AMD Ryzen 9000シリーズプロセッサに新たな展開だ。高性能ノートPC向けに先行導入されたZen 5アーキテクチャを採用したデスクトップCPUが、当初期待されていたほどのゲーミングパフォーマンスを示さなかったことを受け、AMDが包括的な対応策を発表した。これによれば、最適化パッチ後のAMD Ryzen 9000シリーズは今後ゲーミングパフォーマンスの向上が期待出来るという。
Microsoftと協力し最適化パッチを開発
AMDは、Ryzen 9000シリーズがコンテンツ制作、生産性、AI応用において優れたパフォーマンスを発揮していることを強調しつつ、ゲーミング性能に関する懸念に対して真摯に向き合う姿勢を示した。同社の内部テストでは、1080pゲーミングにおいて前世代比9%、競合製品比6%の性能向上を達成していたにもかかわらず、外部レビューではこの結果が再現されなかった点に焦点を当てている。
この性能差の背景には、現代のハイパフォーマンスPC環境における複雑な要因が存在する。AMDは、テストスイートの構成、メモリ設定、電力プロファイル、Windows仮想化ベースのセキュリティ(VBS)の有効化状態など、複数の変数が結果に影響を与えていると分析している。特に注目すべきは、Zen 5アーキテクチャに搭載された拡張された分岐予測機能が、標準のWindowsテスト環境では十分に活用されていなかった点である。
これらの知見を踏まえ、AMDは現在のRyzen 9000シリーズの実力について、より詳細な性能指標を提示した。生産性とクリエイティブワークロードでは前世代比約10%の向上、AI関連タスクでは約25%の向上、そしてゲーミングでは5-8%の向上を達成しているという。さらに、競合製品と比較した場合、生産性とクリエイティブアプリケーションで二桁のリード、AI関連タスクで約30%のリードを主張している。
しかし、AMDの対応はこれにとどまらない。Microsoftとの協力により、Zen 5アーキテクチャの潜在能力を最大限に引き出すための最適化パッチの開発を進めている。この更新プログラムは、Windows 11のバージョン24H2(ビルド26100)を通じて提供される予定で、一部のゲームタイトルでは最大13%のパフォーマンス向上が期待されている。
具体的な改善例としては以下の表の通りだ。『Far Cry 6』では13%もの改善が見られるという。
Ryzen 9 9950X 24H2 | Ryzen 9 9950X 23H2 | パフォーマンス改善率 | |
---|---|---|---|
Far Cry 6 | 183 | 162 | +13% |
Cyberpunk 2077 | 200 | 188 | +7% |
Hitman 3 | 358 | 347 | +3% |
Watch Dogs: Legion | 165 | 165 | 変化なし |
Cinebench 2024シングルスレッド | 140 | 140 | 変化なし |
Procyon Office | 10,288 | 9,829 | +6% |
この最適化は主にZen 5アーキテクチャを対象としているが、AMDによれば、Zen 4およびZen 3アーキテクチャを採用した旧世代のプロセッサにも恩恵をもたらすと予想されている。
AMDは、この取り組みをさらに発展させ、近い将来すべてのWindows 11ユーザーに最適化プログラムを提供する計画を明らかにしている。同時に、ユーザーコミュニティからのフィードバックを積極的に求め、それらの意見を今後のファームウェアアップデートに反映させていく方針を示している。
この一連の対応は、AMDがハイエンドCPU市場での競争力を維持・強化する上で極めて重要な意味を持つ。初期レビューで指摘された課題に迅速かつ透明性をもって対応することで、Ryzen 9000シリーズに対する信頼性を高め、潜在的な購買層の懸念を払拭する狙いがある。
また、この事例は、現代のハイパフォーマンスコンピューティング環境における性能評価の複雑さと、ソフトウェア最適化の重要性を浮き彫りにしている。ハードウェアの潜在能力を最大限に引き出すためには、チップメーカー、OSベンダー、そしてエンドユーザーコミュニティの緊密な協力が不可欠であることを示した事例と言えるだろう。
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