Adobeは3月18日、年次カンファレンス「Adobe Summit」において、マーケティング担当者と顧客体験を強化する「Adobe Experience Platform Agent Orchestrator」と10種類の目的特化型AIエージェントを発表した。さらに、ブランドとのパーソナライズされた対話体験を実現する「Brand Concierge」も公開し、AIを活用した顧客体験の未来像を提示した。
AIエージェントが切り開くマーケティングの新時代
Adobe Experience Platform Agent Orchestratorは、AIエージェントを構築・管理・調整するためのプラットフォームとして設計されている。Adobe Experience Platform(AEP)を基盤とし、年間1兆以上の顧客体験を活性化する同プラットフォームでは、顧客データとコンテンツを深く理解したAIエージェントが稼働する。
「Adobeには、CMOやCIO、そして組織と緊密に連携して影響力のある顧客体験を推進してきた長い歴史があります。エージェント型AIは職場変革を加速させる大きな飛躍です。Adobeの最新イノベーションは、マーケターがパーソナライゼーションをスケールさせる余力を生み出しながら、クリエイティブな発想のための時間を確保できるよう、実務担当者の生産性向上を推進します」とAdobeのExperience Cloud上級副社長であるAnjul Bhambhri氏は説明する。
今回発表された10種類のAIエージェントは、Adobe Real-Time Customer Data Platform、Adobe Experience Manager、Adobe Journey Optimizer、Adobe Customer Journey Analyticsなどの企業向けアプリケーション内で直接活用できる。各エージェントの役割は次の通りだ:
- Account Qualification Agent: B2B市場において新たな営業機会を評価・促進
- Audience Agent: クロスチャネルデータを分析し高価値オーディエンスセグメントを最適化
- Content Production Agent: ブランドガイドラインに準拠したコンテンツを自動生成
- Data Insights Agent: 組織全体からの顧客シグナルから洞察を導出
- Data Engineering Agent: データ統合、クレンジング、セキュリティ管理を自動化
- Experimentation Agent: パーソナライゼーション施策の仮説立案からシミュレーション、分析まで実施
- Journey Agent: クロスチャネル体験を効率的に調整
- Product Advisor Agent: 顧客の好みや購入履歴に基づいた製品推奨
- Site Optimization Agent: ウェブサイトの問題を自動検出・修正
- Workflow Optimization Agent: プロジェクト管理と部門間コラボレーションを最適化
特にSite Optimization Agentについて、Adobeの戦略・製品担当副社長Loni Stark氏は「多くの企業は数万ページものWebサイトを持ち、毎日リンク切れをチェックする人員を確保できません。このエージェントは事前トレーニングされており、すぐに使用可能です」と実用性を強調した。
Brand Conciergeが実現する次世代顧客体験
Adobeはさらに、ブランドがAIエージェントを設定・管理するための新アプリケーション「Brand Concierge」を発表した。これは従来のチャットボットを進化させ、より没入型で会話的な体験を提供するものだ。
Adobeの調査によると、2025年2月には生成AI由来のトラフィックが米国の小売サイトで1,200%増、旅行サイトでは1,700%増を記録。消費者がブランドとの対話型体験に価値を見出していることが明らかになっている。
Brand Conciergeはテキスト、音声、画像にわたるマルチモーダルな対話をサポートし、顧客の探索から購入決定までを支援する。AdobeのLoni Stark氏は「消費者はAIを活用した会話型体験に慣れてきており、企業はこれをアクションにつなげられます」と説明する。
この新サービスはB2C市場だけでなく、B2B市場にも価値をもたらす。一般的な製品情報の提供を超え、既存の取引関係に基づいてカスタマイズされたコンテンツを提供し、フォローアップミーティングの予約なども自動処理する。これにより、B2B営業チームは顧客とのエンゲージメントを強化できる。
業界への影響とエコシステム展開
業界アナリストのLiz Miller氏(Constellation Research)は、Adobeの今回の発表について「過去1年間のAI発表は消費者向けの『ビッグバン』アピールが多かったが、今回はビジネス成果を推進するAI活用に焦点が当たっている」と分析。特にB2B市場向けの機能を評価した。
Adobeはさらに、AIエージェントパートナーエコシステムを構築。Acxiom、AWS、IBM、Microsoft、SAP、Workdayなど大手テクノロジー企業との戦略的パートナーシップを通じて、顧客サービス、人事、企業資源計画など幅広い領域でAIエージェントの連携を実現する。
この動きはSalesforceなど競合他社のAIエージェント戦略への対抗とも見られる。顧客体験がより動的でパーソナライズされる中、AIエージェントは企業のマーケティング活動において不可欠な存在になりつつある。
Adobeの今回の発表は、AIが単なる技術ツールから、顧客体験の中核を担うビジネス基盤へと進化していることを示している。マーケティング担当者にとって、AIエージェントの活用はもはや選択肢ではなく必須スキルとなりつつある。
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