AMDの次世代ハイエンドCPU、Ryzen 9000X3Dシリーズの性能の詳細が明らかになった。MSIの工場見学ツアーにおいて、ドイツのテクノロジーメディアHardwareluxxが偶然にも未発表の情報を入手した。この「うっかりリーク」により、いまだ噂の段階に過ぎなかったRyzen 9000X3Dシリーズの存在が公になり、その性能の一部も明るみに出たわけだ。
Ryzen 9000X3Dシリーズの概要
リークされた情報によると、Ryzen 9000X3Dシリーズには少なくとも2つのモデルが存在する。8コア16スレッドの「Ryzen 7 9800X3D」と、16コア32スレッドの「Ryzen 9 9950X3D」だ。これらのCPUは、AMDの最新アーキテクチャ「Zen 5」を採用し、3D V-Cacheテクノロジーを搭載している。
Ryzen 7 9800X3Dは、32MBのL3キャッシュに加え、64MBの3D V-Cacheを搭載し、合計96MBという大容量のL3キャッシュを実現。さらに8MBのL2キャッシュも備える。一方、上位モデルのRyzen 9 9950X3Dは、64MBのL3キャッシュに64MBの3D V-Cacheを追加し、驚異の128MB L3キャッシュを達成。L2キャッシュも16MBと、まさに「キャッシュモンスター」と呼ぶにふさわしい仕様だ。
このような大容量キャッシュは、特にゲーミング性能の向上に大きく寄与すると考えられている。しかし、果たしてその効果は期待通りのものなのだろうか。
Ryzen 9000X3Dシリーズの性能比較:前世代および競合他社との差
MSIが実施した初期テストによると、Ryzen 7 9800X3Dは前世代のRyzen 7 7800X3Dと比較して、『Far Cry 6』で11%、『Shadow of the Tomb Raider』で4%、『Black Myth: Wukong』で2%の性能向上を示した。一方、Ryzen 9 9950X3Dは、Ryzen 9 7950X3Dに対して『Far Cry 6』で13%、『Shadow of the Tomb Raider』と『Black Myth: Wukong』ではそれぞれ2%の性能向上を達成している。
しかし、これらの数字を見ると、ある種の「物足りなさ」を感じざるを得ない。特に『Black Myth: Wukong』と『Shadow of the Tomb Raider』における2%という微増は、新世代CPUとしてはいささか寂しい結果だ。もっとも、MSIは「PR用サンプルや製品版チップでは、さらなる性能向上が期待される」と注記しており、最終的な製品ではより良好な結果が得られる可能性は残されている。
興味深いのは、Cinebench R23を使用したシンセティックベンチマークの結果だ。以前のリークでは、Ryzen 7 9800X3Dは、シングルコアで24%、マルチコアで約35%の性能向上を示した。Ryzen 9 9950X3Dも、シングルコアで11%、マルチコアで18%の向上を達成している。今回のMSIのリークでもこれに似た結果を示しており、Ryzen 7 9800X3Dは、シングルコアで18%、マルチコアで28%の性能向上を示した。Ryzen 9 9950X3Dも、シングルコアで9%、マルチコアで16%の向上を達成している。これらの数字は、Zen 5アーキテクチャの真の潜在能力を示唆しているのかもしれない。
また、競合他社との比較も見逃せない。Intelは既に、同社の次世代CPUであるCore Ultra 200Sシリーズが、AMDのRyzen 7000X3Dシリーズと比べて5%遅いことを認めている。この事実を踏まえると、Ryzen 9000X3Dシリーズは、Core Ultra 200Sシリーズに対して10〜15%のリードを取る可能性がある。
市場投入時期
AMDの新製品投入スケジュールも明らかになった。Ryzen 7 9800X3Dが最初に市場に登場する予定で、2024年10月25日に発表され、11月の第1週には小売店頭に並ぶという。これは、Intelの競合製品であるArrow Lake「Core Ultra 200」の小売発売日(10月24日)のわずか1日後だ。AMDはあえてライバルの新製品発売にぶつけてきた可能性が高い。
一方、上位モデルのRyzen 9 9950X3Dは、2025年の早期に発表され、第1四半期末には発売される見込みだ。
この戦略的なタイミングは、AMDがIntelとの競争を強く意識していることの表れだろう。Ryzen 7 9800X3Dを先行して市場に投入することで、Intelの新製品の風向きを見極めつつ、より強力なRyzen 9 9950X3Dで最終的な勝利を狙う──そんなAMDの思惑が透けて見える。
しかし、性能面での優位性が限定的であることを考えると、AMDが真の勝利を収めるためには、価格戦略が鍵を握ることになるだろう。Intelとの価格差をどの程度に設定するのか、あるいは同等の価格帯で勝負するのか。AMDの判断が、PC業界全体に大きな影響を与えることは間違いない。
Xenospectrum’s Take
AMDのRyzen 9000X3Dシリーズは、確かに前世代から性能向上を果たしている。しかし、その向上幅は必ずしも「革命的」とは言えないものだ。特にゲーミング性能において、2〜4%の向上では、多くのユーザーが「アップグレードの価値」を見出すのは難しいかもしれない。
一方で、Cinebench R23のような合成ベンチマークでの大幅な性能向上は注目に値する。これは、Zen 5アーキテクチャが持つ潜在能力の高さを示唆している。問題は、なぜこの潜在能力がゲーミング性能に十分に反映されていないのかということだ。
最終的な製品版では更なる性能向上が期待されるとはいえ、AMDには「3D V-Cache」技術の真価を証明するプレッシャーがかかっているだろう。この技術が本当にゲーミング性能の決定的な優位性をもたらすのか、それともマーケティング上の差別化要素に過ぎないのか、注目したいところだ。
また、IntelのCore Ultra 200Sシリーズとの競争も見逃せない。AMDが10〜15%のリードを取れるという予測は魅力的だが、Intelも黙っていないはずだ。両社の競争が、最終的にはユーザーに利益をもたらすことを期待したい。
Ryzen 9000X3Dシリーズは確かに「進化」を遂げているが、「革命」には至っていない。AMDが真の勝利を収めるためには、最終製品での更なる性能向上と、魅力的な価格設定が不可欠だろう。
Source
- HardwareLuxx: Wie ein Mainboard das Licht der Welt erblickt
コメント