Appleは最新の高性能チップ「M3 Ultra」を発表した。このチップは同社がこれまで作った中で最も高性能なプロセッサであり、最大32コアのCPU、80コアのGPU、32コアのNeural Engineを搭載。さらに、パーソナルコンピュータで史上最大となる512GBのメモリ対応と、Thunderbolt 5接続によるデータ転送速度の大幅な向上を実現している。
M3 Ultraの主要スペックと特徴
M3 Ultraは、Appleが新たに発表したMac Studioの上位モデル向けに設計されたチップだ。特筆すべきは、最大32コアのCPU構成で、そのうち24コアがパフォーマンスコア、8コアが効率コアとなっている。GPUは最大80コアを搭載し、Neural Engineは32コアで構成されている。
メモリ構成は96GBからスタートし、最大512GB(0.5テラバイト以上)まで対応している。これは、Appleによれば「現在の最も先進的なワークステーション向けグラフィックカードで使われているメモリ容量を上回る」規模だ。また、メモリ帯域幅は800GB/s以上を実現している。
M3 Ultraの最大の技術的特徴は、Appleの独自技術である「UltraFusion」パッケージングアーキテクチャだ。これにより2つのM3 Maxダイを10,000以上の高速接続でリンクし、合計1,840億個のトランジスタを統合している。この技術により、システムは接続されたダイを単一のチップとして認識できる。
Thunderbolt 5への対応も大きな進化点だ。Thunderbolt 5は、Thunderbolt 4の2倍以上となる最大120Gb/sのデータ転送速度を実現している。各Thunderboltポートは独自設計のコントローラに対応し、各ポートに専用の帯域幅を供給することで「業界で最も高性能なThunderbolt 5」を実現しているとAppleは説明している。
ディスプレイ対応も強化され、最大8台のPro Display XDRを駆動できる。これは1億6,000万以上のピクセルを処理する能力に相当する。
パフォーマンス向上とAI処理能力
M3 Ultraは前世代のUltraチップと比較して大幅な性能向上を実現している。CPUパフォーマンスはM2 Ultraと比較して最大1.5倍、M1 Ultraと比較して最大1.8倍に向上。GPUパフォーマンスはさらに大きく向上し、M2 Ultraと比較して最大2倍、M1 Ultraと比較して最大2.6倍の性能を誇る。
グラフィックス処理能力も大幅に強化されている。M3 Ultraは、Dynamic Cachingやハードウェアアクセラレーテッドメッシュシェーディング、レイトレーシングといった先進的なグラフィックス技術に対応し、3Dレンダリング、ビジュアルエフェクト、ゲームなどの負荷の高い作業に適している。
メディア処理能力も向上し、M3 Maxの2倍のリソースを持つM3 Ultraは、はるかに多くのビデオ処理を同時に実行できる。具体的には、H.264、HEVC、4つのProResのエンコードとデコードのエンジンを備え、最大22ストリームの8K ProRes 422ビデオを同時に再生可能だ。
特筆すべきは、M3 UltraのAI処理能力だ。Appleによれば、M3 Ultraは「AIのために設計されている」という。CPU内のMLアクセラレータ、パワフルなGPU、Neural Engine、800GB/s以上のメモリ帯域幅を組み合わせることで、最先端のAI処理を可能にしている。具体的には、AIの専門家はM3 Ultra搭載のMac Studioを使用して、6,000億以上のパラメータを持つ大規模言語モデル(LLM)をデバイス上で直接実行できるとしている。これはAI開発のための「究極のデスクトップ」としての位置づけだ。
セキュリティ面では、Secure Enclaveがハードウェア検証によるセキュアブートやランタイムのエクスプロイト対策技術と連動し、最先端のセキュリティを提供している。
M3 UltraとM4の世代混在について
今回のMac Studioの更新では、下位モデルにM4 Maxを、上位モデルにM3 Ultraを搭載するという、一見奇妙な組み合わせが採用された。この点についてAppleは「すべてのチップ世代がUltraバージョンを持つわけではない」とArs Technicaのインタビューで説明している。これはAppleがこのような見解を公に述べた初めてのケースだ。
これまでの解析から、M4 MaxにはUltraFusionコネクタが搭載されていないため、現状ではM4 Ultraチップを作ることは物理的に不可能と言われている。AppleはMac Studioのアップグレードを待たずに行うことを選択し、Thunderbolt 5のM3アーキテクチャとの後方互換性を活かした形だ。
Ars Technicaは、AppleがUltraチップを各世代で出さない理由について、「Mac StudioのMax対Ultraの販売比率からUltraの需要を判断したのではないか」と推測している。次のUltraチップはM5世代まで登場しない可能性もありそうだ。
この戦略変更は、高性能な「Ultra」チップの開発・製造コストと実際の需要のバランスを考慮したものと考えられる。また、Mac ProとMac Studioの差別化を図る意図もあるかもしれない。
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