AMDは米ラスベガスで開催中のCES 2025において、次世代グラフィックスアーキテクチャ「RDNA 4」と、これを採用する新型GPU「Radeon RX 9070」シリーズを発表した。4nmプロセスノードの採用やAI処理能力の強化など、複数の革新的な機能を特徴とする新製品は、2025年第1四半期の市場投入を予定している。
新世代に向けたアーキテクチャの刷新
RDNA 4は、AMDのグラフィックス技術における重要な進化を象徴する製品となる。最も基本的な変更点として、製造プロセスがTSMCの4nmプロセスノードへと移行された。これは前世代のRDNA 3で採用されていた5nm/6nmプロセスからの微細化を意味し、より高い電力効率と性能密度の実現を可能にしている。
アーキテクチャの中核を成すコンピュートユニット(CU)については、AMDは「大幅な」アーキテクチャ変更を実施したとしている。具体的には、命令実行効率(IPC)の向上と動作周波数の引き上げが図られており、これによってRDNA 3と同じCU数でもより高い性能を実現できる設計となっている。参考として、RDNA 3世代のGPUは一般的に2.1GHzから2.3GHz程度のゲームクロックで動作していたが、RDNA 4ではこれを上回る動作周波数が期待される。
レイトレーシング処理については、第3世代となるレイトレーシングアクセラレータを搭載。これまでの世代で培った技術的知見を活かし、リアルタイムレイトレーシングの処理効率を向上させている。また、第2世代Radiance DisplayEngineの採用により、ディスプレイ接続機能も強化されている。
特筆すべきは、AI処理能力の大幅な強化だ。AMDは今回、第2世代AIアクセラレータを搭載し、これを「大規模な」アーキテクチャ変更と表現している。これはAMDにとって重要な転換点と言える。というのも、同社のデータセンター向けCDNAアーキテクチャではすでに数年前からテンサー処理ユニットを搭載していたものの、コンシューマー向けGPUでのAI処理能力の本格的な強化は今回が初めてとなるためだ。
メディアエンコード機能も大幅に改善されている。特にH.264エンコードの画質向上は注目に値する。AMDが公開した技術資料によると、『Borderlands 3』、『Far Cry 6』、『Watch Dogs Legion』といったゲームタイトルにおいて、1080pおよび4K解像度でのVMAF品質スコアが前世代から顕著な向上を示している。H.264はAMDのメディアエンコーダにとって長年の課題であったため、この改善は特に重要な進展と言える。
また、RDNA 4では前世代で採用されていたGCD(Graphics Compute Die)とMCD(Memory Cache Die)を分離するチップレット設計からの変更が示唆されている。新設計では単一のモノリシック構造を採用する可能性が高く、これによってチップ間通信のオーバーヘッドを削減し、さらなる性能向上を図れる可能性がある。ただし、この点については現時点でAMDからの正式な確認は得られていない。
製品ラインナップと市場ポジショニング
今回発表された製品ラインナップは以下の通りだ:
グラフィックボード | GPU | コア数 | クロック周波数 | メモリ容量 | TBP |
---|---|---|---|---|---|
Radeon RX 9070 XT | Navi 48 @ 4nm | 不明 | 不明 | 16 GB GDDR6 | 不明 |
Radeon RX 9070 | Navi 48 @ 4nm | 不明 | 不明 | 16 GB GDDR6 | 不明 |
Radeon RX 9060 XT | Navi 44 @ 4nm | 不明 | 不明 | 8 GB GDDR6? | 不明 |
Radeon RX 9060 | Navi 44 @ 4nm | 不明 | 不明 | 8 GB GDDR6? | 不明 |
- Radeon RX 9070 XT:RTX 4070 Ti相当の性能を目指すハイエンドモデル
- Radeon RX 9070:RTX 4070クラスをターゲットとする標準モデル
- Radeon RX 9060シリーズ:後日発表予定の主力ミッドレンジモデル
製品名称については、競合製品との比較を容易にするため、NVIDIAの命名規則に近い形での刷新を図っている。「90」はRyzen 9000シリーズとの整合性を、「70」や「60」は性能帯の位置づけを示している。
FSR 4:次世代アップスケーリング技術の導入
AMDは今回同時にAMD FidelityFX™ Super Resolution (FSR)のバージョン4となる「FSR 4」を発表した。今回のアップデートは、AMDにとっては記念碑的な技術革新となる。これまでのFSRシリーズとは一線を画し、初めて完全な機械学習ベースのアップスケーリング技術を採用したからだ。この進化は、NVIDIAのDLSSやIntelのXeSSと同様のアプローチを取ることで、高品質なアップスケーリングの実現を目指すものだ。
技術的な核心となるのは、RDNA 4アーキテクチャに搭載された第2世代AIアクセラレータの活用である。これらの専用ハードウェアを効果的に使用することで、特に4K解像度におけるアップスケーリング品質の向上を実現している。AMDによれば、FSR 4は単なる画質の向上だけでなく、パフォーマンスの改善も同時に達成しているという。これは、機械学習アルゴリズムの採用により、より効率的な処理が可能になったためと考えられる。
特筆すべき特徴として、既存のFSR 3.1対応ゲームとの互換性がある。AMDの技術資料に記載された興味深い脚注によると、FSR 3.1が統合されている既存のゲームに対して、Radeon RX 9070シリーズのGPUを使用することで自動的にFSR 4へのアップグレードが可能になるとのことだ。この機能は、新技術の普及における重要な戦略となる可能性を秘めている。というのも、FSR 3.1はすでに約50のゲームタイトルでサポートされており、これらが即座にFSR 4の恩恵を受けられる可能性があるためだ。
さらに、FSR 4はフレーム生成による高性能化とAnti-Lag 2による低レイテンシー化も実現している。これらの機能は、特に競技性の高いゲームにおいて重要な意味を持つ。新作『Call of Duty: Black Ops 6』が主要な対応タイトルとして発表されているが、それ以外の多くのFSR 3.1対応タイトルも、新しいRDNA 4 GPUさえあれば、FSR 4の恩恵を受けられる可能性がある。
ただし、現時点ではFSR 4がRDNA 4専用の機能となるのか、あるいは以前のFSRバージョンのように幅広いGPUでの利用が可能になるのかは明確になっていない。これは、機械学習処理に特化したハードウェアの要件と深く関連する問題だ。また、画質や性能の具体的な改善度合いについても、実際のデモンストレーションはまだ公開されていない。
この技術の成功は、ゲーム開発者のサポート次第という面も大きい。しかし、既存のFSR 3.1対応タイトルへの自動アップグレード機能が実現すれば、新技術の普及における大きな障壁の一つが取り除かれることになる。これにより、NVIDIAのDLSSが長年保持してきたゲームサポート面での優位性に対して、AMDが効果的な対抗策を打ち出せる可能性が出てきた。
製造パートナーと市場展開
ASUS、ASRock、Gigabyte、PowerColor、XFX、ACER、Sapphire、Yeston、Vastarmorといった主要パートナーが製品の製造を担当。ただし、MSIについては、AMDとの関係性の問題により、RDNA 4製品の製造には参画しないことが明らかになっている。
今後の展望
AMDは具体的な性能数値や価格設定については明らかにしていないものの、メインストリーム市場での競争力強化を重視する戦略を示唆している。特に、AIワークロードの処理能力とレイトレーシング性能の向上は、近年のゲーミングGPU市場で重要性を増している要素であり、これらの強化はAMDの市場競争力向上に寄与すると考えられる。
具体的な製品仕様や性能については、今後数週間のうちに明らかになる見通しだ。
コメント