長寿研究の第一人者Peter Attia氏が共同創業した予防医療・診断クリニック「Biograph」が、4年間のステルス運営を経て正式に始動した。年間7,500ドルからの高額な会員制サービスを通じて、高度な健康診断とデータに基づいた個別化された予防プランを提供し、健康寿命をのばすことを目指すという。
最先端技術を駆使した包括的な健康評価システム
Biographは、サンマテオに拠点を置く「世界で最も先進的な予防医療・診断クリニック」を謳う医療スタートアップである。同社は最大30種類以上の評価を通じて1,000以上のデータポイントを収集し、個々の会員に合わせた詳細なケアプランを提供している。
具体的には、動脈硬化性心血管疾患、代謝機能障害、脳の健康と神経変性疾患、癌リスクと早期発見、生活の質指標という5つの重要な健康の柱に焦点を当てた分析を行う。この包括的なアプローチにより、会員の個人的な目標や医療履歴と併せて、具体的な行動につながるインサイトを提供するとしている。
同社によれば、クリニック開設以来、会員の15%以上が癌や心血管疾患、神経変性疾患などの「緊急または生命を変えるような健康インサイト」を発見したと報告しているという。
著名な研究者と投資家が共同で創業
Biographは、「Outlive: The Science and Art of Longevity」の著者として知られるPeter Attia博士と、シリコンバレーの著名人John Hering氏によって共同設立された。
Hering氏は、サイバーセキュリティの創業者として知られ、2005年のアカデミー賞授賞式で有名人の携帯電話をスキャンしたことで悪名を馳せた人物だ。現在はVy Capitalのパートナーとして、Elon Musk氏のスタートアップに数十億ドルを投資し、選挙前にはTrump氏支持のスーパーPACに50万ドルを寄付したことでも知られている。
Hering氏は、友人であり同じくVy CapitalのパートナーであるAlexander Tamas氏の癌診断に触発されてBiographを共同設立したという。Tamas氏は自身のX(旧Twitter)で、30代後半での健康診断で甲状腺癌の早期診断を受け、それが彼の命を救った可能性が高いとし、それがHering氏にも健康診断を受けるよう促したとの経緯を述べている。
クリニックの医療面を担うのは、救急医療の医師から精密長寿ケアと研究者に転身したMichael Doney博士で、エグゼクティブメディカルディレクターとして、Biographの評価プロトコルを綿密に改良し、従来の医療アプローチを革新するとしている。
高額会員制モデルと今後の展開
Biographは現在、2つのメンバーシップレベルを提供している。
- Coreメンバーシップ:年間7,500ドル。健康状態の「時点評価」(point-in-time assessment)を提供
- Blackメンバーシップ:年間15,000ドル。より深いインサイトを提供する最上位プラン
同社は現在、サンフランシスコベイエリアで運営しており、2025年第1四半期(または今四半期中との情報もある)にニューヨーク市に2番目のクリニックを開設する計画だ。将来的にはグローバル展開も視野に入れているという。
また、同社はWebサイトの求人ページによると、AIパワードアシスタントを構築するための「創業AIエンジニア」を募集中で、テクノロジー面での強化も進めている。
成長する予防医療市場とシリコンバレーの長寿トレンド
Biographによれば、予防医療市場は2034年までに7,731億ドルに達すると予想されており、従来の治療重視の医療システムから、予防と老化の根本原因を積極的に特定するシステムへのパラダイムシフトが進行中だという。
シリコンバレーでは長寿(ロンジェビティ)が近年のホットトレンドとなっており、特に富裕層の間で、定期的な検査による疾病予防への関心が高まっている。Andreessen Horowitz支援のFunction Healthは今年20億ドルの評価額を目指し、OpenAIのSam Altman氏が支援するRetro Biosciencesは先月、10億ドルの資金調達交渉中であることも伝えられている。
Biographの投資家には、Vy Capital、Human Capital、Alpha Wave、WndrCoが名を連ね、Balaji Srinivasanなどのエンジェル投資家も参加しているが、調達金額などの詳細は明らかにされていない。
同社は2020年から静かに運営(ステルスモード)しており、このたび正式に公開されたことで、高まる予防医療需要に応える新たなプレーヤーとして注目を集めている。
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