Anthropicは4月16日、AIアシスタント「Claude」にGoogle Workspace統合とResearch機能を追加したと発表した。Gmail、カレンダー、ドキュメントとの連携により、手動ファイルアップロードなしで情報アクセスが可能となり、新たなResearch機能と合わせて、企業の業務効率を飛躍的に向上させる。
Claudeの新機能:Google Workspace連携とResearch機能とは?
今回のアップデートの核となるのは、Google Workspace連携とResearch機能という2つの新機能だ。これらは、ユーザーが持つ情報(メール、カレンダー、ドキュメント)と外部の情報(Web検索)をClaudeがシームレスに活用できるようにするものだ。

Google Workspace連携:あなたの情報をClaudeが理解
これまで、AIに特定のタスクを依頼する際には、関連ファイルをアップロードしたり、状況を細かく説明したりする必要があった。しかし、今回の連携により、Claudeはユーザーの許可に基づき、Gmail、Googleカレンダー、Google ドキュメントに安全にアクセスし、必要な情報を直接検索・参照できるようになった。
- 対象サービス: Gmail、Google カレンダー、Google ドキュメント
- 主な機能:
- メール内容の検索・要約(例:「先週の会議に関するメールを探して要約して」)
- カレンダーの予定確認・参照(例:「今日の午後の予定は?」)
- Google ドキュメント内の情報検索・活用(例:「最新の製品仕様書から関連情報を抜き出して」)
- メリット:
- ファイルの手動アップロードや繰り返し状況説明が不要に。
- ユーザーの作業文脈をClaudeが深く理解し、よりパーソナライズされた応答が可能に。
- 情報検索にかかる時間を大幅に削減。
- 引用機能: ClaudeがWorkspace内の情報(メール、ドキュメントなど)を参照した場合、その情報源を明記するインライン引用が表示される。これにより、ユーザーは情報の出所を簡単に確認でき、Claudeの応答の信頼性を検証できる。
セキュリティへの配慮:
個人や企業の機密情報が含まれるGmailやGoogleドキュメントへのアクセス許可には、当然セキュリティに関する懸念が伴う。Anthropicは、同社がユーザーデータをデフォルトでモデルのトレーニングに使用しないこと、そしてGoogle Workspaceのような外部サービスに対して厳格な認証およびアクセス制御メカニズムを実装していることを説明している。
ただし、現時点では、特定の機密性の高いメールやファイルを検索対象から除外する機能があるかは明確になっていない。
Research機能:自律的に情報を深掘り
もう一つの新機能「Research」は、Claudeの情報収集能力を新たなレベルに引き上げるものだ。単にWeb検索を行うだけでなく、Claudeは自律的なエージェントのように動作する。
- 仕組み:
- ユーザーの質問に対し、複数の検索を相互に連携させながら実行。
- 次に何を調査すべきかを自律的に判断。
- 質問の様々な角度を自動的に探求し、未解決の疑問点を体系的に処理。
- 情報源: ユーザーの内部的な作業コンテキスト(Google Workspace連携によるファイルなど)と、Web上の公開情報の両方を検索可能。
- 特徴:
- 速度と品質のバランス: Anthropicによれば、Research機能は「数分」で高品質かつ包括的な回答を提供できる。Anthropicは競合のディープリサーチ機能が最大30分かかる場合があると述べ、自社製品の速度優位性を強調している。「平均的な営業担当役員や金融サービス従業員が必要としているのは、これ(30分)ではありません」とAnthropicの広報担当者はVentureBeatの取材で述べている。
- 信頼性: 生成された回答には、情報源を簡単に確認できる引用が付与される。これにより、ユーザーはClaudeの調査結果を信頼しやすくなる。
Google Docs Cataloging:Enterprise向け高度検索
最上位プランであるClaude Enterpriseの管理者向けには、「Cataloging」という機能が提供される。これはGoogle Workspace連携をさらに強化するものだ。
- 目的: 大量の文書や複数のファイルに散在する情報に対する、Claudeの検索品質と精度を向上させる。
- 仕組み:
- 組織のGoogle Docsファイルを対象に、特殊なインデックス(情報を素早く見つけるための索引)を作成。
- 安全なRAG(Retrieval Augmented Generation)技術を活用。RAGとは、外部の知識データベースから関連情報を検索(Retrieval)し、それを基にAIが応答を生成(Generation)する技術である。
- ユーザーが特定のファイル名を指定しなくても、関連情報を効率的に検索できる。
- セキュリティ: 企業データは組織の管理下に置かれ、機密性を維持しながら正確な回答を提供する。
活用例:Claudeはどのように仕事や生活を変えるか?
Google Workspace連携とResearch機能を組み合わせることで、Claudeは様々な場面で強力なアシスタントとなる。Anthropicが提示する具体例を見てみよう。
- マーケティングチーム: ウェブから競合情報を収集しつつ、社内の製品仕様書や戦略文書を参照し、包括的な製品発売計画を迅速に作成する。
- 営業チーム: クライアントとの過去のメール履歴、会議メモ付きのカレンダー招待、最新の企業ニュースをClaudeに検索させ、詳細な事前準備資料を効率的に作成する。
- エンジニアチーム: 社内の設計文書やシステム仕様書を分析し、外部のAPIドキュメント、実装パターン、セキュリティのベストプラクティスと照らし合わせながら、既存システムと統合する技術的ソリューションを作成する。
- 大学生: 過去のコースの学習資料やノートを分析させつつ、最新の学術研究、インタラクティブな学習リソース、専門家の解説をウェブ検索させ、パーソナライズされた学習計画を作成する。
- 保護者: メールやカレンダーをスキャンして重要な予定をハイライトさせ、同時に更新された学校カレンダー、地域のイベント、天気予報などをウェブ検索させ、家族の計画に影響する可能性のある情報を把握する。
VentureBeatによると、Anthropic社内のテストでは、従業員が「通常、大量の文書やメールを苦労して調べていた時間を毎週数時間節約できた」という報告がある。また、新入社員が基本的な質問をする代わりに、Claudeに会社の予定やOKR(目標と主要な結果)の要約、関連するスタイルガイドの共有などを依頼するケースも見られたという。
競合との比較:Claudeの立ち位置
AIアシスタント市場は、OpenAIのChatGPT、MicrosoftのCopilot、GoogleのGeminiなどがしのぎを削る激戦区である。
- Google Workspace連携: Google自身のGeminiがWorkspaceと連携するのは当然だが、AnthropicはGoogleの生産性スイートと緊密に連携する方法を提供する最初の主要なサードパーティAI企業の1つとなる。OpenAIのChatGPTもGoogle Driveとは連携するが、Gmailやカレンダーまで含めた連携はClaudeが一歩リードする形だ。
- Research機能: OpenAIもChatGPTに「Deep Research」と呼ばれる同様の機能を導入しており、これはより高度な推論モデル(o3)を使用しているとされる。AnthropicのResearch機能は、現時点では速度と実用性のバランスを重視している点が特徴と言える。
- 全体的なアプローチ: Anthropicが速度、エンタープライズ(企業向け)への注力、そしてより自律的なリサーチと情報検索アプローチによって、Claudeを差別化しようとしているようだ。
利用開始方法と対象者
これらの新機能は、段階的に提供が開始されている。
- Research機能: Max、Team、Enterpriseプランのユーザー向けに、米国、日本、ブラジルで早期ベータ版として提供開始。チャット設定でResearch機能をオンにする必要がある。Proプランのユーザーにも近日中に提供予定。
- Google Workspace連携: 全ての有料プラン(Pro、Max、Team、Enterprise)のユーザー向けにベータ版として提供開始。プロファイル設定から接続できる。ただし、TeamおよびEnterpriseプランでは、個々のユーザーが接続する前に、管理者がドメイン全体でGoogle Workspaceアクセスを有効にする必要がある。
- Google Docs Cataloging: Claude Enterpriseプランの管理者のみが組織全体で有効化できる。
- Web検索: 3月に米国でローンチされたWeb検索機能は、ブラジルと日本でも利用可能になった(有料プランで自動有効化、ただし管理者の設定が必要な場合あり)。
Anthropicは、「これはClaudeをさらに優れた協力者にするためのアップデートの始まりに過ぎません」と述べており、今後数週間で利用可能なコンテンツソースの範囲を拡大し、Claudeがより深く調査できる能力を向上させる計画だ。
AIが単なる質問応答システムから、能動的に情報を収集・分析し、ユーザーのワークフローに直接統合される「協力者」へと進化する中で、Claudeの今回のアップデートは、知識労働の未来を垣間見せる重要な一歩と言えるだろう。特に「Claude Google Workspace」連携は、日常業務でGoogleのツールを多用する多くのユーザーにとって、生産性向上の大きな可能性を秘めている。
Source
- Anthropic: Claude takes research to new places