Microsoftは最新のWindows 11 Insider Previewビルドで、OSセットアップ時にMicrosoftアカウントでのログインを回避する一般的な手段であった「bypassnro.cmd」スクリプトを削除した。これにより、将来のWindows 11ではローカルアカウントでの初期設定がより困難になる見込みである。
Insiderビルドで判明した「bypassnro」コマンドの削除
Microsoftは、開発者向けに提供している最新のWindows 11 Insider Preview Build 26200.5516 (Dev Channel)において、重要な変更を加えた。それは、OSの初期設定プロセス(OOBE: Out-of-Box Experience)中に、インターネット接続とMicrosoftアカウントによるサインイン要求を回避するために用いられてきたコマンドプロンプトスクリプト「bypassnro.cmd」の削除である。
このbypassnro.cmdは、Windows 11 HomeおよびProエディションの新規インストール時や新しいPCのセットアップ時に、Shift + F10キーでコマンドプロンプトを呼び出し、「OOBE\BYPASSNRO」と入力することで、ネットワーク接続要求画面を迂回し、オフラインでローカルアカウントを作成できる比較的手軽な方法として、一部のユーザーやPC管理者に利用されてきた。
MicrosoftのWindows Insider ProgramリードであるAmanda Langowski氏とプリンシパルプロダクトマネージャーのBrandon LeBlanc氏は、公式ブログ投稿でこの変更について以下のように説明している。
「我々は、Windows 11のセキュリティとユーザーエクスペリエンスを向上させるため、ビルドからbypassnro.cmdスクリプトを削除しています。この変更により、すべてのユーザーがインターネット接続とMicrosoftアカウントを使用してセットアップを完了することを保証します」
Microsoftは、この変更がセキュリティとユーザー体験の向上を目的とした「機能」であり、バグ修正ではないと明言している。Microsoftアカウント利用には、Microsoft 365やOneDriveサブスクリプションへの容易なアクセス、ローカルディスクの自動暗号化と回復キーのバックアップ、PC間での設定同期といった利点があるとされる。一方で、ローカルアカウントは、通知やアップセルの機会を減らし、プライバシーを重視するユーザーや、インターネット接続がない環境でPCをセットアップする必要があるユーザーにとっては依然として重要な選択肢であった。
影響と背景:強まるMicrosoftアカウントへの誘導
この変更は、現時点ではDev ChannelのInsiderビルドにのみ適用されている。現在一般向けに提供されている安定版のWindows 11(バージョン24H2、ビルド26100番台を含む)や、より安定版に近いBeta Channel(ビルド26120番台)では、依然としてbypassnro.cmdコマンドは機能する。
しかし、Dev Channelでの変更は、将来的に一般公開されるバージョンに反映される可能性が高い。早ければ2025年秋にリリースされる可能性のある次期大型アップデート(バージョン25H2の可能性)で、この変更が適用されることも考えられる。
Microsoftは近年、Windows 11への移行において、TPM 2.0非対応の古いPCへのインストール制限強化や、Windows 10(2025年10月サポート終了予定)ユーザーへのアップグレード(または新規PC購入)を促す全画面広告の表示など、要件を厳格化する傾向にある。今回のbypassnro.cmd削除も、ユーザーをMicrosoftアカウント利用へと誘導する流れの一環と見られる。
残された代替手段
bypassnroコマンドが削除されても、Windows 11でローカルアカウントを使用するための代替手段がいくつか存在する:
1. レジストリ編集による回避策
特定のレジストリキーを追加することでbypassnro機能を復活させることが可能だ。Microsoftアカウントのサインイン画面でコマンドプロンプト(Shift + F10)を開き、以下のコマンドを入力する:
reg add HKLM\SOFTWARE\Microsoft\Windows\CurrentVersion\OOBE /v BypassNRO /t REG_DWORD /d 1 /f
shutdown /r /t 0
このコマンドを実行するとPCが再起動し、その後で再びShift + F10とOOBE\BYPASSNROコマンドを使用できるようになる。
2. サードパーティツールの使用
RufusなどのUSBブートツール(Windowsインストール用のUSBメディアを作成するソフトウェア)は、Windows 11のISOファイルからMicrosoftアカウント要件を削除したカスタムインストールメディアを作成できる。
3. unattend.xmlによる自動インストール
unattend.xmlファイル(Windowsの無人インストールを設定するXMLファイル)を使った自動インストールも可能だ。ただし、「はるかに多くの作業が必要」で「インストールイメージをゼロから作成する必要がある」という技術的ハードルがある。この方法はIT部門が複数のコンピュータをセットアップする場合には理にかなっているが、一般ユーザーには複雑すぎる可能性が高い。
Windows Centralは「Microsoftがいつまでもこれらの回避策を許容する保証はない」と警告している。将来的には、レジストリ値自体が削除されるなど、さらなる制限が加えられる可能性もある。
Microsoftアカウントとローカルアカウントのトレードオフ
Microsoftアカウントのメリット
Microsoftは一貫して、Microsoftアカウントを使用することのメリットとして以下を挙げている:
- Microsoft 365やOneDriveなどのサービスへの簡単なアクセス
- ディスクの自動暗号化と復旧キーのバックアップによるデータ保護
- 複数のPC間での設定同期
ローカルアカウント支持の理由
一方、ローカルアカウントを好むユーザーは次のような理由を挙げている:
- プライバシーへの懸念軽減(データ収集の最小化)
- Microsoftからの通知や追加サービスのセールス(アップセル)減少
- インターネット接続なしでのセットアップ可能性
- 企業環境での管理容易性
ローカルアカウントを使用すると、Windows 11がユーザーに表示する通知やアップセルの数が減るため、これがローカルアカウントを好む一つの理由とも言えるだろう。
批判とプライバシー懸念
Microsoftがこの変更を推進する本当の理由は、データ収集目的にあるのではないかとも言われている。公式には「セキュリティとユーザー体験」が理由とされているが、多くの専門家はデータ収集とエコシステム囲い込みの戦略がより大きな動機ではないかと見ている。
プライバシーを重視するユーザーにとって、この変更は特に懸念材料だ。The Vergeは「このような変更は、インターネット接続なしでOSをインストールしたいユーザーにとってプライバシー上の懸念を引き起こす」と報じている。
これらの制限とWindows 11の厳格なハードウェア要件(TPM 2.0やSecure Boot)により、最近では少なくないユーザーがLinuxベースのOSなどの代替手段を選択している状況も起こっている。特にValveがデスクトップPC向けにSteamOSをリリース予定であることも挙げられており、Microsoftの最新の動きはWindows 11の市場シェアを大幅に損なう可能性があるだろう。
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