日進月歩のAIテクノロジー業界では、下手すれば毎週のように新たなサービスが生まれている。特に大手ハイテク企業は独自のAIサービスの立ち上げに躍起になっており、この開発競争において、競合他社に先んじようとリリースラッシュがここ数年続いているが、その陰でAIエンジニアが大きな犠牲を強いられていた事をCNBCは報じている。
CNBCが取材を行った、GoogleやMicrosoft、Amazonなど多くの大手ハイテク企業のAIエンジニアの話によれば、AI開発で競合他社に後れを取る事を恐れるあまり、猛スピードでサービスを開発しリリースし続けなければならないというプレッシャーを上司から強く受けているとのことだ。
CNBCは、実際に取材を行った匿名のAmazon AIエンジニアの話を掲載している。彼は、友人と週末を楽しもうとしていたところ、AIプロジェクトで週末に働くよう通知を受けたと主張している。そのエンジニアは、週末にそのプロジェクトを完了させるためのタスクに取り組んだが、その後プロジェクトは中止になったという。
休日出勤や深夜までの残業は当たり前、時にはあり得ない納期をいきなり提示される事もあり、事もあろうにそうした努力の果てに作り上げた物が、“優先順位の変更”と言う理由でお蔵入りしてしまうこともあると言う。
CNBCが取材した多くのエンジニアが異口同音にこれを主張しており、これは一企業の姿勢と言うよりは、業界全体の傾向がこのような方向に向いていることを示唆している。AI開発においては“スピード”が全てなのだ。
そして、彼らはこうした自分たちの仕事の多くが、ユーザーではなく、投資家を満足させるために集中していると感じている。
独立系ソフトウェア・エンジニアでデジタル・アーティストのMolliy Kolman氏は、AIエンジニアの仕事の多くは、ビジネス上の問題を解決したり、顧客に直接サービスを提供するためではなく、AIのためにAIに取り組んでいると指摘する。「多くの場合、自分が使いたくもないツールで、存在しない問題に対する解決策を提供するよう求められる」と、述べている。
MicrosoftのAIエンジニアは、多くの仕事は実用的な用途のない「AIの誇大広告を作ろうとしている」のだと語った。彼のチームが、大規模言語モデルを利用するよりも遥かに効率的で、安価なアルゴリズムを提案しても、“大規模言語モデルを使う”と言う目的ありきで組織が動いており、それが例え他の方法よりも非効率的であっても最優先で採用されてしまうという。AIモデルを使ったからといって、「劣った解決策」を使うのは皮肉なものだ。
長年機械学習研究に携わってきたあるエンジニアは、今日の生成AIの研究の多くは、“極端なベーパーウェアと誇大広告”だと述べている。そのエンジニアは、投資家から資金を獲得するためにチームの実際の仕事とは関係ない、“見せるためだけのWebアプリ”を作った例を挙げた。プレゼンテーションの後、「私たちは二度とそれに手をつけなかった」と彼は述べている。
だが特に業界全体が投資家の要求を満たし、利益を確保する為にレイオフを実施するコスト削減モードにあり、全体的に人員も不足している中で、同時に開発スピードを求める事には限界がある。実際にGoogleは開発を急ぎすぎ、ChatGPTのライバルとして大々的に発表したBard(現・Gemini)チャットボットのデビューで盛大な失敗をやらかしたことは有名だろう。
競争圧力、スケジュールの短縮や人員不足による長時間労働、やりがいを感じられないかも知れないと言う不安により、AIエンジニアは燃え尽き症候群に陥っているという。実際に、AI部門からの転職を行ったり、同僚が転職したのを見たと、CNBCの取材を受けた人々は述べている。
AIが急速に進歩する時代において、「どこに時間を投資する価値があるのかを見極めるのは難しい。そしてそれは、何かを信じることが難しくなるという意味で、燃え尽き症候群を非常に助長する」と、独立系ソフトウェア・エンジニアでデジタル・アーティストのMolliy Kolman氏は言い、「私にとって最大のことは、それがもうクールでも楽しくもないということだと思う」と付け加えた。
Microsoftの担当者はCNBCの取材に対してはコメントを発していない。
Amazonの広報担当者は、同社は「顧客の体験を刷新し、向上させる、有用で信頼性が高く、安全な生成AIイノベーションの構築と展開に注力している」と述べた。広報担当者は、上記の匿名エンジニアの報告を否定せず、「”AIに携わるAmazonの全従業員の経験を特徴づけるために、一従業員の逸話を用いるのは不正確で誤解を招く」とだけ述べている。
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