AIチップ開発スタートアップのTenstorrentが、次世代AIプロセッサ「Wormhole」を発表した。くわえて、AI開発者向けの製品ラインナップも明らかにし、1チップおよび2チップ構成のPCIeカードと、これらを搭載したワークステーションの販売も開始している。Wormholeプロセッサは、高性能と低価格を両立させることで、NVIDIAが席巻するAIアクセラレータ市場に新風を吹き込む可能性を秘めている。
Wormholeプロセッサの特徴と性能
Tenstorrentの新型Wormholeプロセッサは、同社独自のTensixコアを72個搭載し、108MBのSRAMを内蔵している。1GHzで動作する単一のWormholeプロセッサは、160Wの熱設計電力で262 FP8 TFLOPSの演算性能を実現する。
Wormholeプロセッサを搭載した製品ラインナップは以下の通りである:
- Wormhole n150:単一のWormholeプロセッサを搭載したPCIeカード。12GB GDDR6メモリ(288 GB/s帯域幅)を搭載し、価格は999ドル。
- Wormhole n300:2つのWormholeプロセッサを搭載したPCIeカード。24GB GDDR6メモリ(576 GB/s帯域幅)を搭載し、300Wで最大466 FP8 TFLOPSの性能を発揮する。価格は1,399ドル。
- TT-LoudBox:4枚のWormhole n300カード(計8プロセッサ)を搭載したIntel Xeonベースのワークステーション。価格は12,000ドルから。
- TT-QuietBox:4枚のWormhole n300カードを搭載し、水冷システムを採用したAMD EPYCベースの高級ワークステーション。価格は15,000ドルから。
Wormholeプロセッサの特筆すべき点は、その柔軟なスケーラビリティにある。複数のWormholeプロセッサを搭載したシステムでは、プロセッサ群が単一のユニットとして機能し、ソフトウェアからは大規模なTensixコアネットワークとして認識される。この仕組みにより、同一ワークロードの分散処理や、複数の開発者による並行利用、最大8つの異なるAIモデルの同時実行が可能となる。
Tenstorrentの最高経営責任者(CEO)であるJim Keller氏は次のように述べている:「より多くの製品を開発者の手に届けられることは常に喜ばしいことです。Wormholeカードを搭載した開発システムをリリースすることで、開発者はスケールアップし、マルチチップAIソフトウェアに取り組むことができます」。
性能面では、NVIDIAのH100に比べると見劣りするものの、価格面では大きな優位性を持つ。例えば、NVIDIAのH100カードが約30,000ドルで販売されているのに対し、Wormhole n300は1,399ドルで提供される。ただし、実際の性能比較や、複数のWormholeプロセッサを組み合わせた場合のH100との性能差については、まだ明らかになっていない。
Tenstorrentは、これらの新製品を通じてAI開発者コミュニティへの浸透を図るとともに、次世代プロセッサ「Blackhole」の開発も順調に進めていることを明らかにしている。Wormholeベースの製品は、オープンソースのTT-BudaおよびTT-Metalliumソフトウェアスタックによってサポートされ、複数の大規模言語モデル(LLM)や一般的なAIモデルに対応している。
AI市場におけるNVIDIAの独占的な地位に挑戦するTenstorrentの取り組みは、開発者に新たな選択肢を提供し、AI技術の進化を加速させる可能性を秘めている。今後の実績と市場での評価が注目される。
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