米半導体大手Qualcommが、同業のIntelのチップ設計部門の買収を検討していることが明らかになった。複数の関係者によると、QualcommはIntelの設計部門の中でも特にクライアントPC向け事業に強い関心を示しているという。この動きは、スマートフォン用チップで高い評価を得ているQualcommがPC市場への本格参入を狙う戦略の一環と見られている。
Qualcommの野心とIntelの苦境
Qualcommは、スマートフォン市場での成功を足がかりに、PC市場への進出を加速させている。同社は昨年度に358億2000万ドル(約5兆2000億円)の売上高を達成し、AI搭載PCの需要拡大を見込んで事業領域の拡大を模索している。
一方のIntelは、深刻な経営危機に直面している。同社は2023年第2四半期に過去56年間で最悪の業績を記録し、従業員の15%削減や配当の一時停止など、厳しい経営改善策を余儀なくされている。特にPC向けクライアント事業の売上高は前年比8%減の293億ドル(約4兆3000億円)まで落ち込んでおり、資金繰りに苦慮している状況だ。
Intelの経営陣は、製造計画の資金調達と現金創出に苦心しており、事業部門の売却やその他の資産の処分を検討している。このような状況下で、QualcommはIntelの窮状を利用し、同社の設計部門の一部を取得することで自社の製品ポートフォリオを強化しようとしているのではないかと見られている。
業界の大きな再編の波となるか
QualcommによるIntelのチップ設計部門買収は、半導体業界に大きな影響を与える可能性がある。Qualcommは特にクライアントPC向け設計事業に強い関心を示しており、これはPC市場での競争力強化を目指す同社の戦略と合致している。
Qualcommは近年、Windows PC市場、特にモバイル分野で大きな進展を見せている。同社のSnapdragon X EliteプロセッサーはAI機能を搭載したPCへの対応を強化しており、今後のAI PC市場の成長を見込んでいる。Intelの設計部門の獲得は、この戦略をさらに加速させる可能性がある。
一方、Intelは「PCビジネスに深くコミットしている」と述べており、核となる事業部門の売却には慎重な姿勢を示している。同社は最近、AI アプリケーション向けに優れたパフォーマンスを提供する新しいPCチップ「Lunar Lake」を発表し、AIがもたらすPC市場の活性化に期待を寄せている。
しかし、Intelの経営陣は来週の取締役会で事業縮小案を検討する予定であり、プログラマブルチップ部門Alteraの売却なども選択肢に挙がっているという。同社はまた、Biden政権に対しCHIPS法に基づく85億ドルの補助金と110億ドルの融資を要請しているとも報じられている。
業界専門家は、この状況がIntelにとって転換点となる可能性があると指摘する。Qualcommとの取引が実現すれば、両社の技術力が融合し、PC市場に新たなイノベーションをもたらす可能性がある。一方で、Intelの中核事業の一部が失われることで、同社の競争力低下を懸念する声もある。
半導体業界は今、AI時代の到来とともに大きな変革期を迎えている。QualcommによるIntelのチップ設計部門買収の可能性は、この変革の一端を示すものであり、今後の展開が注目される。両社の動向が、PC市場だけでなく、AIチップ開発競争にも大きな影響を与える可能性がありそうだ。
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