中国の主要DRAMメーカーChangxin Memory Technologies (CXMT)が主張するDDR5メモリの80%という歩留まり率について、韓国メディアと業界専門家が強い疑念を示している。この論争は、急速に発展する中国の半導体産業の実態と、地政学的な緊張関係を浮き彫りにしている。
対立するCXMTの歩留まり率の主張
中国の半導体メーカーCXMTが報告したDDR5メモリの歩留まり率80%という数値は、業界内で大きな議論を呼んでいる。同社によれば、この数値は生産開始当初の50%から段階的に改善を重ねた結果であり、Samsung ElectronicsやSK hynixといった業界トップ企業が達成している80-90%の水準に匹敵する成果だとしている。CXMTは現在、中国・合肥(ホーフェイ)市に2つの製造施設を運営しており、Fab 1ではDDR4を、Fab 2ではDDR5を生産している。特にFab 2は現在月産5万枚のウェハー生産能力を持ち、2025年にはさらに5万枚の増産を計画している。
しかしながら、この主張に対して韓国のメディアや業界専門家からは強い異論が提起されている。Business Koreaの報道では、複数の業界関係者の証言を基に、CXMTの実際のDDR5歩留まり率は10-20%程度に過ぎないと指摘している。この大きな数値の乖離について、韓国側は製造装置の制約を主な根拠として挙げている。特に、先端的なDRAM製造に不可欠とされるEUVリソグラフィ装置が、2019年以降の輸出規制により中国企業には供給されていないことを重視している。
さらに注目すべき点として、半導体製造装置の保守管理の実態も浮かび上がっている。業界関係者の証言によれば、CXMTの工場に設置された製造装置は外見上は米国製であるものの、実際の保守管理には中国国内で製造された複製部品が多用されているという。この状況は、製造プロセスの安定性と最終製品の品質に影響を及ぼす可能性が指摘されている。
この歩留まり率を巡る論争は、単なる技術的な議論を超えて、急速に発展する中国の半導体産業の実態と、その競争力を評価する上での重要な指標となっている。特に、2024年12月には中国のメモリモジュールメーカーであるKingBankとGlowayが、CXMT製のDDR5チップを搭載した32GBメモリモジュールを市場投入したことで、この論争は一層の注目を集めている。
技術格差の根本的要因
半導体製造における技術力の差は、製造プロセスの微細化度に如実に表れている。現在CXMTは、DDR4製品を19ナノメートル(nm)プロセス、DDR5製品を17nmプロセスで製造している。一方、業界をリードするSamsungとSK hynixは、すでに12nmプロセスでDDR5チップの量産を実現している。この製造プロセスの世代差は、単なる数値の違いを超えて、製品の性能と製造コストに決定的な影響を及ぼしている。
特に重要なのが、先端的なリソグラフィ技術へのアクセスである。ASMLが開発した最新のHigh-NA EUVリソグラフィ装置は、DRAM製造における革新的な進歩をもたらす可能性を秘めている。同社の発表によれば、この新技術の導入により製造コストを最大30%削減できる可能性があるという。しかし、2019年以降の輸出規制により、CXMTを含む中国企業はこの重要な製造装置を入手できない状況に置かれている。この技術アクセスの制限は、製造プロセスの微細化を進める上で大きな障壁となっている。
ASMLのChristopher Fokker CEOは、この技術格差について「中国は先端分野において10-15年の遅れがある」と明確に指摘している。この評価は、単にプロセスの世代差だけでなく、製造技術の成熟度や製造ノウハウの蓄積も考慮に入れたものと考えられる。実際、半導体製造では、最新の装置を導入するだけでなく、その装置を効果的に運用するための豊富な経験と専門知識が不可欠だ。
さらに、この技術格差は製品の性能にも直接的な影響を及ぼしている。より古い世代のプロセスで製造されたチップは、同じ性能を実現する場合でも、より大きな面積と高い消費電力を必要とする傾向がある。これは製品の競争力、特にモバイル機器向けの製品において重要な課題となる。CXMTの製品は現在、主に中国国内のスマートフォンやコンピューティング機器向けOEMメーカーをターゲットとしているが、この技術格差は国際市場での競争力に大きな影響を与えている。
地政学的リスクの深化
半導体産業を取り巻く国際環境は、2025年1月に予定されているTrump政権の発足を控え、新たな転換点を迎えようとしている。特に注目すべきは、2024年12月23日に米国通商代表部(USTR)が発表した、中国の半導体産業支配を目指す行為に関する包括的な調査の開始である。この調査は通商法301条に基づくもので、中国政府による巨額の補助金を通じた生産能力拡大と、低価格半導体の供給による市場攪乱が、米国の経済安全保障を脅かしているという認識に基づいている。
この動きの背景には、Trump前政権時代から続く対中半導体規制の強化傾向がある。2017年の第一期Trump政権下で本格化した中国半導体産業への規制は、Biden政権下でも基本的な枠組みは維持されてきた。しかし、Biden政権下ではCXMTが制裁対象リストから除外されていた点が特徴的であり、この状況が新政権下で大きく変化する可能性が指摘されている。韓国の半導体業界では、第二期Trump政権下では高関税の賦課や製造装置の輸出規制が一層強化され、中国のDRAM産業の成長を抑制する方向に政策が展開されるとの見方が強まっている。
さらに注目すべきは、この規制強化が単なる対中制裁にとどまらず、グローバルな半導体サプライチェーンの再編を促す可能性である。韓国半導体産業協会のAhn Ki-hyun専務理事は、この状況を韓国企業にとっての「一生に一度のチャンス」と表現している。同氏は、Samsung Electronicsに対して「CXMTが参入できない市場により迅速に進出する」戦略を提言しており、特に第5世代高帯域幅メモリ(HBM3E)や第6世代製品(HBM4)への迅速な移行を推奨している。
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