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英国Wayve、自動運転技術の開発拠点を日本に設立 – 日産との協業で次世代AIドライバーを加速

Y Kobayashi

2025年4月23日

英国発の自動運転技術スタートアップWayveが、日本市場への本格参入を発表した。同社は2025年4月22日、横浜に新たなテスト・開発センターを開設。独自の「Embodied AI(身体化されたAI)」技術を武器に、日本の複雑な道路環境でのデータ収集と、国内自動車メーカー(OEM)との連携強化を通じて、次世代の運転支援および自動運転技術の開発を加速させる狙いだ。

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横浜に新拠点、Wayveの日本戦略が始動

Wayveの日本進出は、同社にとってアジア初の拠点設立となる。横浜に開設された新センターは、東京および周辺地域での実証実験と開発活動を支えるハブとしての役割を担う。

Wayveが日本市場に注目する理由は明確だ。日本は世界有数の自動車生産国であり、革新的な自動車技術開発の歴史を持つ。さらに、Wayveの広報担当者が指摘するように、日本の「複雑な道路環境」から得られる多様な運転データは、同社のAIモデルの「汎化能力」を強化し、グローバル市場への適応性を高める上で極めて重要となる。

Wayveの共同創業者兼CEOであるAlex Kendall氏は、「日本は、信頼と卓越したエンジニアリングの伝統によって定義される、自動車イノベーションの世界的リーダーです。ここに拠点を設けることで、私たちはこれらの原則をEmbodied AIの開発に組み込みます」と述べ、日本の自動車メーカーとの協力を通じて、より安全でスマートなモビリティ技術の展開を加速させる意欲を示している。

今回の日本進出は、日産との連携発表に続く動きでもある。日産は2024年度から導入予定の次世代運転支援技術「ProPILOT」に、WayveのAIソフトウェアとLidar(ライダー:レーザー光を用いたセンサー技術)を採用する計画を明らかにしている。Wayveは他の国際的な自動車グループとも協議を継続中としており、日本市場でのさらなるパートナーシップ拡大が期待される。

Wayveを支える技術:「Embodied AI」とは何か

Wayveの技術的アプローチの核心は、「Embodied AI」と呼ばれる次世代のAIにある。これは、従来の自動運転システムが依存してきた高精細(HD)デジタルマップや、事前に詳細にプログラムされたルール(ハンドコード)に頼るのではなく、実際の運転経験とデータから「学習」することに重点を置く。

具体的には、車両に取り付けられたカメラセンサーからの情報を基に、AIが交通パターンや人間の運転挙動を学習し、状況に応じた運転判断を行う。このアプローチにより、Wayveのシステムは特定の地域や車両タイプに縛られず、新しい環境へ迅速に適応できるスケーラビリティを持つとされる。

Wayveによれば、このAI Driver Assistシステムは、現在の主流である「レベル2+」の運転支援システム(車線維持支援や自動ブレーキなど、システムが運転操作を支援するが、常にドライバーの監視が必要)を超える性能を持ち、「レベル3」(特定の条件下でシステムが全ての運転タスクを実行し、ドライバーは前方監視から解放されるが、システムからの介入要求には応じる必要がある)以上の自動運転実現への道を切り開くとしている。

実際にWayveは、米国でのテストにおいて、わずか数百時間の米国特有の走行データ学習のみで、英国での性能レベルに匹敵する能力を達成したと主張しており、その迅速な適応能力を実証している。

この学習ベースのアプローチは、高価なセンサー群や継続的なHDマップの更新・維持コストを低減できる可能性も秘めている。Wayveの目標は、自動車メーカーが比較的容易に、かつ低コストで自社車両にWayveのソフトウェアを組み込めるようにすることにある。

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SoftBank、NVIDIA、Microsoft、Uberも出資

Wayveの技術と将来性には、多くの大手企業が期待を寄せている。同社は昨年、SoftBank Groupが主導し、NVIDIA、Microsoft、Uberなどが参加したシリーズC資金調達ラウンドで、10億5000万ドル(約1600億円以上)という巨額の資金を調達した。

SoftBank Group新規事業室長でWayveの取締役も務める松井健太郎氏は、「インテリジェントでソフトウェアファーストな車両の台頭を、世界的な自動車大国である日本は受け入れています。Wayveは、グローバルでスケーラブル、かつ適応性の高いAI技術により、この移行に対する説得力のあるソリューションを提供します」とコメントし、Wayveの日本での活動が新たなパートナーシップを触媒し、日本の自動車メーカーがグローバルリーダーであり続ける一助となることに期待を示した。

また、配車サービス大手のUberもWayveへの出資者であり、今回の日本進出を歓迎している。Uber Japan K.K.のゼネラルマネージャー、山中志郎氏は、「自動運転技術の進歩は、日本の交通課題の解決に大きく貢献し、モビリティの未来を形作る上で極めて重要な役割を果たすと確信しています」と述べた。

さらに、タクシー配車アプリ「S.RIDE」を運営するS.RIDEの橋本洋平代表取締役社長CEOも、「世界最先端のモビリティテクノロジー企業であるWayve社と協業し、まずはデータ収集から、未来の革新的なモビリティサービスの開拓に取り組めることを楽しみにしています」とコメントしており、データ収集面での連携を示唆している。

自動運転業界の現状とWayveの挑戦

自動運転技術の実用化は、多くの専門家や愛好家の期待よりも長い時間を要しているのが現状だ。Tesla社の「Autopilot」は依然としてドライバーの注意を必要とし、Elon Musk CEOが完全自動運転と位置付ける「Cybercab」の生産開始は2026年と予測されている。

また、米General Motors (GM)傘下のCruiseは、2024年にロボタクシー事業の運営を停止。UberのCEOも、自動運転タクシーの商業化には高いコストが当面の障壁になると警告するなど、道のりは平坦ではない。

このような状況下で、Wayveの学習ベースでマップレス、センサー依存度を抑えたアプローチは、開発期間の短縮とコスト削減を実現し、自動運転技術の普及を加速させる可能性を秘めている。Wayveはすでに英国、米国、ドイツ、カナダでテストを実施しており、今回の日本進出により、世界5つの主要自動車市場でデータを収集・学習することになる。

Wayveは、特定の条件下での完全自動運転(レベル3以上)を目指しつつ、まずは高度な運転支援システム(レベル2+)として自動車メーカーに技術を提供していく戦略と見られる。日本の複雑な交通環境での実績を積み重ねることで、その技術の信頼性と汎用性を証明し、グローバルな競争が激化する自動運転市場でのリーダーシップ確立を目指す。


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