Anthropicは、Lightspeed Venture Partnersが主導する35億ドルの資金調達を完了し、評価額が615億ドルに達したと発表した。年間収益が前年比10倍の10億ドルに成長しているこのAIスタートアップは、アジアとヨーロッパへの国際展開を加速させる計画だ。
急成長するAI企業、記録的資金調達で次なる飛躍へ
今回のシリーズE資金調達では、Lightspeed Venture Partnersが10億ドルを出資したほか、Salesforce Ventures、Cisco Investments、Fidelity Management & Research Company、General Catalyst、D1 Capital Partners、Jane Street、Menlo Ventures、Bessemer Venture Partnersなど多数の投資家が参加した。これにより、AnthropicのCrunchbase情報による総調達額は182億ドルに達した。
Anthropicの年間収益は2024年12月時点で10億ドルに到達し、前年比約10倍の成長を記録した。さらに2025年の最初の2ヶ月で収益は30%増加したと、Bloombergは報じている。この急成長は、同社のAIモデル「Claude」をAPIとして提供するサービスからの収益と、AIチャットボット「Claude」のサブスクリプション販売の増加によるものだ。
「この投資によって、人間が達成できることを拡大する、よりインテリジェントで有能なAIシステムの開発を加速できます」とAnthropicのCFOであるKrishna Rao氏は声明で述べている。「モデルトレーニングのあらゆる側面でのスケーリングにおける継続的な進歩が、知性と専門知識における画期的な進展を推進しています」
調達した資金は、次世代AIシステムの開発、計算能力の拡大、機械的解釈可能性とアライメント研究の深化、そしてアジアおよびヨーロッパへの国際展開の加速に使用される予定だ。
テックジャイアントが戦略的支援―AmazonとGoogleの巨額投資
Anthropicは重要な戦略的投資家からの支援も受けている。Amazonは2024年11月に40億ドルを追加投資し、同社へのAmazonの総投資額は80億ドルに達した。CNBCの報道によれば、Amazonは依然として少数株主であり、取締役会の席は持っていない。
この投資の一環として、Amazon Web Services(AWS)はAnthropicの「主要クラウドおよびトレーニングパートナー」となり、同社は最大のAIモデルのトレーニングと展開にAWSのTrainiumおよびInferentiaチップを使用している。さらに、AmazonはAnthropicと提携して強化版バーチャルアシスタント「Alexa+」を構築し、Anthropicのモデルが一部の機能を提供している。
また、Googleも2024年1月にAnthropicに対して10億ドル以上の新規投資に合意し、これまでの20億ドルの投資と10%の株式保有に加えて、両社間のクラウド契約を強化した。
こうした大手テック企業のバックアップを受け、Anthropicは企業向けAIソリューションの提供に注力している。現在の顧客には、Cursor、Codeium、ZoomなどのスタートアップからSnowflake、Pfizer、Thomson Reuters、Novo Nordiskといった大企業まで幅広い。
特に注目される事例として、プログラミングプラットフォームReplitはAnthropicのClaudeを「Agent」に統合して自然言語をコードに変換し、収益を10倍に増加させた。Thomson Reutersの税務プラットフォームCoCounselはClaudeを使用して税務専門家をサポートしている。また、Novo Nordiskはクリニカルスタディレポートの作成時間を12週間から10分に短縮するためにClaudeを活用している。さらに、AmazonのAlexa+にもClaudeの技術が組み込まれ、数百万の家庭とPrimeメンバーに高度なAI機能を提供している。
AI企業の評価額高騰と収益性への課題―激化する技術競争
今回の資金調達により、Anthropicは「世界で最も価値のある非公開企業の一つ」となった。同社の評価額は現在の年間収益の約58倍に相当し、従来のソフトウェア企業が通常10~20倍の収益で評価されることと比較すると、依然として極めて高い水準にある。ただし、1年前は約150倍だったことから、評価倍率は徐々に現実的な水準に近づいている。
AIスタートアップの評価額の高騰は単なるテックバブルではなく、市場における成長の価値評価の根本的な再調整を反映したものかも知れない。Anthropicのような企業が1年で収益を10倍に増加させるという急成長は、従来の評価モデルでは想定されていなかった現象だ。投資家たちは単にAIブームに乗っているだけではなく、これらの企業がいずれは評価額に見合った成長を遂げるという計算された賭けをしているのではないだろうか。。
AI業界での競争も激化している。最近の報道によれば、SoftBankはOpenAIに2,600億ドルの評価額で400億ドルを投資する最終段階にあるという。また、中国のAI企業DeepSeekはR1モデルを発表し、米国の競合他社のシステムと同様の機能を実現しながらもコストを大幅に抑えたと報じられており、これが既存プレイヤーの開発タイムラインを加速させる要因となっている。
こうした状況の中、AnthropicはClaude 3.7 SonnetとClaude Codeを最近発表した。特にSonnet 3.7はプログラミングタスク向けに最適化され、「コーディング能力において新たな水準を設定した」と同社は主張している。また、収益性向上を目指し、コンピュータを使用するエージェント、デスクトップクライアント、モバイルアプリケーションなど、新しいツールとサブスクリプション階層の開発にも焦点を当てている。
Anthropicは人材確保にも力を入れており、最近ではInstagram共同創業者のMike Krieger、OpenAI共同創業者のDurk Kingma、元OpenAIの安全研究者Jan Leikeなど、業界の著名人材を獲得している。
一方で収益性は依然として遠い目標であり、The Informationによれば、Anthropicは今年30億ドルを消費する見込みだという。OpenAIがよりコンシューマーアプリケーションの開発に焦点を移しているのに対し、AnthropicはB2Bテクノロジープロバイダーとしての位置づけを強化している。
生成AI市場が今後10年で1兆ドルに達するとの予測もあり、投資家たちはこれらの企業が最終的に評価額に見合った成長を遂げると予想している。AnthropicのCEO Dario Amodei(元OpenAIの研究VP)が2021年に同社を設立して以来、より研究に焦点を当て、安全性を重視したAI企業として自社をポジショニングしてきたが、今後は収益化と持続可能なビジネスモデルの構築が大きな課題となるだろう。
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