い評価では、入力を「いつ知ることができたか」が効いてくる。例えば翌日の売上を予測するなら、その時点で入手できた翌日の天気予報を使う必要がある。後から確定した実測の天気を入れれば、運用時には持てなかった情報を与えることになる。将来の情報を使えるモデルだからこそ、既知の予定と後知恵を分けた比較が欠かせない。

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公開重みを、そのまま発注判断に使えるわけではない

TimesFM-3の標準重みは、GitHubとHugging Faceから利用できる公開モデルだが、商用利用まで自由という意味ではない。GoogleのREADMEは、コードおよび2.5までの重みに適用するApache-2.0と、3.0の重みに適用する非商用ライセンスを区別している。

同ライセンスの非商用目的の定義は、社内ベンチマークやデータセットでの実験を含む一方、その結果を商業上の意思決定、顧客向け成果物、有償の製品・サービスに使わないことを条件としている。社内で動かすかどうかだけでは決まらない。予測値を実際の発注量や販促判断に回す用途は、単なる性能評価と同じ扱いにはならず、商用・本番用途には別途Googleから商用ライセンスを得る必要がある。

クラウドでの提供状況も分けて読む必要がある。8月31日の発表でGoogleは、TimesFM-3を今後数週間でBigQueryへ統合する予定を示した。9月13日に確認したAI.FORECASTの文書にはTimesFM 2.0と2.5が記載されており、この文書から3の提供開始は確認できなかった。ダウンロード版のライセンス自体も、GoogleのAPI経由では別の条件が適用され得ると記している。

TimesFM-3は、関連商品の動きや予定済みの販促を、売上予測と同じモデルへ渡せるようにした。自社の予測時点で得られるデータを使って精度を確かめ、利用形態に合う条件が整えば、売上履歴だけでは捉えにくかった予定の変化を、日々の需要予測へ取り込む選択肢になる。