AMDの最新ゲーミングプロセッサーRyzen 7 9800X3Dが発売直後から予想を上回る人気を博している。米国および欧州の主要小売店で初日に完売となり、一部の転売業者がメーカー希望小売価格479ドルの3倍以上となる1,500ドルでの販売を試みる異常事態となっている。この状況は、前世代モデルで起きた品薄状態をさらに上回る規模となっている。
世界的な供給不足と小売店の対応
AMD Ryzen 7 9800X3Dは、発売からわずか24時間で、Amazon、Newegg、Best Buy、B&H Photo、Walmartといった米国の主要オンライン小売店の在庫が完売状態となった。実店舗展開するMicro Centerでは、フロリダ州マイアミ、カリフォルニア州タスティン、イリノイ州シカゴなど一部店舗で在庫を確保しているものの、ダラス、ヒューストン、デンバー、ニューヨーク州フラッシングなど多くの店舗で品切れが発生している。
欧州市場の状況はさらに深刻だ。ドイツではArlt、Alternate、Alza、Caseking、Hardwarecamp24、Mindfactoryなど主要な小売店で在庫が枯渇。Mindfactoryは予約注文の受付を停止し、次回入荷分についても予約で完売となる事態に発展している。
イギリスでもScanやOverclockers UKが11月末から12月までの入荷待ち状態となっており、Computer Universeなど一部の小売店で498ユーロでの販売が確認されているのみとなっている。
この異常な需要の高さを示す象徴として、AMD上級副社長のJack Huynhが小売店の前に形成された行列の写真をソーシャルメディアで公開。さらにAMDのCEOであるLisa Su自身が一部の「特別なパートナー」向けにプロセッサーへの署名を行うなど、同社も今回の人気ぶりを積極的にアピールしている。
圧倒的な性能優位と市場での評価
9800X3Dへの異常な需要は、その卓越した性能に裏付けられている。AMDが独自に開発したV-cache技術を更に推し進めた「次世代の3D V-Cache技術」を搭載したこのプロセッサーは、前世代モデルのRyzen 7 7800X3Dと比較して約15%の性能向上を達成している。これは、Ryzen 7 5800X3DからRyzen 7 7800X3Dへの世代間性能向上と同等の飛躍だ。
さらに注目すべきは、競合製品との圧倒的な性能差である。Intel Core i9-14900Kに対して42%、最新のCore Ultra 9 285Kと比較して60%もの性能優位性を示しており、ゲーミング用途において「競合が存在しない」とまで評される状況となっている。実際、PCWorldの専門家らは「9800X3DはIntelの最高峰製品を完全に圧倒している」と評している。
この状況を受けて転売市場では価格が急騰している。eBayでは多くの出品が650〜750ドル台で取引されているが、「Buy It Now」価格では999ドルの出品が相次ぎ、一部では1,500ドルという極端な価格設定も確認されている。さらに懸念されるのは、これらの高額出品の中には実際の製品を持たない予約転売も含まれているという点だ。
Xenospectrum’s Take
今回の9800X3Dの異例の人気は、AMDの製品戦略における重要な転換点となる可能性を秘めている。通常版のRyzen 9000シリーズが期待ほどの反響を得られず、発売直後から値引きを余儀なくされた中で、V-cache搭載モデルへの需要が予想を大きく上回ったことは、ゲーミング市場におけるAMDの新たな競争優位性を如実に示している。
特筆すべきは、この製品が従来のRyzen 7000シリーズと同じAM5ソケットを採用していることだ。これにより、既存のマザーボードとの互換性が確保され、アップグレード需要の受け皿となっている。しかし、Ryzen 7000シリーズの発売から3ヶ月という異例の早さでの投入は、限定的な生産量を示唆している可能性もある。
現在の供給不足が長期化すれば、年末商戦でのシェア拡大機会を逃す恐れがある。Neweggが追加出荷を予告しているように、今後数週間での供給状況改善が期待されるが、AMD本社の迅速な生産体制強化が不可欠だろう。
日本での発売は11月15日が予定されているが、同様に品不足になることが予想されそうだ。消費者にとっては、現時点での転売価格での購入は推奨できない。チップの供給不足は一時的なものであり、正規価格での入手機会は確実に訪れる。また、来年1月のCESでは上位モデルとなるRyzen 9 9950X3DとRyzen 9 9900X3Dの発表も予告されており、より幅広い選択肢が提供される見込みだ。
Sources
コメント